ハルトモ3話
ー3話
ツアーが終わって、日本に戻ってきても1週間は自宅に戻れなかった。
稲沢さんが交渉して、急に2日だけ戻れるようにこじ開けてくれた。
急いで戻る。
連絡しても電話に出ない。メールも返信がない。
自宅マンションのドアを開けようとして、紙が張ってあるのに気付いた。
ー私と真由子は、ファンの次?ー
「訳ないだろ…」
紙を引きちぎるように剥がして、ドアを開けた。
春菜の怒りが爆発していた。
キレイに家具も家電も荷物も消えていた。
「捜してみろって事か……やり過ぎだよ春菜」
小林は何もない部屋の中に立って途方に暮れた。
捜す時間は2日しかない。でも見つかるまで、戻る気はなかった。歌を失っても、春菜と真由子を失うつもりはなかった。
取りあえず、ハッシーくんに行ってみる。
「知ってるが。小林くんが自分で見つけないとダメだな」
マスターは昨日会ったかのように、コーヒーを淹れて言う。
「相当ですか?」
マスターは深刻な顔の小林に笑いをこらえた。
「相当掛ける10くらいかな。僕が春菜ちゃんなら……離婚するね」
「………」
「小林くん。判ってるだろ?春菜ちゃんが離婚する訳ないって?身も心も小林智昭にゾッコンだ」
小林はコーヒーを含んだ。薫りが身体中を包むようだ。
「だからよけい。罪が深いですよね…」
「見つけて。どうする?シンガー小林智昭のスケジュールは変えられるのかい?変えられないなら、君から離婚を申し出るべきだな」
小林はガチャンとコーヒーカップを置いた。
「マスターは知ってるでしょ!どっちも出来るわけないって!」
マスターは落ち着いて言い返した。
「わめかない。わめいても何も変わらない。わめく時間に、どうしたら変えられるか考えよう」
「判らない。判らないんですよどうしたら良いか!」
マスターは身を乗り出して、小林に顔を近づけた。
「昔。電柱の陰から出てこない電柱さんを、君はどうした?あの時の小林くんに聞いてみなさい。きっと答えてくれる」
小林はしばらく考えた。
「彼は何と言ってる?」
小林の顔にパッと光がさした。
「近づけないなら。僕がそっちに行く?」
マスターは笑った。
「それが答えだ。それでこそ小林智昭らしいじゃないか!春菜ちゃんの居場所も教えてくれただろう?」
小林はハッシーくんを飛び出した。
春菜の行く所はあそこしかない!