ハルトモ6話
ー6話
記者会見には、小林と春菜に、稲沢、カラオケフリーダムの社長田辺三千雄が並んだ。
マネジャーの妻夫木が司会を務める。
経緯と概要を妻夫木が説明した。
「では。挙手で御願いします。はい。その方」
痩せた若い記者が立ち上がった。
「スポーツ新聞ヤッホーの栗谷です。よろしくお願いいたします。え~今回のハルトモ結成についてですね。春菜さん小林さん双方のファンが納得するかの点についてですね。結婚時に反対の意見が有った所から見て、今回も反対意見が出ると予想されますが?いかがでしょうか?」
小林がマイクを持った。
「反対意見が出て、主張を聞いてからお答えしたいと思います」
「私ごとではありますが。春菜さんのファンです。これからは、必ずお二人の姿と声で聴く事になります。非常に傷付きます。この点についてはいかがですか?」
再び小林がマイクを握った。
「栗谷さん。春菜を支持して下さった事について、有り難く思います。傷付かれた点について、小林智昭として深く謝罪します」
小林がマイクを置いた。
「小林さん。謝罪さ……」
小林は立ち上がって深々と頭を下げた。
春菜も立ち上がって小林に習った。
稲沢が、妻夫木が、そしてどよめきが起こった。
田辺三千雄社長が立ち上がった。栗谷が
「待ってく……」
を立ち上がって、言い切る前に頭を下げた。
フラッシュが激しく焚かれた。
日本音楽業界を屈服させ、事実上日本の音楽業界の頂点に有る会社の社長が頭を下げた。
それで夕刊の1面は決まってしまった。
見出しはー鬼田辺がまさかの最敬礼!
でマスコミは、この報道から引いた。ここまでされて記事を引っ張るのは、記者の信条に反するからだ。
しかし、音楽業界はネットで復讐に出た。
反対の論陣に、タケガミを中心とする賛成の論陣が対峙した。
おびただしい、アカウント停止者の山を築いた。
記者会見のあと、深夜2時に混乱は頂点に達した。
カラオケフリーダム本社に、反対と賛成の群衆が集まり衝突した。
さらに、タケガミの自宅を突き止めた男が、窓から浸入し、タケガミがスマホを持って逃げて行方不明になった。
警察は機動隊を総投入したが、20万の群衆に成す術もなかった。