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閑話 昔の零音

幼稚園児の頃の零音の話です。

まだ今の世界に慣れきってなかった頃ですね。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 それはまだ零音が幼稚園児だった頃の話。

 まだ零音が『朝道零音』に成り切れていなかった頃の話だ。


「零音ちゃん、朝よ。起きなさい」

「う、うーん……まだ眠たい……」

「もう、わがまま言わないの。ほら、起きないと朝ごはん冷めちゃうわよ」

「んー、わかったー」


 もそもそと起き上がり、襲い来る眠気と戦いながら着替え始める零音。

 幼稚園に入り、零音には一人部屋が与えられていた。

 それは零音としてもずっと望んでいたものであった。元とはいえ高校生男子。親と一緒に寝るというのは気恥ずかしさがあったのだ。まぁそれだけが理由ではなかったのだが。


「あの二人すぐにわたしが寝たと思ったらすぐにイチャイチャするんだもんなー。やめてほしいよ、ホント」


 あの空間から逃れられただけでも零音にとっては嬉しかったが、それはそれとしてこの部屋にも一つ問題があった。


「でもこの部屋はなぁ……ちょっといやだよなぁ」


 部屋を見渡せば目に入るピンク、ピンク。どこを見てもピンク色の部屋。

 それほど色が濃いわけではないが、零音にとってはピンク色の部屋と言うのはそれだけで受け入れがたいものだった。

 この部屋は完全に母親である莉子の趣味である。女の子が生まれたならこういう部屋にしよう、と零音が生まれる前から少しずつ準備していたらしい。

 体は女になったとはいえ、心はまだ男なのだ。


「ま、何を言っても今さらって感じだけどな」

「零音ちゃーん、まだお着替え終わらないのー? 早くこないとー」

「い、いまいくー!」


 莉子から催促され、零音は慌てて一階へと向かう。

 莉子に逆らうことは死を意味する。この世界に来て数年、零音が真っ先に覚えたことの一つである。

 リビングではすでに父親の秋介が新聞を片手にコーヒーを飲んでいた。


「おはよう、お父さん」

「あぁ、おはようマイエンジェル零音! でもできればパパって呼んで欲しいな。そしてパパって呼んで胸に飛び込んでくるんだ!」


 零音の姿を見るなり新聞を読むのを止め、カモンと言わんばかりに手を広げる秋介。


「それはいや」

「はぅ! どうしよう莉子。零音がもう反抗期だ!」


 にべもなく切り捨てる零音。

 パパと呼ぶのも、胸に飛び込むのもノーセンキューだと零音は秋介の主張を相手にもしない。

 そもそも、莉子の目の前で秋介の胸に飛び込むなんて真似をしようものなら、娘の零音でさえどうなるかわからないのだが。


「なに馬鹿な事いってるのよ。ほら、もう仕事に行く時間でしょ」

「おっと本当だ。それじゃ、今日も莉子と零音の為に頑張ってくるよ!」

「ふふ、いってらっしゃい」


 莉子に軽くキスをして仕事へ向かう秋介。

 最早零音にとっては見慣れた光景だ。


(まぁ、親が仲良しなのはいいことだ。夫婦喧嘩は犬も食わないって言うしな)


 もそもそと食パンをかじりながら零音はテレビを見る。流れているのは元の世界にいた頃とほとんど変わらないテレビ。ただ、少しずつ芸能人の名前が変わっていたりするだけだ。


「ほら零音ちゃん、テレビ見てないで早くご飯食べないと。幼稚園に遅れるわよ」

「は~い」


 小さな口に精一杯頬張りながら、食パンを食べきる零音。食パン一枚でも今の零音の小さな体は満足できてしまうのだ。


「んぐ、ごちそうさまでした」

「はいお粗末様。もう幼稚園の用意はできてるの?」

「うん、大丈夫だよ~」

「それじゃいきましょうか」

「うん」






□■□■□■□■□■□■□■□■


 莉子に連れられて幼稚園にやって来た零音。外で遊んでいる他の幼稚園児を零音は一人、ブランコに座って見ていた。


「…………」


 わいわいきゃっきゃと、楽しそうにはしゃぐ子供達。おままごとをしていたり、鬼ごっこしていたり、遊びは様々だ。

 しかし、零音はそのどれにも参加していなかった。


(あれに混ざるのはなぁ、抵抗ある)


 他の女の子からおままごとに誘われたりもしたが、羞恥が勝ってできる気がしなかった零音は、それを断り続けていた。そのうちに、女の子のリーダー的な存在から嫌われてしまった零音は、他の女の子からも敬遠されてしまうという現状が出来上がったのだ。

 こんな幼少時代から女社会というものがあるのかと零音は恐ろしく思った。

 ちなみに、零音が女の子のリーダーから嫌われたのはただ断り続けていたからというだけでなく、その女の子が気になっている男の子が零音のことばかり話すのが気に食わなかったのだ。要は、子供の嫉妬である。

 そんなことは全く知らない零音は、今日も一人でブランコをこぎ続けていた。


「……零音ちゃん、他の子と遊ばないの?」

「せんせい」


 そんな零音を、先生が心配に思わないはずもなく。一人でいる零音のもとに先生がやってきた。


「おままごとしたり、かくれんぼしたり、ブランコもいいけど他の子と遊ぶともっと楽しいよ」

「おかまいなく」

「おかまいなくって……どこでそんな言葉覚えたの?」

「……テレビで」


 今日も今日とて、零音のことを心配して構ってくる先生。その目を見れば、本気で案じているのだということは零音にもわかっていた。

 先生に心配を与えるのは心苦しい零音だったが、さりとて今さらおままごとに入れてくれと言えるわけもない。


(どうしよっかな。このままだと最悪お母さんに連絡がいきかねない)


 どう動くべきかと考えていると、遠くから一人の男の子がやってくる。


「おーい、れいね! なにしてるんだよ」

「うっ」


 その声が聞こえた途端、嫌そうな顔をする零音。


「……はるひこ君」

「せんせい! おはようございます!」

「はいおはよう。今日も元気ね、晴彦君」

「うん!」


 タタタっと駆け寄ってきたのは、零音にとってこの『アメノシルベ』の世界を出て、元の世界に戻るための重要人物、日向晴彦である。

 当たり前だが晴彦も人間。子供の時代というものがある。


(こいつと将来結ばれないといけないんだもんなぁ……)


 そのことを理解している零音だが、この子供の姿を見ても晴彦と恋愛している姿を零音は想像できなかった。

 ゲームの晴彦と全然違う子供晴彦にどう接していいかよくわかっていない零音はこの晴彦のことが少し苦手だった。

 そんなことは全く知らない晴彦だが、何の因果か、いつもいつも零音に構ってくる。零音が一人でいられるのも、晴彦に見つかるまでの間なのだ。


「おいれいね! きょうそうしようぜきょうそう!」

「え、ちょっと」


 手を掴まれ、ブランコを無理やり降ろされる零音。

 先生に助けを求めるような目を向けても、ニコニコと手を振られるだけ。ようやく遊ぶ気になってくれたのかと安心しているのだ。


(はぁ、しょうがないか)


 諦めて晴彦について行く零音。


「きのうお母さんととっくんしたんだ。ぜったい勝つからな!」

「はぁ、わかったよ。でもわたしだって負けないからね」


 そして晴彦と零音の二人は、中庭へと向かうのだった。





 これよりずっと先、零音は本気で晴彦に惚れることになる。しかし、この時の零音はまだそのことを知らなかった。


零音「せんせい、人生ってなんなんでしょうね」

先生「人生!? さ、さぁ……先生にもわからないなぁ」

零音「わたしは、わたしにほこれる生き方をしてるんでしょうか」

先生「あなたまだ幼稚園児よね!?」


 たまに哲学的になる零音に困る先生の一幕。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月19日21時を予定しています。


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