第88話 雫と過ごす日曜日 後編
推敲が足りてないなと思いつつ直せない自分。もっと時間に余裕を持たないとダメですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
晴彦が雫の家に来てからすでにだいぶ長い時間が経っていた。お昼ご飯を挟んでからも。晴彦は雫の部屋でゲームをしていた。
「あ! そこで赤帽子なんて酷いじゃない!」
「何言ってるんですか。ガードせずに飛んでる方が悪いんですよ」
今、晴彦と雫がやっているのは『メイジカート』だ。異世界で魔法使い達がレースするゲーム。エルフやドワーフ、果ては竜人まで様々な種族を使うことができる。
晴彦は魔法使いを使っていた。種族ごとに色々な特徴があって、魔法使いはスピードはそれほど出せないものの、その分多くのアイテムを使うことができる。
赤帽子もその一つ。前を進むプレイヤーを自動で追尾して攻撃してくれるというもの。そのアイテムで晴彦は前を飛ぶ雫を攻撃したのだ。
対する雫が使っているのは竜人だ。直線コースでの速さは一番で、直線の多いコースならば他の追随を許さない。
今回も直線で快調に飛ばしていた雫だったが、晴彦の投げた赤帽子のアイテムによって一気に転落し、順位を大きく落としていた。
「くぅ、絶対追い付いてやるわ!」
体制を立て直した雫は、今度は逆に前を行く晴彦を追ってスピードを上げる。今回のコースは直線が多めのため、まだまだ逆転できると考えていた。
「そう簡単にはいきませんよっと」
「あ!」
徐々に近づいてくる雫に対して、晴彦はさらにアイテムを使う。今度使ったのは黄帽子。後ろに配置することで、自分よりも後ろを走るプレイヤーの進路を阻害することができるアイテムだ。ぶつけることができればスリップさせることもできる。
直線でスピードを上げる竜人を使っている雫はこのアイテムの影響を無視できない。避けるためにはスピードを大きく落とさなければならないのだ。そのせいでさらに晴彦との距離を離されてしまう。
晴彦に距離を離されたまま最終ラップへと突入する雫。このままでは確実に負ける。しかし、雫には奥の手があった。
「これで俺の勝ちですね」
「……まだ、勝利を確信するには早いわよ!」
「なっ」
突如として大幅にスピードを上げて猛追してくる雫に驚く晴彦。
雫が使ったのは竜人の特性の一つである『竜化』だ。これをすることによって、短い時間、アイテムの効果を受けず、スピードが爆発的に上がるいわゆる無敵状態になるのだ。しかし、この『竜化』が切れてしまうと逆にガクンとスピードが落ちてコントロールが難しくなる。いわば諸刃の剣なのだ。
グングンと晴彦に追いつく雫。晴彦もアイテムを持っているが、今の状態の雫には効かない。そしてそのままゴール直前で雫は晴彦の事を抜かす。
「よしゴール。私の勝ちね晴彦」
「あぁ、負けたか……もっとアイテム使えばよかった」
ふふん、と晴彦に勝って嬉しそうな様子の雫。晴彦は逆に負けてしまったので残念そうだ。
「このゲームで私に勝とうなんて百年早いのよ」
「でも先輩負けかけてたじゃないですか」
「そんなことないわ。あれは作戦よ、作戦。あなたを油断させるためのね」
「その割には本気で焦ってたような気がしますけど」
「き、気のせいじゃないかしら」
半眼で言う晴彦。実際、雫は途中まで本気で焦っていた。しかし、先輩の矜持にかけて負けるわけにはいかないと全力を尽くしたのだ。
中間テストでも本気をださなかった雫が、ゲームで後輩に勝つために本気を出す。優菜が聞いたらどう思うだろうか。まぁ呆れるだけだろうが。
「それにしても……先輩、すっごく楽しそうにゲームしますよね」
「え?」
「いつもの先輩はクールって言うか……冷静で動じないってイメージだったんで」
生徒会室で仕事をしている時の雫と、先ほどゲームをしていた時の雫。同一人物とは思えないほどに違うかった。ゲームをしている時の雫は無邪気で、年相応の少女のようだったと晴彦は感じていた。
「……幻滅したかしら?」
若干の不安を滲ませながら雫が問う。
「まさか。いつものクールで生徒会長って感じの先輩も良いですけど、ゲームしてる時の楽しそうにはしゃぐ先輩も好きですよ、俺は」
晴彦にとってはどちらも雫だ。幻滅することなんてありえなかった。むしろ、そうした姿を自分に見せてくれるということに嬉しさすらあった。
ある意味真っすぐすぎる晴彦の言葉に、雫は思わず顔を赤くする。しかし、それを晴彦に悟られまいと晴彦から顔を逸らす。
「好きだなんて、まさかそんな大胆に告白されるなんて思ってなかったわ」
そして照れ隠しにそんなことを言ってしまう。
「えっ!?」
「まさか晴彦が私のことを好きだなんて、そんな人と部屋に二人っきりなんてもしかしてすごく危ないんじゃないかしら」
「いやあの、好きって言いましたけどそういう意味じゃなくて、人として好きって言っただけで」
「あら、じゃあ私には異性としての魅力は無いって言いたいのかしら」
照れを隠すのに必死過ぎて、雫は自分が何を口走っているのか最早よくわかっていない。
「そういうわけじゃ」
「じゃあ、私には魅力があると認めるのね」
「だから……」
「はいかいいえで答えなさい」
「あぁもう! 先輩はすごく魅力的です、これでいいですか!」
「ケダモノね」
「なんでそうなるんですか!」
思わず晴彦が叫ぶと、そのタイミングで奏が部屋に入ってくる。
「お二人とも、声が部屋の外まで響いていますよ。それと、紅茶を持ってきました。少し休憩されてはいかがですか?」
「え、えぇ。ありがとう」
「あ、どうも」
奏が入って来たことで、少し冷静になる二人。
紅茶とお菓子で少し休憩する晴彦と雫。そこでふと晴彦は疑問に思ったことを雫に聞く。
「そういえば、今日はなんで俺のことを誘ったんですか?」
「別に理由なんてないわ。たまたまよ、たまたま」
「……お嬢様は」
「奏」
何かを言いかける奏。しかし、雫によって遮られてしまう。
「嫌だったかしら?」
「全然そんなことないですよ。むしろ楽しかったですし。先輩の新しい一面を見れた気もしますしね」
「……ならよかったわ」
内心でホッと息をつく雫。これでもし晴彦がここに来ることを嫌がっていたらどうしようかと心配していたのだ。
「さて、それじゃあゲームの続きをしましょうか。今度は『貝乱闘対戦』をしましょう。私のシジミ使いを見せてあげるわ」
「いいですよ。俺のアサリ乱舞をお見舞いしてあげます」
そうして二人は時間がくるまでの間、存分にゲームを楽しんだのだった。
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夕方、零音からの連絡に気付いた晴彦は慌てて家に帰ることになった。
「今日は楽しかったわ。また機会があったら遊びましょう」
「はい。俺も楽しかったです。それじゃまた、今度は学校ですかね」
「そうね。またいつでも生徒会室にいらっしゃい」
雫と別れた晴彦は、奏に連れられて玄関へと向かう。
「今日はお嬢様の相手をしていただき、ありがとうございました」
玄関へ向かう道中で奏からそんなことを言われる晴彦。
「いえ、俺も楽しかったですし」
「そういっていただけると幸いです。それに……お嬢様にがあんな風に笑っておられるのは初めて見ました」
「え?」
「昼ヶ谷という家に生まれ、かくあれと育てられてきたお嬢様には、一緒に遊べるような友達も望めませんでしたから」
それは、昼ヶ谷という家に生まれたものの宿命。どこへ行こうとも、昼ヶ谷家の人間として扱われ、だからこそ誰も対等の関係を築こうとしない、できない。
「今のお嬢様は生き生きとしておられます。それはきっと、日向様のおかげなのでしょう」
「……俺だけじゃないですよ。先輩にはもう友達がたくさんいますから」
「それは良いことを聞けました」
そこで二人は玄関にたどり着く。
「それじゃ、今日はありがとうございました」
「いえ。またいつでもお越しください。歓迎いたします。これからもどうか、お嬢様のことをよろしくお願いします。できれば……末永く」
「はい、もちろんです」
こうして、晴彦の日曜日は雫と一日ゲームをして終わったのだった。
雫「遅かったじゃない。何か話してたの?」
奏「はい、お嬢様のことで少々」
雫「余計なこと言ってないでしょうね」
奏「何も言っておりませんよ。ただ日向様に、お嬢様のことを末永くお願いしますと申し上げただけです」
この末永く、に込められた意味を晴彦も雫もまだ気づいていなかった。
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次回投稿は12月1日18時を予定しています。