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第76話 雪と鈴の作戦会議

久しぶりに初期に作ったプロットを見たら内容が大幅に変わっててびっくり。でも大筋は変わってないので良しとするのです。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「雪ちゃんには事前の調べが足りないと思う!」

「はぁ?」


 放課後に鈴と一緒にハンバーガーショップに入った雪。

 適当に飲み物とポテトを注文してから、席に座るなり鈴がそんなことを言い出した。


「どういうこと?」

「雪ちゃんは日向君のことが好きなんでしょ」

「好き……うんまぁ、そうだね。好き、好きだよ」


 元の世界に帰るために晴彦を攻略したいというだけの雪は、鈴の言葉に曖昧な返事をしてしまう。


(晴彦の事なぁ、まぁ他の男よりは好きだから間違っちゃいねーだろ。ってか、なんだいきなり。いつものことだけど)


 昔から鈴と一緒にいる雪は、たびたび鈴の突拍子の無い発言に振り回されたりしていた。だからこそ鈴が変なことを言うのには慣れているのだ。


「好きならちゃんと相手のことは調べないとダメだよ。相手のことをちゃんと知ってたら、使える手段も、方法もわかるんだから」

「そうだね。でもアタシ、ハルっちのことなら結構知ってるよ」


 その点に関して言うなら、雪は少しだけ自信があった。というのも、もともとこの『アメノシルベ』のゲームはプレイしていたわけで、その過程で主人公である晴彦の事はだいたい理解してると思っている。好きな食べ物とか、そういうことはちゃんと知ってるのだ。


「ホントにぃ?」


 懐疑的な目で雪のこと見る鈴。

 鈴の経験上、雪は何かをするときにちゃんと調べてからと、知っているということはほとんどなかった。動けばなんとかなると言うのが雪なのだ。そしてそのせいで鈴は何度も苦労させられてきたのだ。


「じゃあ、私の質問に答えてね」

「うん? うん、いいけど……なんの質問?」

「日向君のことに関する質問に決まってんじゃん。いくよ」


 そもそもなんで鈴が晴彦の事を知ってるんだと言いたい雪だったが、真面目な表情の鈴に言うタイミングを逃してしまう。


「それじゃまず一問目。日向君の誕生日は?」

「9月17日」

「お。正解正解。誕生日は大事だからね、これくらいは答えてもらわないと」

「これくらいはねー、アタシだってわかるよ」


 晴彦の誕生日は9月17日。ちなみに零音の誕生日は9月15日なのだ。二人の誕生日はその間の16日の日にまとめて祝われるのだ。


「じゃあ次ね。日向君の初恋の人は?」

「……ん?」


 予想外の方向の質問に、雪は目を丸くする。

 

「わかんないの? まだ二問目だよ」

「いやいやいや、わかるわけないじゃん!」


 晴彦の好きな食べ物。嫌いな食べ物、どんなゲームが好きだとか、得意なこと、苦手なことなんかであれば雪にもわかる。しかし、初恋の人なんてわかるわけがない。それはゲームでも出てきてないことだった。


「はーい時間切れー。全然ダメだよー。わかってない」


 呆れた表情で言う鈴。


「正解は、小学二年生の頃に近所に住んでた大学生のお姉さんの天野さんでしたー」

「そんなのわかるわけないじゃん! っていうかなんで鈴ちゃんがそんなこと知ってるの」

「んーとね、隣のクラスの友達の、その友達のさらに友達のお姉さんの友達の妹の親戚のお姉さんの友達のお母さんの知り合いの娘さんの友達の人が知ってたよ」

「それもうただの他人じゃん!」

「友達だよ?」


 あっけらかんと言う鈴。

 鈴の調べたいことに対する行動力はすごいものであるが、同時に恐ろしいものだと雪は感じている。一度決めたらとことんというのは鈴らしいとも思うのだが。


「もう、そんなんじゃダメだよ。日向君には朝道さんっていう幼なじみもいるんだし……悠長にしてたらとられちゃうよ」

「そうだけど……そこまで調べる必要あるかなぁ?」

「知らなくていい情報なんて無いんだよ。知れば知るだけ役に立つんだから!」

「わかった、わかったから」


 いまいち納得はできていない雪だったが、鈴の勢いに押し切られてしまう。


「じゃあ話していくね。ちゃんと覚えてね」


 そして鈴の口から語られる晴彦の情報、情報、情報の山。雪の知っていたこともあったが、それ以上に知らないことの方が多かった。

 最初はちゃんと聞いていた雪だったが、あまりの情報の多さにとうとう耐え切れなくなる。前に零音の所で行った勉強会を思わず彷彿とさせてしまう。


「ちょ、ちょっと待って!」

「ん? どうしたの?」

「そんな一気に言われても覚えられないって」

「うーん、まぁそっか。じゃあちょっとだけ休憩かな」


 色々と書いていたノートをしまい、すっかり冷めてしまったポテトを鈴は食べ始める。雪もホッと一息ついてジュースを飲む。

 

「ねぇどうしてそんなにハルっちのこと調べたの?」

「どうしてって……雪ちゃんのためだよ」


 当たり前だという顔で言う鈴。校外学習の時、鈴は雪の望みを叶えると決めた。雪が晴彦と結ばれることを望むというなら、それを全力で手伝うのが親友である自分の役目なのだと。だからこそ使える手段は全部使って晴彦の事を調べたのだ。


「ま、あとはわたしが日向君ってどんな人かなーって思ったからねー」


 晴彦が雪に相応しい人物なのかどうか、それを調べたいというのも理由のひとつだった。とりあえずは及第点というのが鈴のくだした結論だった。


「あの校外学習のキャンプファイヤーはカッコよかったかも。わたしもあんな風なことされてみたいなー」


 キラキラと目を輝かせて言う鈴。

 校外学習の最後、キャンプファイヤーで見せた零音と晴彦のやり取りは当然のことながら鈴だけでなくほとんど全員の生徒が見ており、憧れを覚えた生徒もそれなりにいたという。

 その結果、ただでさえ高かった零音の人気はさらに上がり、晴彦もまた裏で少しだけ人気になったのである。晴彦と零音はまだそのことに気付いていない。


「あー、あれね」

「雪ちゃんは憧れなかったの?」

「うーん……」


 雪は考える。もし、あの時、零音のポジションにいたらどう感じただろうかと。

 目の前で晴彦が自分の手を取り、踊って欲しいという。真剣な眼差しで自分のことを見つめる。


「……私はいいかなー。さすがに全員の前であぁいうのは恥ずかしいし。試合とかなら全然平気なんだけどねー」


 出した結論は無し、だった。他の男ならありえないけど晴彦なら別にいいとは思う。別に嫌ではないけど、さすがにまだそれは恥ずかしいというのが雪の考えだった。


(さすがにあれはねぇよなぁ。ありゃ無理だ。でも……)


 ふと、雪は思う。あれを晴彦と二人っきりの状況であれをされたなら、それを拒むことができるだろうか、と。そして少なくとも、嫌だとは思っていない自分に気付いて苦笑する。


(はは、オレも思った以上に女に染まってんだなぁ。朝道のことバカにできねぇな)


「どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」

「そうだ、雪ちゃんみたい映画あるって言ってたよね」

「え、うん。あるけど……どうしたの急に」

「それに日向君を誘おうよ」

「はぁ!?」

「デートだよデート!」

 

 いきなりの提案に面食らう雪。確かに見たい映画はあったけど、だからと言ってそれに晴彦を誘えと言われるなど考えてもなかった。

 雪は晴彦のことをデートに誘ったことはあるけれど、それゲームのシナリオを順守してのこと。もはやストーリー知識が役に立たない状況になっている今、いきなりデートに誘えと言われて躊躇うのも無理はない。


「積極性だよ雪ちゃん! 幼なじみという強敵を打ち破るには積極的に行くしかないんだよ!」

「積極性……」


 そこで雪はハッと思い出す。自分は校外学習の時にどうすると決めたのかを。


(そうだ。オレはオレらしく晴彦に惚れさせるって決めてんだ。オレらしくいくなら真っ向勝負だ)


 零音の想いを見て、聞いて無意識の内に気が引けていたのだということに気付いた雪。


「そう、そうだね! アタシは積極性を忘れてたよ!」

「そうだよ! その意気だよ雪ちゃん!」

「アタシやる気出てきた!」


 うおぉぉぉおおお!! と燃え上がる二人はすっかり忘れていた。今自分達がどこにいるのかということを。

 店内で騒いでいる二人の元に、店員がゆっくり近づいてくる。


「あのー、お客様。あまり店内で騒がれると他のお客様の迷惑になりますので……」

「「あ……」」

 

 あくまで下手に出る店員。しかしその表情が、雰囲気が物語っていた。さっさと出ていけこの野郎、と。


「「ご、ごめんなさーい!!」」


 こうして、二人は脱兎のごとく店から逃げ出したのである。

 


鈴「あ、そういえば雪ちゃんの見たいって言ってた映画今週末までだよ」

雪「え、そうなの」

鈴「デートは今週末に決定だね!」

雪「じゃあ明日ハルっちのこと誘わないとなー」


 なお、二人は来週からテストであることを忘れています。




今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月12日21時を予定しています。


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