チュートリアル終わりました。
ステータス値修正に伴い、一部改訂しました。
AIさんが相川さんということが分かり、アリスは更に一層気合を入れてチュートリアルに臨もうと意気込んだ。
そんなアリスを見ながら、相川は次の項目を指示する。
「次は、種族・妖精の固有スキル《妖精の浮遊》の練習です。こちらが《妖精の浮遊》の説明です。ご確認ください」
そう言われ、アリスは言われて通りにスキルの確認を行う。
《妖精の浮遊》
・自分の意志に応じて浮く事が出来る。
・自分の意志に応じて移動する事ができる。
・自分の意志に応じて身体を動かすことができる。
・消費MP量は無い。
「ふんふん。自由気ままにフワフワしていられるってことかな?私はどうしたらいいの?」
「そうですね、自由気ままにフワフワしてみてください。「浮く」と言われてもよく分からないと思いますので、システム的補助として頭の中で浮けと命じれば浮けるようになっています。「浮く」ことに慣れると、頭の中で浮けと命じなくとも浮くことができるようになります。勿論ですが、浮けと命じてから浮くのと、自然に浮くのとでは少しとは言え、時間差が生じます。早く「浮く」ことに慣れるといいですね。後は、浮いてからの移動ですが、行きたい所に意識を向ければその場所に移動を開始します。歩いて向かう感覚で意識を向ければゆっくり進みます。また、走っていく感覚で意識を向ければ速く進みますので覚えておいてください。最後に、「身体を動かすことができる」は、浮いた状態のまま身体をうつ伏せや仰向け、逆さにしたりすることができます」
「おー!本当に自由気ままにフワフワしていられるんですね!」
「はい。色々と試した後私に声を掛けてください」
「はい!分かりました!」
アリスは返事をして相川から距離を取り、頭の中で「浮け」と命じた。
すると、アリスの背中からほんの少し離れた位置に六枚の灰色の羽が現れ、アリスの体はフワッと宙に浮かび上がった。
30cm程浮かび上がった所で、アリスの身体は停止した。
「浮いたー!!」
アリスは宙で停止してから少しして、自分が浮いている事を自覚し思わず叫んでしまった。
アリスは先ほどまでとは違う視界が目の前に開け、思わずキョロキョロと周りを見渡すとそこは何も変わらない、いや相川がいるが他には何もない草原が広がっているのを再確認した。
それでも、現実世界の身長より20cmも高い場所から眺める世界は違って見え、アリスにとって新鮮だった。
ふと視界の端に、灰色の何かが見えた。
「ん…?あっ、羽が生えてる…。って、灰色!?」
アリスの中の妖精の羽は、透けるような白色のイメージだったため、灰色の羽が自分から生えているのを見て驚いた。
「灰色…。灰色かぁ…」
アリスは灰色が嫌いというわけではないが、アリスは自分がイメージしていた羽が生えるものだと思い込んでいたため思わず落ち込んでしまった。
その様子をみていた相川がアリスに声を掛ける。
「あの、どうされました?」
「へっ?あ、その…。羽の色が灰色だとは思っていなくて、それに驚いただけです」
「あー…。そうですね。少々お待ちください」
相川は突然待つように言って、ウィンドウを開きどこかとやり取りを始めた。
運営かな?とアリスは思いながら、大人しく待つことはせず、当初の目的である《妖精の浮遊》を色々と試しながら相川の近くで待っていた。
相川が言っていた様に、逆さになってみたり仰向けになってみたり、その場で前転をグルグルと繰り返したりして遊んでいた。
他にも色々としていると相川がウィンドウを閉じて、アリスの方へと戻ってきた。
「魔法の使用許可と動画撮影の許可が下りました。そういうわけで、もう一度魔法を撃ってみましょう」
「…?」
何故もう一度魔法を撃つのか、動画撮影を行うのかがアリスには分からず、さらに言えばなぜそのような事をするのか分からない。
そんなアリスの様子を見て、相川は微笑みながら一言。
「一先ず、魔法を撃ってみましょう。先程と同じ火球を使えるようにしました。カカシをもう一度出しましょうか?」
「あ、えっとお願いします」
アリスは理解できていないが、とりあえず流れに乗っておくことにする。
先ほど消し炭にされた面影を感じるカカシが姿を現したのをアリスは確認し、先ほどの手順を思い出しながらカカシに左手を向けた。
そして、意識を左手の先に集中させ、唱える。
「火球」
先程見た光景と同じ光景が繰り返され、またもやカカシは消し炭となって消えていった。
アリスは魔法をきちんと放つことができて嬉しく思いにんまりとなっていると、相川が声を掛けた。
「アリス様。こちらの映像を見てください」
そう言って新しいウィンドウをアリスに見せてきた。
そこには魔法を、火球を放つ少女が写っていた。
アリスはその映像を、少女を見て気がつく。
「……あ、髪色の違う140㎝の私だ」
ここでアリスは自分の容姿を初めて確認した。
「あれ?あぁ、そっか。相川さんにお願いしたからちっちゃくなった私になっているのか」
キャラクターメイキングをやりこもうと意気込んでいた私は何処に行ったんだろうとアリスはふと思うが、140cmの自分を見て数年前の自分を思い出していた。
「…はっ!?えっと、この映像の何処を見たらいいの?」
「そうですね。アリス様の両目と妖精の羽に注目してください」
「両目と羽…?何があるの?」
アリスはそう言いながらも、言われた通りにその箇所を注目して映像を見る。
するととある変化が見受けられた。
それは魔法を唱えた時に起った。
「あっ!目と羽が赤くなってる!」
アリスが魔法を唱えた時、正確に火球のファのフを言う瞬間から、アリスの両目と六枚の羽が赤色に変化したのだ。
そして、魔法を放ってから相川が話しかけるまでは赤色の輝きを放っていた。
「はい。ご覧に頂いた通り、目と羽の色は魔法を唱えた時に変わります。《火魔法》であれば赤に、《水魔法》であれば青に色が変わります。これは妖精の特徴の一つです」
「そうなんですか!それは面白いですね!」
アリスにとって面白い仕組みだった。
アリスはこの時、多くの魔法を覚えて扱おうと考え、これからこのゲームをどんな風に遊ぼうか考え始めた。
△ ◆ ▽
スキル《妖精の浮遊》の練習を続けた後、アリスは相川に声を掛けた。
「はい。《妖精の浮遊》の練習の終了を確認しました。これでチュートリアルは終わりです。これからステータスの振り分けと初期スキル選択を行います」
「あっ…。もう終わりなんですね」
より気合を入れてチュートリアルに臨んだが、《妖精の浮遊》で遊んだ程度だった為、アリスは非常に寂しさを感じた。
「そうですね。共通のチュートリアルはこれで終わりです。後はゲーム内でチュートリアルを行うか選択できる箇所が存在します。その時々で、チュートリアルを行ってください」
「はい、分かりました。…やっぱり、その時のチュートリアルは違う人が来るんですか?」
「ウィンドウが現れて文で手順を教えるタイプと、映像で手順で教えるタイプ、そして私、相川が現れるタイプの三種類があります。その時々で選択できるようになっています」
「じゃあ、状況に応じて相川さんを呼んでいいってことですね!」
「そうなります」
アリスにとってそれは朗報だった。
相川と再び会える機会があると言うだけで、今の寂しさが紛れるというモノ。
「それでは、ステータスの振り分けを行いましょう」
相川がそう言うと、アリスの目の前にウィンドウが現れ、そこにはこう記されていた。
アリス
種族:妖精
メイン職:人形師
HP:100 MP:600
STR:0
DEF:0
AGI:0
INT:50
MND:50
DEX:0
LUC:---
SP:50
「SPは自由にステータスに振り分けられるポイントの事です。初めに50ポイント振り分けることができます。また、それぞれのステータスは次のようになります。
HPは体力を表し、0になると戦闘不能になります。
MPは魔法を使うのに必要となる魔力の残量を表します。
STRは物理攻撃力、VITはHPと物理防御力が大きくなります。
AGIは素早さ、回避力に大きく関係します。
INTは魔法攻撃力、MNDはMPと魔法防御力が大きくなります。
DEXは器用さ、生産能力や、一部武器の攻撃力に関わります。
LUCはアイテムのドロップ率、生産スキルで生産される品質に少し補正が掛かるようになります。
分かりましたか?」
「はっ、はい!大丈夫です。……MP600ってどうなってるの…?あっ、MNDに50振られているから?ということは1ポイント増えるごとに10ずつ増えるのかな」
「はい。HPとMPはそれぞれVITとMNDに1ポイント振られると10ずつ増加します」
そうなんだとアリスは納得はするが、自分のステータス値で気になった部分について聞くことにした。
「私のINTとMNDとLUCはどうなっているんですか?」
「簡単に言いますと、種族・妖精の特典です。INTとMNDに50ポイントずつ、LUCは除外となります」
アリスは思わず固まって止まってしまった。
INTとMNDの初期値にボーナスが付いているのはまだアリスにも理解できた。
なんとなくそうなんだろうなと察してはいたので、このことに驚きはなかった。
だが、LUCの値が除外は理解できなかった。
「……除外って何?」
「LUCの値を消去しています。また、全てのドロップ率が一定になります。例えば、とあるモンスターから三つのドロップアイテムが落ちるとして、それぞれ50%、35%、15%の確率で落ちるとします。これの数値が、33%、33%、33%となります。因みに、残りの1%は切り捨てとなっています」
この事にアリスは絶句した。
これが指し示すことは、アリスを含む妖精にとって、レアドロップは存在しないと言うことである。
また、アイテムの売買を行う際は何がレアドロップかを把握してやり取りしなければならないということをアリスは察した。
「また、生産における補正は無効化され、各生産スキルのレベルに合わせた品質のモノしか生産できません」
アリスはこのことには頷いて終わった。
実力以上のものが偶然できなくなるのは大した問題ではない。
同品質のものが安定して作れるだけで儲けものだ。
「では、SPの振り分けを行ってください。アリス様は種族・妖精ですので、STR・VIT・LUCにSPを振り分ける事はできません。AGI・INT・MND・DEXに振り分けてください」
「えっ…」
ここにきて身長が小さくなる以外のデメリットが判明した。
LUCはともかくとして、STRとVITにSPが振れないのは予想外だった。
その代わりとでも言う様に、INTとMNDにステータスが振り分けられているのかとアリスはそう考えることにした。
「そうでした。装備によってはステータス値が上昇するものがありますが、STRとVITは0のままとなります。このことは覚えておいてください」
この言葉を聞いた後、アリスは固まった。
魔法強い、物理弱いということを理解した瞬間だった。
このことが意味することを考え、アリスは初期SP振りをどうすべきか考える。
自分のステータスは歪とも言え、また、魔法特化であるならば正常であると言える。
察するに、種族・妖精は魔法に特化する種族なんだろう。
魔法に特化してもいいが、VRMMO以外のゲームではアリスは近接戦闘を行うのを好む傾向がある。
そのことはアリスは理解しているが、アリスが好きなのは後衛職であるのもまた事実である。
後衛職が好き、だけど近接戦を好む。
そんなアリスが取る選択肢は一つと言えた。
AGIを挙げて、回避に特化して魔法を近距離で打ち込む。
剣や槍で攻撃はできないが、それに非常に近いと思われる大鎌で攻撃することはできるはずだ。
そう考え、アリスはAGIにつぎ込むことを決めた。
「私のおすすめとしては、初期SPはAGIとDEXに25ずつ振り分けですね」
アリスは、相川のその言葉を聞いて言われた通りに振り分けて決定を押した。
先程の決意は今は無かったことにした。
色々としてくれた相川さんのお言葉だからという理由でSP振りを行ったが、アリスとしてはどこか満足していた。
レベルアップで得られるSPはAGIに振ればいいと考えることにした。
「では次に初期選択スキルを選んでください。勿論、戦闘において新しいスキルを覚えたり、スキルショップという場所でゲーム内マネーを使い新しいスキルを覚えることができます」
相川はそう言いながら、アリスに新しいウィンドウを表示して見せた。
そのウィンドウには、《剣術》《槍術》《弓術》と言ったスキルから始め、《火魔法》《水魔法》《風魔法》と魔法のスキルも並んでいた。
それを見て、アリスは一言。
「相川さんが選んでください!」
「いい加減にしなさい」
アリスは相川にたしなめられた。
だが、相川はアリスに甘かった。
「はぁ。……種族・妖精の特典として、アリス様は初期スキルを10個選ぶことができます。まず、アリス様が5個選び、残りの5個を私が選ぶと言うのはどうでしょうか」
シュンとして落ち込んでいたアリスにとってその言葉は非常にありがたいものだった。
アリスは何かと相川に決めてもらってきた。
どうせなら、残りの選択内容も相川さんに決めてもらって、相川さんとゲームしている気になろうと、アリスは考え始めていた。
「それでお願いします!ありがとうございます!」
「はい。では、先にアリス様が5つ選んでください」
「分かりました!」
そう言うと、アリスは自分のこれからのスタイルに合わせたスキル選択を行おうと、スキルを一つ一つ見ていく。
丁寧に一つずつ見たからか、30分程時間が経過していた。
「決めました!《大鎌術》《加速》《回避》《感知》《観察》の五つにします!」
《大鎌術》
・大鎌の扱いが上手くなる。
《加速》
・移動速度が速くなる。
《回避》
・回避が上手くなる。
《感知》
・気配を感じることができる。
《観察》
・取得する情報量が増加する。
「魔法はいらないのですか?」
「あ、うん。魔法もスキルショップとかで買えるかなって思って」
アリスは大鎌をメイン武器として使うことに決め、残り四つは回避に繋がると考えられるスキルを選んだ。
近づかれないように戦うのも重要だが、アリスとしては接近戦を行いたいが為であった。
「アリス様の言う通り、スキルショップで購入することができます。私も魔法スキルは除外しましょうか?」
「あー、うー。うん。除外してもらってもいい?」
魔法を含ませるか悩んだが、スキルショップで買えるのであれば、除外していいとアリスは考えた。
「それでは魔法以外から五つ選ばせていただきます」
そう言ってから相川は五つのスキルを選択した。
「では、私から五つですね。《糸》《体術》《錬金術》《調合》《鍛冶》です」
《糸》
・魔力で構成された糸を扱える。
《体術》
・身体の扱いが上手くなる。
《錬金術》
・アクセサリー製作や様々なアイテムを制作することができる。
《調合》
・様々なポーションを作ることができる。
《鍛冶》
・武器や防具を作成できる。
「これでよろしいでしょうか?」
「うん!ありがとう!!」
《糸》をどう使うのかいまいちピンとこないが、相川さんが選んだのだから何か理由があるのだろう。
他の四つ、生産スキルが三つ含まれているが、これも意味があるのだろう。
そうアリスは考え、相川が選んだスキルをそのまま選択した。
「はい。これで、スキル選択を終了しました。これより、始まりの町、第一都市へと転移を開始します」
「相川さんっ!色々とありがとうございました!また、何かのチュートリアルで呼ぶことになると思います!その時はよろしくお願いします!」
アリスは相川に対する感謝を伝え、また呼び出すことをここで宣言した。
「そうですか。分かりました。ではその時にまたお会いしましょう」
「はいっ!」
アリスが元気よく返事すると、アリスは眩い光に包みこまれチュートリアル用のフィールドから姿を消した。
その草原に一人残った相川は、既に転移し終えたアリスに対して自身の思いを告げた。
「アリス様。《Another Fantasy Online》へようこそ。レア種族の中でも特別である妖精を引いたアリス様がどの様な幻想を描かれていくのか楽しみにしています」
しかし、メイン職が人形師だから途中で投げ出さなければいいのですが…将来性を見れば…。そう呟いて、相川はチュートリアル用のフィールドから姿を消した。