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第86話 雫と過ごす日曜日 前編

何気に前回で30万字を超えたんだなーということに気付きました。まだまだこれからですけどね。もっともっと頑張っていきます!


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。



 『カナリア』へと行った次の日、晴彦は休みの日ということもあって部屋でゴロゴロとしていた。

 一度零音が起こしに来て朝ごはんを食べたのだが、その後に用事があるという零音はそのまま出ていき、晴彦は自由な時間を手にすることができたのだ。


「あー、この時間を無駄にしてる感覚。最高だ」


 日曜日の午前中。世間の人は友達と遊んだり、ゲームをしたりしている人もいるだろう。晴彦のように惰眠を貪っている人も一定数いるのだろうが。

 ともあれ、晴彦はテストが終わったということもあって何にも縛られることなく、堂々と部屋でゴロゴロすることができるのだ。いつもなら小言を言ってくる零音も今はいない。


「昼ごはんも作っていったってことは帰るのは昼過ぎるんだろうし、今日は一日寝てるか」


 部屋の窓から綺麗に晴れた空を眺めながら寝るという至福の時間を過ごすと決めた晴彦。ベットで横になってしばらく、ウトウトとし始めた頃に、突然スマホが鳴り出す。

 それは着信を告げる音だった。


「うー、誰だよ。せっかく寝れそうだったのに」


 恨みがましく呟いて電話に出る。


「もしもし」

『おはよう晴彦』

「っ!? 先輩!」


 一気に意識が覚醒する。

 ベットか飛び起きて、スマホを握り直す。


「ど、どうしたんですかいきなり」

『あら、用事がなかったら電話しちゃいけないのかしら』

「そんなことはないですけど」

『ふふ、まぁいいわ。今は一人かしら?』

「あ、はい。一人ですけど」

『朝道さんは?』

「零音なら今日は用事があるとかで出かけてますけど。零音に用事だったんですか?」

『あなたに電話をかけてるのに、そんなわけないでしょう。でも、ちょうど良かったかもしれないわね』

「ちょうどいい?」

『あなた、今日は暇かしら?』

「……今日は部屋で一日ゴロゴロするっていう用事が……」

『そう、よかったわ。暇なのね』


 晴彦のかすかな抵抗を雫はばっさりと切り捨てる。

 

「はい、暇です。暇ですよ」

『それじゃあ、私の家に来てくれるかしら』

「雫先輩の家に?」

『えぇ、一度来たことがあるから場所はわかるでしょう』

「それはわかりますけど……なんでまた」


 特に雫の家に行くような用事があるとは思えない晴彦は雫に聞く。

 すると、電話の向こうの雫が若干不機嫌になる。


『私は友達を家に誘っちゃいけないのかしら』

「そ、そんなことないですよ!」

『それじゃあ、家に来てくれるわね』

「もちろんです」

『いい返事ね。あぁそうだ晴彦、一時間以内に家に来なかったらあなたの秘密をSNSでばらまくから』

「え?」

『それじゃあ、また後でね』

「ちょっ、まっ、先輩!?」


 晴彦の呼び止めも空しく電話は切られてしまう。

 スマホを握ったまま、呆然と固まる晴彦。


「…………ヤバい!!」


 あの先輩ならばやりかねないと思った晴彦は慌てて着替えて、家を出るのだった。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 

 雫の家にて。

 雫は家の庭で優雅に紅茶を飲んでいた。


「……晴彦はまだかしら」


 雫が晴彦に電話をかけてから五十分近く経過していた。

 晴彦の家から雫の家までは早くても四十分ほどかかる。あの様子だと晴彦は着替えてもいなかったのだろうということはなんとなく雫にも想像がついていた。

 

「来たみたいです」


 雫の傍にいた使用人の奏が言う。雫にはわからなかったが、奏は何かを感じたらしい。奏曰く、来訪者の感知は使用人の嗜み、らしい。

 直後、インターホンが鳴らされる。


「ホントに来たわね」

「疑ってたんですか?」

「そういうわけじゃないわよ。出てあげて」

「はい」


 奏が玄関へと向かい、晴彦を出迎える。

 慌てて家から出て、雫の家まで走ってきた晴彦はすでに疲れ切っていた。

 

「ぜぇ、はぁ、はぁ……」

「いらっしゃいませ晴彦様」

「あ、どうも。えーと……」

「使用人の音無奏です」


 見覚えのある人だったが、名前まで思い出せずに困っていると奏が名乗ってくれる。


「どうぞ」


 疲れ切った晴彦を見た奏が、どこからか飲み物を取り出して晴彦に差し出す。

 何も持っている様子はなかったのに突如として出てくる飲み物。


「あ、ありがとうございます」


 目の前で起きた不可思議現象に目を丸くしながらもおずおずと受け取る。


「気になりますか? 飲み物をどこから出したのか」

「それはまぁ、気になりますけど」

「実は……」

「実は?」

「私は四次元ポケットを持ってるんです」

「……はい?」

「さっきの飲み物だけでなく、掃除用具から侵入者撃退アイテムまで、私共使用人は四次元ポケットの中にしまっているんですよ」

「え、それホントですか」

「もちろん冗談です」


 晴彦は思わず嘘なのかよ、と叫びそうになった。

 もちろん、奏の話は荒唐無稽だったがあまりにも淡々と話すのでもしかしたら、という風に思ってしまったのだ。


「庭でお嬢様がお待ちです。案内させていただきます」

「あ、はい。っていうか、結局教えてくれないんですね」

「これは使用人の嗜みですから。お客様にお教えするほどのことではございません」

「はぁ、そうなんですね」

「それでももし気になるというのであれば……この昼ヶ谷家の使用人となることですね。そうすれば仕事としてお教えすることになるでしょう」

「それは遠慮しときます」

「それは残念です」


 さして残念そうでもなく奏が言う。あまりにも表情が動かなさ過ぎて晴彦には奏が冗談で言ってるのか本気で言ってるのかわからなかった。

 そういう人なのだろうと思ってとりあえずは受け入れたのだが。


「遅かったじゃない晴彦。もう少しでSNSにあなたの秘密を投下するところだったわ」

「やめてください!」


 晴彦が庭にやって来て、雫の第一声はそれだった。


「それでは、私は席を外しますので何か御用があればお呼びください」

「えぇ、わかったわ」

「あ、飲み物ありがとうございました」

「お気になさらず。仕事ですから。それでは」


 またどこからともなく晴彦の分のティーカップを取り出して机に置き、奏は去っていく。


「……先輩」

「なにかしら」

「あれってどこから出してるんですか?」

「あぁそのことね。私も昔気になって調べたことがあるのだけど」


 それは昔、雫がまだ小学生だった頃の話だ。

 その頃から奏は雫の家で使用人として働いていたのだが、あのようにどこからともなく物を取り出すということをその頃からやっていた。

 気になった雫は使える手段は全て使って調べた。他の使用人にも聞いたし、奏の部屋も捜索した。食事中、睡眠中、果てはお風呂に入っている時まで、あらゆる手段を使って奏の秘密を探ろうとした雫だったが、その結果は、


「わからなかったわ」

「え、そうなんですか?」


 悔しさを滲ませた表情で雫は言う。


「彼女、恐ろしくガードが堅いのよ。どこにいても、何をしていても見つけられる。それ以来もう調べてないわ。気にはなるけどね」

「雫先輩でも知らないって……なんだか意外ですね」

「どういうことよ」

「いや、雫先輩ってなんでも知ってるイメージだったので」

「そんなわけないでしょう。私だって人間だもの。知らないことの一つや二つあるわ」

「そりゃそうですよね」

「まぁ、奏のことは今はいいわ。それで、今日家に来てもらった理由なのだけど」

「あ、はい」

「一緒にゲームしましょうか」


 雫は笑顔でそう言った。




雫が小学生の頃の話。

雫「ふふ、この天井裏ならバレないはず。あとは奏さんが寝た後にこっそりと」

奏「お嬢様」

雫「っ!?」

奏「気配がバレバレです。それでは天井裏にいても無駄ですよ」


 こうして、雫の作戦は一つ、また一つと失敗していったのだった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月28日21時を予定しています。


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