レア種族引きました。
『次は種族を選択してください。選択後は種族を選択し直すことはできませんので、ご注意ください。』
「今回は先に注意事項を教えてくれるんだね」
『仕事ですので。』
このAIは何を言ってるんだと愛莉は思いながら新しく提示されたウィンドウを見るとその理由を察した。
そこには上から順に、人・魔人・獣人・エルフ・ドワーフ・ランダムと記されている。
仮に、獣人を選べば皆が思い描くようなケモミミ尻尾を生やしたキャラクターを、魔人なら角や羽を生やしたキャラクターを、エルフならエルフ耳をもったキャラクターを作れるのだろう。
ドワーフなら筋骨隆々たるキャラクターを制作できるのだろうか。
愛莉はそこまで考え、最後、一番下に位置しているランダムが気になった。
愛莉が今まで経験してきたゲームではランダムにレア種族を含んでいた。
「あの、ランダムには所謂レア種族が含まれているの?」
『はい、含まれています。』
レア種族が存在し、含まれている。
この事実は愛莉にとっては、僥倖とも言える。
たとえ愛莉が人・魔人・獣人・エルフ・ドワーフの中ならどれでもいいと言えど、この五種族以外が出ないのであれば愛莉にとってランダムの価値は0である。
出ないなら、この五種族を吟味するというモノ。
しかし、このランダムからはレア種族を引くことが可能ときたら、愛莉が選ぶ選択肢は一つである、
レア種族が出なくても五種族から選ばれるのであれば、愛莉に損はない。
「ランダムでお願いします!」
『ランダムで本当によろしいですか?』
「はい!」
『本当に?』
「はい!」
『分かりました。アリス様の種族はこちらになります。』
するとまた新しいウィンドウが出現する。
愛莉が新たなウィンドウをのぞき込むとそこには、『妖精』と書かれていた。
「…え?妖精?」
『はい。レア種族「妖精」です。おめでとうございます。』
「……こう、お遊びというか、ルーレットなり何なり、どの種族になるんだろー?レア種族引けるかなー?みたいなドキドキ感というか、ワクワク感というか」
『つまり?』
「喜びが薄い」
『私に言われましても。』
「いや言うに決まってるでしょ!」
『レア種族を引き当てたのですから喜びなさい。』
「わーい!やったー!これでいい!?」
『はい。次に容姿設定に移ります。』
「…うー」
未だにレア種族を引き当てた実感が沸かないのも不思議なものであり、愛莉は唸らずにはいられなかった。
△ ◆ ▽
『妖精』と書かれていたウィンドウが切り替わり、様々な種類のバーが表示される。
「えっとー?身長、体重…横幅…?…?」
『補助を行いましょうか?』
「えっ!?うーん、かわいく作れる?」
『それは分かりませんが、少なくとも悲惨なことにはならないかと。』
「じゃ、じゃあお願いしてもいい?」
数多くのバーやら設定やらなんやらと多すぎて、愛莉の頭脳ではなにをどうしたらいいのか理解できなかった。
例え人の話を聞かなかったり、ルーレットを回したりせず結果を表示するAIに頼りたくなるほどに、愛莉はテンパっていた。
勿論のことだが、変に作りこもうとしなければこれといって難しいものではない。
『お任せください。では、まず最初に身長を設定します。110~140㎝の間で希望の身長をお答えください。』
「110~140?えぇ!?せ、せめて150cmに出来ない??」
ちなみに愛莉の現実の身長は150㎝である。
『種族「妖精」の特典の一つです。』
「いらないよ!!…妖精って言うんだからさ、15cmとか30cmにできないの?」
『できません。開催予定のイベントの一つにPvPがあります。15cm~30cmのプレイヤーに攻撃を当てる難易度を考慮した結果、人の子ども程度の身長に抑えることにしました。』
《Another Fantasy Online》はステータスでキャラクターの能力値を管理している。
仮にAGI10のキャラクターが一秒間に10メートル移動できる場合、15cmのプレイヤーの移動速度は、目を見張るものになる。
人によっては処理が追い付かず、目で捉えることすらできないかもしれない。
PvPがなければ、正しく妖精として噂されることになったことだろう。
「じゃあ140㎝で」
『110㎝ですね。』
「140!ひゃく!よん!じゅう!」
『先ほど「15cmとか30cm」と言っていましたので、小さいほうがいいのかと。』
「15cmとかの小ささなら興味あったけど、110~140だったら140cmがいいの!」
『はぁ、分かりました。』
「ため息つきたいのはこっちだよっ!」
愛莉はゲーム内の身長は大きくしたかったが、まさかまさかの10cmマイナス。
こうなることを誰が予期しようか。
しかし愛莉はそうなったことに対して文句は言わない。
こうなると思わなかったとしても、こうなることも含めて、種族選択をランダムで選んだのだから。
『体重は無、体格は140㎝に合うように構成します。』
「無って何!?無って」
『「妖精に体重はありません」の「無」です。どうしても体重を他の人に教えたいのであれば、「リンゴ三個分」と自称してください。』
「妖精に体重は無いの…?」
『《Another Fantasy Online》にて、妖精に体重はおろか質量が存在しません。それ故に、重力系統の魔法に対し絶対的耐性を得ています。おめでとうございます。』
「妖精って何なの」
『妖精です。』
「それは分かってるよ!?」
『次に髪型を決めましょう。どうされますか?』
「えっ…無視?スルーなの??」
『スキンヘッドでよろしいですか?』
「よくないから!一言もそんなこと言ってないから!確かに頭文字は「ス」だけど!」
『元気いいですね。』
愛莉は何も言わない、それ以上に言いたくない。
「えっと、じゃあミディアムのストレートで」
『はいはい。』
遂には雑に対応されたことに、愛莉は驚きを隠せずに口をあんぐりと大きく開けてしまう。
だが何も言わない、言いたくない。
『次は髪の色を選択してください。』
「えー。決めていいよ?」
愛莉は遂にキャラクリをAIにぶん投げた。
『…あの、丸坊主にしますよ?』
「やめて!?分かったから!ぶん投げないから!丸坊主は止めて!」
『はぁ…。調べたところ、アリスブルーと言う色があるみたいです。アリス繋がりでどうでしょう?』
「それでいいよ!」
『……。』
遂にAIさんは黙ってしまった。
「…ごめんなさい」
AIに黙られてしまうと愛莉は居たたまれない気持ちになり謝った。
『はい?何に対して謝罪しているのですか?』
「そっ、それは」
『瞳の色は灰色に固定されていますので変更はできません。耳はエルフと同じ形状の耳で、身体に合わせ適度な大きさに設定しておきました。最後に、妖精の羽についてですが、二枚羽、四枚羽、六枚羽、八枚羽のなかから選びください。おすすめは六枚羽です。』
「……えっと、ありがとうございます。六枚羽でお願いします」
未だにAIの行動が読めず愛莉は少し困惑しているが、色々言いつつもサポートを行ってくれる為、後一つ、せめて私の話を最後まで聞いてほしいなと思った。