第3話「これはゲームじゃなく、現実なんだ」
冒険者ギルド。
中は酒場と併設されており、色んな冒険者たちが一山当てようと集う場所。
キミの冒険はここから始まる。なんて説明だったかな。
依頼を受けれる人数が決まっているから、いつも依頼の取り合いでにぎわっている場所だが。
どうやら、今日はそんな事無いようだ。
ギルドに居る連中は入ってきた俺にチラリと目線を向けるが、即座に興味が失ったようで、すぐに視線を戻している。
いつもは受付嬢を取り囲むように人が居るんだけど、空いてるようだ。早速話を聞くことにした。
「すまない。ステータスウィンドウを開くことも、ログアウトする事も出来ないんだ。GMコールに繋いでもらえないか?」
「はい?」
いつもと変わらず笑みを絶やさずも「何を言ってるんだコイツ?」という感じで首を傾げる受付嬢。
やっぱり、ダメなのか?
誰に聞いても、何故か話が通じない。
それじゃあここは、本当に現実なのか? そんな馬鹿な。
きっと何かの間違いだ。
「おい。その辺にしておけ」
なおも食い下がろうとする俺に、背中から剣を向けられていた。
俺の頬をかすめる様に、突き付けられている。というかかすっているし!?
たらりと一滴に雫が頬を流れる。血だ。
VRだからダメージを受けても血は出ない。なのに俺の頬からは血が流れている。
あぁそうか。俺はやっと納得した。
これはゲームじゃなく、現実なんだと。
「えっ、あっ。あのごめんなさい。本当に当てるつもりは」
剣の主はどうやら女性のようだ。ハスキーがかった声で慌てて謝罪している。
いやいや、ちょっと勘弁してくれよ。俺さっき刺されたばかりなんだけど。
ガクガク震える足を必死に隠しながら振り返ってみると、そこには誰も居なかった。
「あれ?」
「ここだ!」
視線を下げる。あっ、居た。
声の主は、俺の胸元くらいまでの身長しかない少女だった。
日本人男性の平均身長170センチしかない俺でも小さいと思えるくらいだ。
「今小さいと思っただろ!?」
「うん」
だって小さいし。
その少女はショートカットの黒髪で、パッチリとした目には怒りの色が宿っていた。
猫のような耳が付いているから種族は獣人か。
敏捷性を生かした戦い方がセオリーな種族なのに、少女は身の丈もありそうな長剣を持ち、金属製の肩当て、胸当て、手甲に脛当てと。なんともまぁ長所を殺すような装備をしていた。
「おまえ」
すごんで睨んでくるが、怖いというよりは可愛い。
周りも何かあったのを嗅ぎ付け、こちらを見てニヤニヤしている。
「リアはこう見えても、ちゃんとした冒険者だぞ!」
「ほう。ちゃんとした冒険者か」
「そうだ」
なるほど。ちゃんとした冒険者ねぇ。
「それじゃあ、これについては、どうしてくれるんだ?」
そう言って俺は先ほど切れた頬を指さす。
軽く拭い、血の付いた指を、自分の事をリアと呼ぶ少女に向けた。
「えっ……」
俺の顔と、血の付いた指を交互に見合わせ、段々と表情が曇っていく。何というか表情がコロコロ変わって面白いな。
近くの席で卑下た笑いを浮かべる中年の冒険者に声をかける。無精ひげに縛った長髪。ファンタジーではお約束の小物キャラっぽい奴だ。
「おい。そこのおっさん。ギルドでの私闘は問題なかったか?」
「おいおい。ダメに決まってんだろ?」
「そうだよな。もしケガなんかさせてしまったら、どうなるか」
「憲兵に捕まって、独房にぶち込まれて、冒険者の資格がはく奪されまーす」
ノリノリで関係ない奴が答え始める。
「プー、クックック」
最初に笑い出したのは、誰だろうか?
段々と輪が広がるように。そして爆笑が起こった。
皆が口々に「あーあ、あのお嬢ちゃん冒険者の資格はく奪されちゃうな」等とふざけて言っている。
それを聞いて少女はオロオロし始め、目には涙が溜まってきている。
さてと、おふざけもこの辺にしておいてやるか。ここは現実世界。
受付嬢を助けるためとはいえ、今の行為が危険極まりない事だという事を教えるには、これで十分だろう。
もし本当にヤバイ奴が相手だった場合、この少女が危険に晒される可能性があるのだから。
しゃがみこみ、少女の目線に合わせようとして、俺は何故か地面とキスをしていた。
後頭部にかかる衝撃と痛み。これはそう、後ろから殴られたからだ。
「すみません。手が滑りました。大丈夫でしたかクソ野郎」
俺を見下す受付嬢の目線が怖い。
「他の酔っぱらいも、酔い覚ましが必要でしょうか?」
その様子を見て、一瞬で静まり返り酔っぱらい達は俯いた。
なおも涙目でキョロキョロする少女に、受付嬢は優しい声で「バカ達が騒いでるだけだから、気にしなくて良いのよ」と優しく諭していた。
「俺も少々悪ふざけが過ぎた。すまない」
自分にヒールをかけながら立ち上がる。先ほどの切り傷はともかく、殴られたダメージは思ったよりも大きかったからだ。
「ごめんなさい。リアもいきなり剣を突き付けて悪かったです」
仲直りの握手をして一件落着。隣で睨みを利かせている受付嬢も、これで納得してくれるだろう。




