第83話 第3回元男達のガールズトーク! 後編
この作品を書いてたり、他の作品書いてる時間だけが癒しになってきている今日この頃。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「簡単に状況を整理しよう」
雪と雫のカミングアウトの後、動揺しまくった零音が落ち着いた後に雫が切り出す。
「まずボク達は全員、異性として晴彦の事が好き。それは間違いないね」
「オレはまだ確定じゃないけどな。一応それで間違ってねーよ」
「私も間違ってないです」
「ボクもそれに異論はないよ」
「……いつからですか?」
動揺から立ち直った零音が、二人のことを見て言う。その声音はいっそ恐ろしいほど静かで、だからこそ零音が必死に自分の感情を抑えているのだということがわかる。
「二人とも、いつから晴彦のことを好きになったんですか?」
「……オレはつい最近だな」
「ボクは……そうだな。ゴールデンウィークの頃だよ」
「え?」
「は?」
雫の予想外の返答に、零音と雪は目を丸くする。
零音が自身の気持ちを自覚するよりもずっと早く、雫は自身の気持ちに気付いていたのだ。
「何を驚いているんだい?」
「だって、そんなに早く気付いてたならどうして校外学習の時に私の背中を押すようなことをしたのかわからなくて」
零音が校外学習の最後に自身の気持ちに気付くことができたのは、雫がキャンプファイヤーの時にシンボルとして選ばれたからということも大きい。それ以外にも、零音が気持ちに気付けるように雫が色々と根回しをしていたわけなのだが。
「あぁ、そのことか。簡単な話だよ。君が晴彦のことを好きなのは知っていたからね。その気持ちに気付いてもらった方がボクとしても利用しやすいかなと思ったんだよ。まぁ予想外のこともあったけどさ」
全く悪びれる様子もなく、零音のことを利用するつもりだったという雫。事実、雫は零音の事を利用するつもりだったのだが、晴彦が雫の予想よりも早く零音への想いに気付いてしまったことでその計画は頓挫したのだ。
「利用って……よくそんなこと目の前で言えますね」
「事実だからね。まぁ今はもうそれは考えてないよ。むしろ今の君を使うのは悪手になりかねないし」
「はっ、やっぱお前って性格悪いよな。オレのことも利用しようとしてたのか?」
「君はちょっと使いづらいからね。そんなことは考えてないよ」
「そりゃ嬉しーよ」
あざ笑うように言う雪。対する雫はそれを気にした風でもない。
「まぁ、それはいいんだ」
「私は良くないですけど」
「一つ、聞きたいことがあるんだけどいいかな」
ぼそっと聞こえるように呟いた零音の言葉はあっさり無視される。
「朝道さんには前にも言ったことだけど、君達は晴彦と結ばれてどうする? 最初の目的の通り元の世界へ帰るのか。それともこの世界に留まるのか」
「それは……」
その質問は、零音が自身の想いに気付いてからずっと考えていたこと。そして、その答えを零音はまだ出せていない。晴彦と共に居たい。だが、零音には元の世界に帰らなければいけない理由があるのだ。自分のしてしまったことを、零音はこの世界に来てからも忘れたことはない。
「は、そんなことかよ」
しかし、雪はそうではなかった。馬鹿らしいと、そんなことは考えるまでもないと言わんばかりの態度。
「そんなの決まってんだろ。オレは元の世界へ帰る。それは微塵も揺らいじゃいねぇ」
「……それが晴彦との別れだとしても?」
「関係ないな。オレは確かに晴彦のことが好きだがな、だからってそれは元の世界へ帰ることを諦める理由にはならねぇ。晴彦と結ばれた最高の状況で、ずっと望んでた世界へ帰れる。そんなに最高なことってねぇだろ」
それが望みだと、雪は言う。しかし、元の世界へ帰るということは晴彦との将来を捨て去るということだ。それが零音を悩ませている理由のひとつだ。
「君は晴彦との未来を捨ててもいいって言うのかい?」
「報われるのは一瞬でいい」
雪はそう言い切る。その瞳に迷いはない。
「なるほど……それが夕森さんの考えか。ボクはその逆さ。元の世界には帰らない」
「はぁ? じゃあどうすんだよ」
「君たちのどっちかが晴彦と結ばれればいい。そして元の世界へ戻った後、ボクが晴彦のことを貰う。今は晴彦のことをあげよう。だが、晴彦の未来はボクのものだ」
今を捨てて、未来をとる。それが雫の決断だった。
「それで朝道さんはどうするのかな?」
「私……は……」
雪のように今だけをとって未来を捨てる選択も、雫のように未来のために今を捨てる選択も零音にはできない。そして何より、片方を捨て去る勇気を零音は持てなかった。
「まだ答えは出せてないんだね」
「それはそうですけど……でもだからって、晴彦のことを誰かに譲るつもりはありません」
たとえ答えが出せていなくても、そこだけは変わらない。晴彦の隣はだれにも渡さない。
その意志を込めて、零音は二人を見る。
その場に沈黙が満ちる。
「……まぁ、ここでボク達がどれだけ言い合ったところで、結局は晴彦次第になるわけだけどね」
続く沈黙の中、最初に口を開いたのは雫だった。
「違いねぇ」
「晴彦……好きな人とまでは言わないですけど、気になっている人とかいるんですかね? そろそろ脈くらいあってもいいと思うんですけど」
「「…………」」
「な、なんですか」
ものすごく残念な人を見る目で雪と雫に見られ、零音はたじろぐ。
「お前って頭はいいけど馬鹿なのな」
「それもまた愛嬌なのかもしれないね」
「だから、なんなんですか!」
「教えねーよバーカ」
「そのままでいてくれたほうがボク達は助かるしね」
「どういうことなんですか~~~!!」
零音の叫びは喫茶店の喧騒の中に飲み込まれて消えていった。
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それからしばらくの間、これからのことや特に意味のない雑談で盛り上がった零音達はその場で解散という流れになった。
「だいぶ長いこと話しちゃったな。早く帰らないと」
すでに時刻は三時過ぎ。買い物に行ったりすることを考えるならば早く帰って用意しなければいけないと零音は足を速める。
しかしその途中、ふと零音はおかしなことに気付いた。
「……あれ、この道。いつもならもっと人がいるはずなのに」
周りを見ても誰もいない。いつもなら必ず誰かの姿が見えるはずなのに、今日に限って誰もいない。それどころか、まだ昼過ぎであるというのに奇妙なまでの静けさだった。
「変だな」
不気味に思った零音は走って家に帰ろうとする。しかしその前に、一人の人物が現れる。
「なんていうべきなのかな。私は君のことをよく知ってるけれど、君は私のことを何も知らない……いや、知らないわけじゃないか」
零音の前に現れた、白髪の女。
「あなた……もしかして」
雪からその存在を聞いて、意識にはあった。
いつか見つけようとは思っていた。しかし、まさかその人物から現れるとは零音も予想していなかった。
「名前は知らないかな。それなら名乗っておくよ。私の名前は夜野、夜野霞美」
突然現れた霞美は、ゆっくり零音へと近づいてくる。
「初めまして、『朝道零音』さん。ううん、こう言った方がいいのかな。ようこそ、私の世界へ、よそ者さん」
クスリと笑って、霞美はそう言った。
雪「なぁ、晴彦ってさ」
零音「うん」
雪「エロ本とか持ってるのか?」
雫「ぶっ! な、何を聞いてるんだ君は!」
零音「前は持ってたけど全部捨てたよ」
雫「朝道さんも素直に答えるんじゃない!」
零音「あれから時間経ったし、また探すつもりだけどね」
雪「あ、オレも探したい」
零音「いいよ」
雫「よくないだろう!」
零音「昼ヶ谷先輩はどうしますか?」
雫「……いく」
喫茶店で繰り広げられた会話の一部でした。
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次回投稿は11月24日18時を予定しています。