ハルトモ5話
ー5話
事務所は、カラオケフリーダムが兼ねている。
小林事業部に、山崎恭之助がプロデューサーとして籍を置いている。しかし、1度も事務所に来た事はない。指示はメールか電話か文書でくる。
稲沢さんが常務として、事実上取り仕切っている。
「…小林さんの言う通り、問題はファンだけですね。春菜さんの所属権利関係はもう、全部ウチに移ってますからね」
稲沢さんの顔は晴れなかった。
「タケガミさんに頼ろうと思うんですが?」
「海外のファンとも繋がりが有るからね。でも海外のファンで君達の関係に否定的な人はいない。圧倒的に国内だ。擬似恋愛だからね。やっかいだ」
「やっかいと言うのは、ちょっと嫌いです。それも間違った事ではない感情だと思います」
「すいません。適切な言葉じゃなかった」
小林は話を変えた。
「恭之助さんは何て?」
稲沢さんは言い澱んだ。
「小林くんと春菜さんに任せるべき事案とだけ」
「そう言いながら、陰で動く人ですから。多分、本当にヤバくなるまで待つんでしょう」
稲沢さんはうなづいた。
「発表の段取りを作成して、渡します。小林さんと春菜さんの了解が出たら、日程を詰めましょう。因みに、ユニット名は?」
「春菜がカタカナでハルトモじゃなきゃ嫌だと。僕は反対じゃないんですが?稲沢さんはビジネス的にどうですか?」
「ハルトモ…ハルトモ…ハルトモ…。判りやすい。新人じゃないからね。ファンも呼びやすいし、違和感もない。会議で図りますが反対はないでしょ」
事務所を出て、かつて春菜がバイトしていたスタバに入った。
ほの子もメジャーデビューした。
ラテとサンドイッチを持って、2階に上がる。
食べていると、10代の女の子が横に立った。
「あの。小林智昭さんですか?」
「はい。そうです」
「あの。春菜さんと別れて下さい」
小林は焦った。ネット上ならともかく。直接言えるのかと…。
「どうして?」
「ずっとファンで好きなんです。春菜さんはモテるから、他の人で良いです」
「君の名前は?」
「アキです」
「アキさん。焦らないで。君の王子様は僕じゃない。必ず、僕より素敵な君の王子様が現れる。待つべきだと思う」
「小林さんから見て私。魅力的じゃないですか?」
「アキさん。魅力的じゃない女の子なんて居ない。テレビとか雑誌じゃなくて、自分の周りを見るんだ。そこに、君を大好きな彼がいる。彼が王子様だ。彼に気付いてあげるんだ。彼を待たすな!」
「そう言えば。なんか、そういう男の子います」
「アキ。行ってやれ!」
「はいっ」
彼女は走って行った。
ホッとしてスタバを出た。
稲沢さんは仕事が早い。
3日後に記者会見が開かれた。