表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/35

プロローグ 未読のメール



 平日 PM七時五十分 黒澤家


 とある一軒家の廊下。

 靴を脱いで、そろえる間もなく足早に廊下を歩いていく人影があった。

 彼は学校から帰ってきたばかりだ。

 教師の手伝いを押し付けられ、居残りをしていたので、本来の帰宅時間よりも遅くなってしまっていた。


 本来ならこの時間よりももっと前に帰宅していなければならなかったのだが、何も知らない者達を責めても仕方がない。

 焦燥感に突き動かされるまま、彼は家の中を進んでいく。


 二階にある彼の自室へ向かうが、途中で両親の話し声が耳に入った。

 電子レンジとエアコンがどうのこうのという話だ。


 いつもなら耳を澄ませる所だが、彼はそれらを無視して、自室へ飛び込む。


 室内に飛び込む勢いは、廊下から足早にやってきたままだ。


 人影の主は、部屋の隅にある机へと歩み寄った。

 そして、息吐く暇もなく、手早い動作でそこに置かれていたパソコンを立ち上げた。


 その際に、『三年前の未帰還者の情報』と書かれたメモがパソコンデスクの上から滑り落ちたが、れに対して起こすアクションはなかった。


 人影がいる室内は、一般的な男子学生の部屋にしては少しばかり物が少なく、整理整頓され過ぎている。

 が、住人の几帳面で無駄を嫌う性格を考えれば、納得のいく部屋に見えるだろう。


 パソコンでの作業が行われている中、机の横に置かれている鏡に、画面の光に照らされた青年の顔が映り込んだ。


 そこにあるのは黒髪に黒い瞳をした十代後半くらいの青年の顔。


 表情は、部屋に入って来たところから変わらないまま。


 初対面の人がこの場にいたなら、間違いなく何を考えているのか分からない顔だと言っただろう。


 事実、彼の周囲にいる親しい者達も、彼の内心を測りかねる時があった。


 そんな特徴もあってか、青年は、どこか人を寄せつけ難い雰囲気を纏っているのが常だった。


 しかし……。


「これなら、何とか……」


 パソコン画面を覗き込みながらキーボードを叩き続けていた青年は、その表情に僅かに安堵の感情を滲ませる。


 人影は流れる様な作業で、立ち上げたばかりのパソコンをシャットダウンさせ、結果を見届けないまま次の動作へ。


 机の隅に置かれた無骨なゴーグル型の装置を手に取って、ベッドの方へと向かって行った。


 途中、部屋の壁にかかっている時計を見て、わずかに眉根を寄せた人影の目的は、友人を助ける事だった。


「間に合えば良いんだが……」


 ここに、普段から付き合いのある友人がいたならば、おそらく目を見開いて驚いた顔をした事だろう。


 その人物は突発的なトラブルが起こっても、人前で動揺したり悲嘆や焦燥の感情を表に出した事が無かったからだ。


 人影は、ベッドの上で楽な姿勢をとった後、ゴーグルをはめて目を閉じる。


 そして、


「パソコンのメールくらいこまめに確認しろ」


 若干の恨めしさを呟きに込めながら、手探りでゴーグルのスイッチを入れた。


 その瞬間、人影の意識は現実世界から遠ざかり、別の世界へと隔離される。


 広い電子の海を泳ぎながら辿り着いたその先は、クリエイト・オンライン。


 錬金術と剣術を駆使しながら世界を駆け抜ける世界、仮想現実の戦場だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ