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第73話 赤い選択肢

腹が減っては戦はできぬ、と言うように、お腹空いてると作品を書く力も出ないということを実感しました。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 放課後、職員室に行った零音を待って俺は教室にいた。

 すぐに戻って来るから待っててね、と言って職員室に向かった零音だけど……何の用事か聞いてないし、いつ戻って来るかもわかんないんだよなぁ。

 

「まぁ三十分くらいして戻って来なかったら職員室に行ってみるか」


 もうすでに教室には俺以外誰も残ってない。雪さんは別のクラスの友達と遊びに行ったし、井上さんは欲しい本の新刊が出るとかで足早に帰って行った。友澤は部活で、山城は家の手伝いらしい。

 他のみんなも部活とかバイトとかあるらしい。俺は帰宅部だし、することないんだよなー。


「勉強……は、しばらくしたくないし。あの勉強会はちょっとトラウマだし」


 あの勉強会からすでに一週間ほど経ったけど、何回か夢に見るほどにはトラウマになっていた。好きな人と一緒に勉強するってもっと楽しいと思ってたんだけどなぁ……まぁ、零音からしたら勉強できない幼なじみに勉強教えるってだけなんだろうし、厳しくなるのも無理ないのか。


「ただの幼なじみからランクアップするにはどうしたらいいのか……って、はは、おかしいな、俺」


 昔、というかついこの間まではこんなこと考えるなんて思ってもなかった。

 俺自身に変わったことがあるとするなら……好感度が見えるようになったことか。これを手に入れてからいろいろと変わったよな。選択肢なんてもんも見えるようになったし。最近は全然出てこないけど。

 そこまで考えてふと思う。この好感度が見える力がなかったら、俺は零音のことを意識しただろうか、と。

 夜野に零音と、雪さんと、雫先輩の三人が俺の運命の人だと言われた。それを言われたから、俺は零音のこともどこか意識していたのかもしれない。だからこそ自分の気持ちに気付いた……とか?

.

 まぁ、理由がなんでも零音のことが好きになったってことに変わりはないんだけどさ。


「零音が運命の人だったってのはそういう意味ではよかったかもな。夜野の言ってることが本当かどうかはまだわかんないけどさ」

「私のいうことまだ信じてなかったの?」


 後ろから突然聞こえた声に慌てて振り返る。


「夜野っ!?」

「久しぶりね」


 教室の一番後ろに、夜野の姿があった。

 あまりにも唐突に表れた夜野に、言葉が出てこない。


「どうしたの? 私の事を探してたんじゃないの?」


 無表情のまま、ジッと俺のことを見つめて聞いてくる夜野。

 そう、そうだ。この間からずっと俺は夜野の事を探してたんだ。

 このチャンスを逃すわけにはいかない。


「確かに探してたけど……なんでまたいきなり現れたんだよ。前に探したときは全然出てこなかったくせに」

「決めたから」

「決めた?」

「決めたんでしょう。攻略する人を」

「攻略する人って……どういうことだよ」

「そのままの意味。運命の三人、朝道零音、昼ヶ谷雫、夕森雪。あなたはその三人の中から朝道零音を選んだ。端的に言うなら、好きになった。そうでしょう?」

「それは……そうだけど、なんでそんなこと知ってんだよ」

「その理由を答える必要は無いわ」


 ……まぁ、教えてくれるとは思ってなかったけど、ここまで率直に断るか普通。


「でもよかったじゃない」

「よかった?」

「攻略対象が決まったなら、あなたはその人を、朝道零音の攻略すればいい」

「攻略って、そんな簡単に言うなよ」

「大丈夫よ。そのための力があるでしょう? 好感度を見る力と、好感度を上げるための選択肢が」

「それは……」

「その力を使えばいい。そうすれば、あなたは殺されることもなくなる。忘れたわけじゃないでしょう。卒業までに彼女ができなかったらあなたは殺される」

「っ!?」


 そう、そうだ。そもそも俺が夜野を探してたのはそのことを聞くためだ。


「その殺されるって……誰に殺されるんだよ」


 それさえわかってしまえば対処の仕方もあるかもしれない。

 

「それは教えられない……というより、わからないわ」

「はぁ? どういうことだよ」

「わかっているのはあなたが殺されるということだけ。そして彼女ができればそれが回避できるということ。前にも言ったでしょう」


 わけがわからない。彼女ができなかったら俺が殺されるけど、肝心の殺そうとする奴がわからない? どういうことだよ。


「それを信じろっていうのかよ」

「別に信じなくてもいい。でもそしたらあなたは殺されるだけ」

「…………」

「手伝ってあげましょうか?」

「え?」

「あなたが朝道零音を攻略できるように、私が手助けしてあげる」

「……どういうつもりだ」


 今まで全然出てこなかったくせに、今度は俺と零音が付き合えるように手助けするって。本当になにを考えてるかわからない。


「失礼な反応。純粋な善意なのに」

「ここまで信じられない善意は初めてだよ」

「じゃあ手助けはいらないのね?」

「あぁ、いらない。お前には頼らない」

「……そう。それもいいんじゃない。それもまた一つのあなたの選択」


 さして気にした風でもなく、夜野は言う。

 いくら零音と付き合いたいからって夜野の手を借りたいとは思わない。


「俺は、俺のやり方で零音のことを振り向かせてみせる」


 まっすぐに、意志を込めて夜野のことを見て、そう告げる。


「……ふふ、素晴らしい」


 ニヤリと、夜野が笑って拍手する。


「見事な意志、そして願い。あなたは私を拒んだ」


 その目は、俺を見ているようで見ていない。

 何を見ているのかわからない。


「願わくば、最期の瞬間まであなたがあなたでいられますように。あなたが……彼女達を愛せますように」


 語るように、歌うように。


「さようなら、今この瞬間はさようなら。覚えておいて、あなたは私を拒んだけれど、私はあなたのことを見ている」


 ふわりと軽やかに飛んで、夜野が俺の傍にくる。

 俺は縫い付けられたようにその場から動けない。


「あなたのこれからする多くの選択の結果を、楽しみにしてる」








□■□■□■□■□■□■□■□■


「ごめんねハル君。遅くなっちゃった……どうしたの?」

「……いや、なんでもない。帰るか」

「? うん」


 すでに教室に夜野はいない。

 あのあとすぐにいなくなった。

 それから少しして、零音が教室に戻ってきた。

 なんか変な感じだ。さっきまでそこに夜野がいたはずなのに、その気配を感じない。

 いったい何の目的があって出てきたのか結局わからなかった。

 俺の事見てるとか言ってたし……もしかして今も見てるのか?

 

「何してるのハル君」


 夜野がいるのではと思って周りをキョロキョロと見渡していると、零音が怪訝な目で俺のことを見てくる。


「あ、いや、なんでもない。悪い」

「別にいいけどさ。そうそう、この後買い物に付き合ってよ。夜ご飯の買い物。今日安売りしてるものとかあるから買いたいの。食べたいものあったら作ってあげるからさ」

「ん、あぁ別に——」


 いいぞ、とそう言おうとした瞬間、目に今までにないくらいの痛みが走る。

 この感覚は、選択肢が出てくるときの……でも、今までより酷い。


「ハル君、大丈夫!?」


 ふらついた俺を零音が支えてくれる。


「あ、あぁ大丈夫だ……っては?」


 思わず閉じてしまった目をゆっくり開くと、そこには今までと同じように選択肢があった。

 しかし、今までとは違う。『赤い選択肢』が。

 今までの選択肢は、黒い文字が空中に浮かんでいるような感じだったけど、その文字が赤くなっている。

 そしてその内容は、


『零音を壁に追い込んで壁ドン。そこから甘い俺様系の声で「今夜は零音を食べたいな」という』

『零音を後ろから抱きしめて、耳元で「俺は零音の作ってくれたものなら、たとえそれが毒でも食べきってみせるよ」と囁く』

『零音の手を握って「じゃあ買い物に行く途中ではぐれないように手、繋いどかないとな」という』


「……なんだこれ」


 俺は呆然と呟いた。


久しぶりに選択肢君の出番です。赤くなってバージョンアップ? ですね。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月10日18時を予定しています。

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