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第80話 映画館デート 後編

雪デートの締めです。少しだけ長くなっちゃいました。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです

「ねぇハルっち、この後どうしよっか」


 フードコートで昼ご飯を食べた後、雪が切り出す。


「え、俺は映画観終わったんだしこのまま解散でも……」

「それ本気で言ってる?」

「いえ嘘です冗談です」


 晴彦としては特に用事がないなら解散でもいいかなと半ば本気で思っていたのだが、それを言おうとした時の雪の冷たい目に、あっさりと意見を翻す。


「でもじゃあどうするんだ? 俺は別になんでもいいけど」

「そうだなぁ……ホントになんでもいいの?」

「……いい、けど」


 なんでも、と言った時の雪の目に宿った不穏な気配に、晴彦は嫌な予感がした。


「じゃあさ、ちょっと買い物に付き合ってよ」

「買い物?」


 予想していたよりも軽い内容に、身構えていた晴彦は拍子抜けする。


「なにその間抜けな顔。アタシが変なこと言うとでも思ったの?」

「少しだけ」

「ハルっちはアタシをなんだと思ってるのさ!」

「ごめんごめん、悪かったって」

「もー。ハルっちのアタシに対する認識がよくわかったよ。じゃあ行こ、買い物付き合ってくれるんでしょ」

「あぁ、わかったよ」


 雪の後について行く晴彦。先を行く雪がニヤリと笑ったことには気づいていなかった。






□■□■□■□■□■□■□■□■


「雪さんのことを一瞬でも信じようとした俺が馬鹿でした」


 雪に連れられて来た場所で、晴彦は呆然と呟いていた。


「何言ってるのハルっち。ほら入ろ」

「いやいやいや! これは無理、無理だから!」

「そんな恥ずかしがることじゃないじゃん。もうすぐ夏なんだし、早めに決めとかないとね」


 そう、今晴彦と雪が来ているのは水着売り場だった。これから来る海やプールのシーズンに向けて、多くの種類が取り揃えられているその売り場。ほとんど女性しかいないその売り場で、晴彦のような数少ない男性は肩身が狭そうにしていた。


「だったら別に俺とじゃなくても……それこそテスト終わりに零音と一緒に来たらいいじゃないか」

「ダメだなーハルっち。これはハルっちに選んでもらわないとダメなんだよ」

「なんでだよ」

「だってこの水着はハルっちに見せる予定なんだし。だったらハルっちの好みに合わせた方がいいでしょ」

「だから……あぁ、もういいや。でもあんまり参考にするなよ」


 雪と口で争ってもいずれ丸め込まれることはわかりきっている晴彦は、早々に諦めて、できるだけ早く終わらせる方向で行こうと決めた。


「よーし! じゃあどんどん行こっか!」


 そして晴彦は雪に手を引かれ、店の中へと入っていった。

 





 二人が店に入ってから遅れること数分、鈴が水着売り場へとやってくる。


「ぜぇ、はぁはぁ……や、やっとまけた……」


 警備員に追いかけられ逃げて、さらに応援を呼ばれて逃げて、なんとかやり過ごすことに成功したのだ。

 その際に、先ほどまで来ていた怪しさ満点の黒い服は脱ぎ去り、代わりに途中の店にあった普通の服を身にまとっていた。


「まったくもー。わたしには雪ちゃんのデートを成功させるっていう使命があるのに。邪魔するなんて酷いよ」


 自業自得であるというにも関わらず、仕事を果たしただけの警備員を責める鈴。理不尽ここに極まれりである。


「まぁいいや。二人はここに入ったみたいだね。水着か……そういえば今年の水着買ってないなぁ。去年と同じは嫌だし。でも買うならもう少し痩せてからの方が……うーん、どうしよう。ってそうじゃないや、雪ちゃん日向君に水着選んでもらうのかな」


 店の中に入ると、雪が晴彦に水着を見せている。どうやら意見を求めているようだ。晴彦も顔を赤くしながらも、一応は答えているようだ。

 好きな人に水着を選んでもらう。それは悪くない考えだと鈴は思う。いきなり見せるというドキドキは無くなるけど、下手なものを選ぶよりはよっぽど堅実だ。


「雪ちゃん、立派になったね」


 思わず鈴は涙ぐみそうになる。今まで雪は鈴が連れてこないと水着も買おうとしなかった。それが今はどうだ。好きな人を連れて水着を選んでいる。その成長が鈴には嬉しかった。


「でもせっかくならこの機会、もっと生かしたいなー……よし!」


 鈴は考えをまとめると、動き始めるのだった。





□■□■□■□■□■□■□■□■


「ハルっち、ハルっち、この水着とかどうかな!」

「これって……ぶっ! それホントに水着かよ!」


 雪が晴彦に見せてきたのは水着というよりも紐だった。それでいったいどこが隠せるというのか晴彦にはわからなかった。思わずそれを着た雪の姿を想像してしまい、顔が赤くなる。


「あ、今想像したでしょー。ハルっち変態だ―」


 そんな晴彦の心の動きは元男である雪には手に取るようにわかる。自分のような美少女がこれを着ている姿、想像するだけでも破壊力があるだろう。さすがに本当に着る気は雪にもないけれど。

 というか雪自身、これを売っている店の精神を疑いたくなった。まぁ、ネタのようなものなのだろうけど。


「ねぇ着て欲しい? 着て欲しいハルっち?」


 ニヤニヤと笑いながら言う雪。


「着、着て……欲しくない!」


 答えるまでの間が如実に本音を語っていたが、晴彦は頭の中に浮かんだ想像の雪を振り払い、否定する。


「ふふふ、ハルっちをからかうのはこれくらいにしてー。そろそろちゃんと水着選ぼっか」

「頼むから最初からちゃんと選んでくれ」

「だって面白いんだもん」


 カラカラと笑いながら雪は言う。

 晴彦にとってはいい迷惑だ。


「で、ハルっちはどんな水着が好きなのかな」

「どんなって言われてもな―」


 そもそも水着のことなどそれほど知らない晴彦。どれをと言われても、答えれるだけの知識がなかった。


「それじゃあ、綺麗系の水着と可愛い系の水着だったら?」

「綺麗系と可愛い系?」


 そう言って雪が見せてきたのは、黒のメッシュワンピース水着とピンクの花柄のフレアトップ水着。

 黒の水着を着れば、雪が時折見せる妖艶な美しさが際立つだろう。ピンクの水着であれば、普段の雪の元気さが際立つ。どっちも良いと晴彦は思うけれど、それは雪の望む答えでないことはさすがに晴彦にもわかる。


「んー、じゃあ、そっちかな」

「このピンクの方?」

「あぁ」

「ふーん……」


 結局、晴彦が選んだのはピンクの水着だった。

 雪は晴彦が選んだ水着と、晴彦の顔をジッと見て言う。


「もしかしてさ、レイちゃんに似合いそうな方選んだ?」

「うっ」


 それは事実であった。晴彦はどっちも雪に似合うならどっちの方が零音に似合うかで決めようと思ったのだ。そして出した結論だったのだが、まさか見抜かれると思ってなかった晴彦は思わず顔を逸らす。


「なんだか傷ついちゃうなー。アタシと一緒の時もハルっちはレイちゃんのことばっかり考えるんだ」


 晴彦が零音のことが好きだというのは雪にもわかっている。だからもしかして、と思って聞いた雪だったが、それが事実だと認められ、何故か一瞬だけイラっとしてしまう。


「悪い」


 気まずげに頭をかく晴彦。さすがに自分の決め方が良くない決め方だというのはわかっている。


「じゃあ、水着奢りね」

「えっ!?」

「嫌なの?」

「それは財布的に……いえ、はい、わかりました」


 今月は新作ゲームを買えそうにないと晴彦はうなだれる。しかし、自分が原因なのでしょうがないとわりきることにした。


「まぁまぁ、水着着てるとこ見せてあげるからさ。あ、それと」

「それと?」

「このデート中はもうレイちゃんのこと考えないこと。いい?」

「わかったよ。そうする」

「よろしい。それじゃこの水着は両方とも無しとして。今度はちゃんと選んでね、ハルっち」

「……はい」


 それから長い時間、晴彦は雪の水着選びに付き合わされることになった。

 一つの店だけでなく、いくつも店を回らされる。あっちへこっちへ、またあっちへと。普段の元気そのままに連れまわされる晴彦は次第に疲弊していった。


「これくらいかなー」

「も、もういいのか?」


 色々と水着を選ばされた晴彦は、すでに疲れ切っていた。

 主に、自身の煩悩と戦った結果である。


「それじゃ後は着てみるから、感想聞かせて欲しいな」

「えぇ!」

「覗いちゃダメだからね」

「覗かねーよ!」


 うろたえる晴彦を置いて、雪はさっさと更衣室に入ってしまう。


「はぁ、疲れた……」


 思わず呟く晴彦。

 その直後である。


「ちょっとごめんね!」

「え?」


 ドンっと誰かに押される晴彦。

 その誰かとは言うまでもなく鈴である。

 誰かに押されるなど想像もしていなかった晴彦は無抵抗のまま飛ばされてしまう。

 そしてその先にあるのは雪の入った更衣室である。


「え、ちょっ」


 踏ん張ろうとする晴彦。しかし、こらえることができずそのまま雪の更衣室へと突入してしまう。


「へ?」

「いたた……なんだよいきなり」

「ちょっ、ハルっち! 顔上げちゃダメ!」


 雪の制止も間に合わず、晴彦は顔を上げてしまう。

 そして目に飛び込んでくるのはどこまでも肌色で下着も水着もない状態の雪の姿。


「っっう、きゃああぁああああああ!! 晴彦のバカ野郎!」

「ぐはっ」


 直後に襲い来るとんでもない衝撃。

 更衣室からけり出されたのである。

 薄れゆく意識のなか、最期に晴彦が見たのは顔を真っ赤にしながら足を振りぬいた状態でこちらを睨む雪の姿だった。




□■□■□■□■□■□■□■□■


「う、うーん……」


 晴彦が目を覚ました時、目に入って来たのはすでに暗くなった空だった。


「あ、ハルっち起きた? 大丈夫?」

「えーと……ここは?」

「ショッピングモールの外の公園だよ」

「なんで公園に……っていてて」

「ダメだよ無理して動いちゃ。アタシ思いっきり蹴っちゃったから」


 そこまで言われてようやく晴彦は思い出した。自分の身に何が起こったのかということを。

 それを思い出すと同時、自分が今雪に膝枕されているのだということに気付く。

 起き上がった晴彦は慌てて雪から離れる。


「あ! わ、悪い! 更衣室に入ったのはわざとじゃなくて」

「大丈夫だよハルっち……全部わかってるから」


 そう言って雪が指さした方向には、正座をして反省中の看板を首からさげた鈴がいた。

 あの直後、近くにいたのを見つかった鈴は雪に見つかって、そのまま捕まり、晴彦を更衣室へ突入させたことを話したのである。

 鈴がなぜ晴彦を更衣室へ入れるという暴挙にでたのかと言えば、それは彼女が参考にしたものに問題があった。鈴は、二人に関係を進めるために教科書として、漫画を用いてしまったのだ。そして漫画内で出てきたラッキースケベシーン。鈴はそれを使おうと思ったのだ。


「うぅ、ごめんなさーい。反省してまーす」

「アタシ久しぶりに本気で怒ってるから。まだそのままだからね」

「ごめんってばぁ。雪ちゃ~ん、許してぇ」

「えーと……この人は?」

「アタシの友達の鈴、白石鈴っていう子だよ。ま、この子のことはいいからさ。ホント、ごめんね」

「いや、もういいけどさ」

「それでその……見た?」


 少し顔を赤くして聞いてくる雪。


「見たって……あ」


 蹴られる直前、見えてしまった、見てしまった雪の裸体を思い出して晴彦も顔が赤くなる。


「できれば忘れて欲しいんだけど……」

「……努力します」


 そうは言っても、晴彦は見てしまった光景を忘れることができる自信はなかった。晴彦も男の子なのである。

 しばらくの沈黙の後、雪がポツリと話し出す。


「……ねぇハルっち。覚えてる?」

「覚えてるって……何を?」

「アタシのことを意識させてみせるって話」

「……その話か」


 ゴールデンウィークの時、雪の部屋で晴彦が言われたこと。


「でも、俺は——」

「知ってる。レイちゃんのことが好きなことはね。でも、一応聞いとくね。アタシのことは好きになれそうにない?」

「……ごめん」

「……そっか」


 晴彦の返事を聞いて、雪は自身の胸が少しだけ痛むのを感じた。それはわずかな時間で、あるいは気のせいで済ませてしまえるようなものだったが、確かにあった痛みなのだ。


(……はは、情けねぇな)


 この痛みが自分のどんな気持ちからきているのか。それに気づかないほど雪は馬鹿ではない。


「……本気になりかけてたんだな、オレ」


 俯いて、小さく呟く雪。

 

「…………よし! 決めた!」


 勢いよくその場から立ち上がる雪。


「決めたって何を?」

「ハルっちに責任取ってもらおうと思って」

「責任?」

「アタシの裸見たじゃん。これはもう責任取ってもらうしかないよね」

「え!? い、いや、それは……」

「ま、それは冗談だけど」

「冗談かよ!」

「でも、一つだけ言っとくね」


 決意を込めて晴彦を見つめる雪。


「アタシ、ハルっちに本気になれそうかも」

「え、それってどういう……」


 瞬間、晴彦の目にノイズが走る。

 それまで見えていた雪の好感度『42』の数字がぶれて別の数字が被る。

 それは一瞬のことだったが、確かに晴彦の目には見えたのだ。


(今のは……なんだ?)


 初めて起きた現象に動揺する晴彦。

 そんなことを知らない雪は、晴彦に近づいて言う。

 あのゴールデンウィークの日と同じように、しかし、それ以上の決意を込めて。


「覚悟しといてねハルっち。絶対にアタシの事、意識させてみせるから」



零音「……おかえりハル君」

晴彦「た、ただいま……」

零音「今何時だと思う? 何回連絡したと思う?」

晴彦「え!? あ、ホントだ、気付かなかっ——はっ!」

零音「そう、気付かなかったんだ……いい度胸だね」

晴彦「いや、あの……うわぁあああ!!」


 この後晴彦の身に何が起きたのか。それは神のみぞ知る。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月18日18時を予定しています。

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