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第87話 雫と過ごす日曜日 中編

雫さんの話書きたいなーと思ってたらこんな感じになりました。

中編は雫さんが晴彦を遊びに誘うまでの過程の話です。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 日曜日の朝。雫の家にて。


「……暇だ」


 ベットに寝転がりながら雫は呟く。

 いつもなら何かしら仕事があって休みの日でも学園に行くことが多い雫だが、テスト明けで仕事もない。だいたい空いている時間はゲームをして過ごす雫だったが、今持っているゲームはほとんどやってしまっていてする気にもならない。


「でもゲーム以外することないですし、やり込み要素でも消化しましょうかね」


 仕事がなければ休日にゲームしかすることがない少女、それが昼ヶ谷雫なのである。ここで出かけるという選択肢や、誰かを誘って遊ぶという考えは雫には浮かばない。

 何気なくSNSで他の生徒会役員の動向を見てみれば、双葉はクラスの友達とスイパラに行っている。


「スイパラ……」


 多種多様なスイーツを前に楽しそうな双葉。

 そんな双葉の様子を見てどこか羨ましそうな顔をする雫。そのままの流れで雫は優菜のSNSも確認する。


「優菜は……いつも通りかな」


 優菜は今日、図書館で読書がてら勉強しているらしい。中間テストも結局雫に勝てなかったので、その悔しさを晴らすという意味合いもあるようだ。


「でも、みんな外には出てるんだなぁ」


 友達と遊んでいたり、図書館に行っていたり。他の生徒会メンバーもだいたい外にでていた。


「休みの日に家で一人寂しくゲームする女子高生……なんか青春の無駄遣いって感じですね」

 

 今の自分の様子を見て、雫は思わず苦笑する。

 元の世界にいた頃は全く気にしたことはなかったが、今はわけが違う。花の女子高生生活をこんな風に浪費してしまっていいのだろうかと雫は思うようになっていた。


「お嬢様」

「っ、な、何かしら」


 部屋の外から聞こえてきた使用人の声に雫は慌ててゲームを隠す。

 雫のゲーム趣味を知っているのは祖父と晴彦、そして奏だけだ。他の使用人、両親

や兄にバレれば何を言ってくるかわかったものじゃない。

 最初は奏にも隠していたのだが、あっさりと見つかってしまったのだ。彼女に隠し事をするのは至難の業なのだ。


「紅茶の用意ができていますが、いかがいたしましょうか」

「あぁそうね。いただこうかしら」


 そういえば朝食の時にコックが新しい紅茶が手に入ったと言っていたことを思い出す雫。元の世界にいた時から紅茶が好きだった雫はとりあえず飲んで今日一日の行動を決めることにした。

 リビングへ行って席に座るとほぼ同じくらいのタイミングで奏が紅茶と簡単なお菓子を出してくる。


「ありがとう」

「いえ。それよりも、お嬢様は今日一日どのように過ごされるご予定ですか?」

「そうね……まだ決めてないわ」

「たまには外に出られたらどうですか? お嬢様が学園に赴くという用事以外で外に出られる姿を見たことがないのですが」

「む、失礼ね。そんなことないわ」


 雫だって学園に行くということ以外で外に出ることもある。ゲームとかゲームとかゲームのためだが。


「そんなことでは日向様に嫌われますよ」

「ゴホッゴホッ。な、なんのことかしら」

「いえ、なんでもありません」


 しれっとした顔で言い放つ奏。

 さすがに晴彦のことが好きなのは隠せていると思っていた雫は焦って紅茶が変な所に入ってしまう。


「……知ってたの?」

「なんのことでしょう」

「まぁいいわ」


 何を言っても無駄だと思った雫は諦めて大人しく紅茶を飲むことにする。

 朝の穏やかなひと時。しかし、それを乱す人物がリビングへとやってくる。


「おやおや、これは我が妹じゃないか」

「……おはようございます。お兄様」

 

 一瞬嫌な顔をしそうになった雫だったが、なんとかそれを抑えて挨拶する。

 リビングにやって来たのは雫の兄である司だ。

 兄妹仲は残念ながらあまり良いとは言えない。比較的自由に育てられた雫と違って、司は昼ヶ谷家の跡取りとして厳しく育てられてきた。それが司には気に食わないらしい。そして雫自身も、何をしたというわけでもないのにやたらと突っかかってくる司のことがあまり好きではなかった。

 まぁ、雫にも元の世界で家を継ぐために厳しく育てられた記憶があるので、なんとなく司の気持ちはわかるのだが。だからと言って納得しているわけでもない。


「日曜日の朝からゆっくり紅茶を飲めるとは、良いご身分だな」

「えぇ、おかげさまで」

「……ふん、今回のテストも一位だったみたいだが、昼ヶ谷家の人間として当たり前のことだ。慢心はせんことだ」

「わかっています、お兄様。昼ヶ谷の名に恥じぬよう、力を尽くします」


 下手なことを言っても司を調子づかせるだけだとわかっている雫は大人しく司が言うことを受け入れる。

 しかしそんな余裕ある雫の姿すらも、司には気に食わないらしい。


「だいたいお前は——」

「司様、そろそろお時間では」

「あ……ふん、わかっている」


 なおも言い募ろうとした司に対して、奏が割って入る。

 出かける用事のあった司は奏に言われて時間を確認し、慌ててリビングから出ていった。


「……まったく。暇なものね。わざわざ妹に嫌味を言いにくるのだから」


 本来ならばリビングを通ることなく外に出れたはずなのに、雫がリビングにいることを知った司はわざわざリビングに来たのだ。それがわかっている雫は兄の性格の悪さに思わず呟く。


「暇なのはお嬢様も一緒かと思いますが」

「何よ。私はちゃんとやることやってるんだからいいの」

「別に文句を言ってるわけではありませんよ。それよりも、暇なことは認めるんですね」

「事実だもの」

「そこで一つ提案なのですが」

「提案?」

「日向様を呼ばれてはいかがでしょうか」

「っ!? は、晴彦を?」

「そうすればお嬢様の暇も解消されるでしょうし」

「それは……そうだけど」

「まさかとは思いますが、お嬢様。日向様を誘うのが怖いのですか?」

「怖いわけないじゃない!」


 強がる雫であったが、奏の言う通り怖がっていた。今までの人生で自分から誰かを家に呼ぶという行為をしたことがなかったからだ。


「でしたらできますよね」

「できるわよ!」


 奏に乗せられるままに雫は晴彦を家に呼ぶと言ってしまう。


「それじゃあ、晴彦に電話してくるから」


 紅茶を飲み終えた雫は部屋へと戻って、言った通り晴彦に連絡するためにスマホを手に取る。

 そして晴彦へ電話をかけようとして……その手が止まる。


「なんて言えばいいのかな。というより、いきなり電話して変に思われないかな」


 途端に冷静になって、色んな想像が頭をもたげる雫。

 もし迷惑だったら、用事があったら……そして何より、断られるのが雫には怖かった。


「でも……うん、ボクが一番出遅れてるわけだし」


 晴彦との関りという点において、雫は零音や雪よりも遅れているということをわかっていた。

 校外学習である程度仲良くなれたと言っても、今のままではダメだと思っているのだ。


「度胸もたまには大事だよね……よし!」


 そうして気合いを入れ直した雫は、晴彦へと電話をかけたのだった。




雫「ところで、いつから晴彦のことに気付いてたの?」

奏「お嬢様のことはなんでも知っておりますので」

雫「え、なにそれ怖い」

奏「あんなことからこんなことまで、私はなんでも知ってますよ」

雫「いやだから怖いんだけど!」


 奏の謎の情報収集能力に恐怖を覚えた雫なのであった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります。

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月29日21時を予定しています。

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