第81話 中間テスト
中間テストの話です。そこまで長引かせる話でもないのでさっくりと終わらせます。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
中間テスト当日の朝、教室はいつもとは違う雰囲気に包まれていた。
必死に教科書を広げて勉強している者。友達と談笑している者。はなから諦めて寝ている者まで様々だ。ほとんどの人は勉強してるのだが。
高等部に入って初めてのテスト。最初でこけないために勉強する人が多いのも無理はない。
友達と談笑している者も、まったくテストを気にしていないというわけだはない。
「おれ、昨日全然勉強してねーわ。普通にゲームしてた」
「おれは昨日はテレビ見てすぐ寝たわ」
これもまたテスト前に起こる現象の一つ。本当は勉強してたのに、なぜか勉強してないという謎の牽制。テストで失敗した時のための予防線を張っているのか、勉強せずとも点数とれる俺スゲーと言いたいのか。その真意は定かではない。しかし、目の下にある隈のせいで言葉には全く説得力がない。
そんな中、晴彦達はどうなのかといえば、
「雪さん、俺はもうダメだ……」
「そ、そんな……ハルっち、寝ちゃダメだよ! 目を開けて!」
「あぁ……故郷の桜をもう一度見たかった……な……ガクっ」
「ハルっち……ハルっちーーーーー!!」
倒れる晴彦。泣き崩れる雪。そして、
「なに馬鹿な事やってるの?」
「あ、あはは……」
冷めた目で二人を見つめる零音。隣にいるめぐみは苦笑いだ。
「ほら、二人とも最後の勉強しなくていいの? あと少し時間あるよ」
「はーい」
「はぁ、勉強するか……」
先ほどまでの無駄にドラマチックな雰囲気はどこへやら、あっさりと起き上がった二人は鞄から教科書とノートを取り出す。
そんな二人の様子を見ていた零音は、ふと気になったことがあった。
「……ねぇ」
「ん? どうした?」
「なになにー」
「二人とも……仲良くなった?」
この間までよりも、少し近くなったような二人の距離感。それに零音は気付いたのだ。
「え、そうかな?」
「前からこんな感じだっただろ?」
「そう……だっけ」
「そうそう。アタシとハルっちは仲良しだよ。ねー」
「うん、まぁ、そ、そうだな」
「あ、でもー。ハルっちには責任取ってもらわないといけないんだけどね」
「責任? それってどういう——」
「わー! わー! ほら、雪さんも零音も、勉強しないと」
「ふふ、そうだね。ごめんねレイちゃん。これはアタシとハルっちの秘密だから教えられないや」
ニヤリと挑発的に零音を見る雪。対する零音はその目を真っすぐ見つめ返す。表面上は穏やかだが、零音の目にはまぎれもない嫉妬の炎が宿っていた。
二人の間になにがあったのかを零音は知らない。しかし、その何かが晴彦と雪の距離を近づけたのだということはわかった。
「ねぇハルっち。最初は英語だし、一緒に英単語の確認しようよ」
「む。ハ、ハル君。それよりも2時間目の数学勉強しないと。英語よりも数学の方が苦手でしょ」
これ以上雪の好きにさせてなるものかと零音も負けじと晴彦に提案する。
零音と雪に詰め寄られた晴彦。なんて答えるかと考えていると、突然選択肢が浮かぶ。
『とりあえずは目の前の勉強を。雪と一緒に英語の勉強をする』
『数学の対策をしておきたい。零音と一緒に数学の勉強をする』
『いや、それよりも今のうちに寝ておこう。睡眠の重要性!』
前回出てきた赤い選択肢とは違い、普通の選択肢。内容もそれほど突飛ではない。
晴彦としては英語の勉強をしたいというのが本音ではあるのだが、ここで雪を選んだならば零音が不機嫌になる。そんな予感がしていた。睡眠は論外だ。
「え、えーっと……じゃあ、数学の勉強をしようかな」
その瞬間、零音の好感度が2上がって『75』、雪の好感度が1下がって『41』になる。
(やっぱりというか……この選択肢が好感度に直結してるんだな。前みたいに好感度の数値がぶれて見えることはないけど……あれはなんだったんだ?)
雪といた時に晴彦に起きた奇妙な現象。それが起きたのはその一瞬だけで、その後はそれまで通り、普通の好感度が見えるだけだった。
「そうだよね。じゃあ勉強しよっかハル君」
「ちぇ。まぁいいや。めぐちゃん、一緒に英語勉強しよー」
「あ、う、うん。いいよ」
そして晴彦は英語のテストが始まるまでの時間、零音と一緒に数学の勉強をしたのだった。
ちなみに、友澤は一夜漬けの疲れで爆睡。山城は一人で黙々と教科書を開いて最後の復習をしていた。
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「俺はあの地獄の勉強会を乗り越えたんだ。今回のテストは余裕だな」
「ハルっち、それフラグだよ」
「なんとでも言え。最初のテスト。絶対にいい成績を残してみせるさ」
自身と共に高等部最初にテストに挑んだ晴彦だったのだが……。
一時間目、英語。
「どうだったハル君。ちゃんとできた?」
「まぁまぁだな」
「勉強会の成果はあった?」
「やってよかったって思えるくらいにはな」
二時間目、数学Ⅰ
「ハルっち、ハルっち。数学どうだった?」
「……なんとかまぁ……できた……気がする」
「もしかして……ダメだった?」
「だ、大丈夫だって。まだなんとか挽回できるはずだ」
三時間目、古典。
「日向君。どうだった?」
「古典……古典ってなんだよ。俺は現代日本人だバカヤロー」
「あ、あの、日向君? 目が、目が虚ろだよ!?」
「ダメだよめぐちゃん。ハルっちは……もう」
「はは、そうだ。遠く、どこか遠くに行こう」
晴彦の自信というものを根こそぎ奪い取って終わった中間テスト初日のテスト。
他のクラスメイトは自信あり気な者もいれば、読みを外して落胆する者もいる。悲喜こもごもといった様子だった。
「あー、なんだよこのテスト。難しすぎるだろ」
「散々だったみたいだね、ハル君」
「馬鹿だなぁ、日向は。頑張るから疲れるんだぜ。オレは開始数分で諦めて寝たね」
「いやダメだろそれ」
友澤の馬鹿な行動はともかく。晴彦と友澤以外の面々は、それなりにと言った手ごたえだったようだ。
「っていうか雪さんは勉強苦手なんじゃなかったのか?」
「まぁ確かに英語は全然だったけど……それ以外は今回は大丈夫かなぁって感じだよ」
「裏切り者め」
「というかハルっちってそんなに勉強できないの?」
「ハル君は勉強できないわけじゃないけど……本番に弱いんだよね。ケアレスミスとかがどうしても増えちゃって。自分でやる模試とかは解けるんだけど、本番になると途端にダメになっちゃうんだよ」
緊張か、はたまた別の要因か。習った時には解けた内容も、テストになるとできなくなる。それが晴彦だった。
テスト本番の弱さというのは晴彦と零音を長年悩ませていることの一つだった。
「へぇ、そうなんだねぇ」
「だから少しでも何とかするために毎回勉強会してるの。ほらハル君。帰って明日の勉強しよ」
「零音……この負け犬はもうほっといてくれ」
「ダメだよ。私がハル君のこと見捨てるわけないでしょ」
「零音……」
「ハル君……」
「二人とも何見つめあってるのさー。いいから早く帰ろうよ」
いい雰囲気になりかけた所を雪に邪魔され、少し不満気な零音。しかし、今は早く帰って晴彦に勉強させるべきだと思った零音は、何も言わなかった。
「今日の夜ご飯、ハル君の好きな物作ってあげるから。帰って勉強頑張ろ」
「俺は子供か」
「違った?」
「違うよ。でもまぁ、そうだな。あと一日、できるだけ足掻いてみるか」
そうして家に帰って零音と一緒に勉強をした晴彦。二日目のテストは少しだけ点数が良くなった……かもしれない。
家での勉強の途中のこと。
零音「ところでハル君」
晴彦「なんだ?」
零音「今日言ってた雪ちゃんとの秘密って……何?」
晴彦「さ、さぁ……何の話だ? 俺にはわかんないなー」
この後も度々追及してくる零音を、晴彦は必死にかわし続けたのだった。
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次回投稿は11月21日21時を予定しています。