第72話 生徒会室の昼休み
話のストック貯めれる人ってすごいなぁと思いながら最近書いているのです。全然貯めれない。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです
昼休み。生徒会室に雫の姿があった。
しかし何をしているというわけでもない。校外学習も終わり、テストも近いということもあって仕事がないのだ。
「……暇ね」
ポツリと雫が呟く。
「ボクは忙しいよりいいと思うけどねぇ」
「私達が処理する案件が少ないというのはそれだけ学園内が安定してるということだもの。いいことだわ」
双葉と優菜が雫の呟きに反応する。
実際、彼女達が生徒会に入ってから起こる問題というのは減っていた。雫が主体となって前生徒会と一部部活動との間にあった癒着を解消したり、不良たちのたまり場になっていた古い武道場を取り壊して新しい施設を建てたりと、生徒会長になってから多くの問題を解決していた。
その結果、一年生にして生徒会長になったということに反発していた一部上級生達も彼女達を認めるしかなくなっていったのだ。
そのせいで今まで以上に教師に頼られて仕事を増やされるということにもなったのだが、彼女達はそれを難なくこなせる能力があったので、仕事を増やされていることにも気づいていない。
「校外学習から戻ってきたら仕事が溜まってるかと思ってたけど、逆に減ってたものね。帰って来てから処理しようと思っていた物まで花音達が処理したのかしら」
雫達が校外学習に行っていた間。臨時的に生徒会の仕事を任されていた花音達中等部生徒会。高等部に入った際に生徒会のメンバーとして即戦力になることを期待して集められた彼女達は非常に優秀である。一部に性格に難があるのだが。
「もうあの子達に仕事全部任せていいんじゃないかなぁ」
「そういうわけにもいかないわ。花音達は確かに優秀だけど、まだまだ仕事に粗が残っていることもあるもの」
「あぁ、早く引退したいなぁ」
「まだまだ先は長いわよ」
お菓子を食べながら言う双葉。彼女は仕事の大半を一ノ瀬、二宮、三林の三人に任せているのでそれほど仕事をしているわけではない。
「あ、でもさぁ。そんなに暇ならハルハルでも呼んだらぁ。きっと来てくれるでしょ~」
「そうね。一応連絡だけしときましょうか。それにしても双葉。あなただいぶ晴彦の事気に入ったのね」
「うんうん、気に入ったよぉ。零音ちゃんも合わせてねぇ。面白いもの」
「……あまり晴彦で遊んじゃだめよ」
「えぇ、どうしようかなぁ。それよりも会長こそいいのぉ? このままだと零音ちゃんにハルハルとられちゃうよぉ」
「かもしれないわね」
ニヤニヤと笑いながら雫に向かって言う双葉。しかし対する雫の反応は予想してたものとは違い穏やかなもので、双葉は肩透かした感覚になる。
「いいのぉ?」
「さぁ、どうかしら?」
紅茶を飲みながら双葉への答えをはぐらかす雫。
そんな雫の様子に双葉は顔をしかめる。
「だから会長は嫌なんだよぉ。面白くなぁい」
「それは結構なことだわ」
「あなた達、仕事がないなら勉強したら? 時間は有意義に使うべきよ」
それまで黙って話を聞いていた優菜が雫と双葉に言う。
「雫も、そんな調子だと次の中間試験で私に負けるわよ。今回私は相当勉強してるもの」
「あら、それは怖いわね」
そう言いつつもどこか余裕の垣間見える雫。
優菜はこれまで雫にテストで勝ったことが一度もない。どの教科でも勝てたことがないのだ。だからこそ優菜はテストのたびに打倒雫を掲げ、勉強を重ねているのだ。
「ふふ、その余裕も今回までね。私今回は自信があるし。それに対してあなたは晴彦君にご執心だし」
テストの近づくこの時期だけ、優菜は雫に対して敵対心をむき出しにする。
「そういえばさぁ」
「おーねーえーさーまー!!!」
双葉が何かを言おうとした瞬間、遠くから聞こえる少女の声。
少しづつ近づいてくるその声の正体に気付いた雫は、少し苦い顔をする。
「これは……」
「あの子ね」
「今日も来たんだぁ」
勢いよく扉が開かれ、その少女が姿を現す。
「お姉さま!! 私です。私が会いに来ました!!」
入って来るなり一目散に雫のもとにタックルするかのような勢いで向かって行った少女の名前は桜木花音。中等部の生徒会長である。
「花音、廊下を走らない。返事をする前に扉を開けない。いつも言ってるわよね」
抱き着こうとする花音を雫は手で止める。
「いやぁ、花音ちゃんはいつも元気だねぇ」
「はい! それが取り柄ですから!」
「うんうん、いいことだと思うよぉ。早く高等部に入ってボクに楽させてねぇ」
「それはその、先輩にも仕事はしていただきたいんですが……」
「できない相談かなぁ」
雫さえ絡まなければそれなりに常識人である花音。仕事をしたくないと言われてもはいと頷くことはできないのだ。
「花音は高等部でも生徒会に入るつもりなの?」
「はい、もちろんです。お姉さまを会長に、そして私が副会長に、それが夢です!」
「へぇ、それじゃ私を副会長から蹴落とすと、そう言ってるのね」
「そ、そそそそういうわけじゃないです! ごめんなさい!」
顔を青くして謝る花音。花音は優菜の事がどうにも苦手なのだ。
「優菜」
「冗談、冗談だってば。私としても花音が生徒会に入ってくれたら安泰だと思ってるし、副会長がしたいって言うなら譲るわよ」
窘めるように雫が言うと、優菜は軽く笑ってそう言う。実際、花音は副会長を務めることができるだけの実力があるし、雫がいなければ会長にもなれるかもしれないと優菜は思っている。
「あの、すいません。花音がこちらにきて……ってやっぱりいた!」
生徒会室に新しく二人の少女が入って来る。一人は長い黒髪で顔まで隠してしまっている少女、病ヶ原弥美。中等部の生徒会副会長である。
もう一人はその弥美に引きずられるようにしてやってきた少女、宵町依依。中等部生徒会の会計である。非常に小さな少女で、花音達と同じ中学三年生にも関わらず、小学生と言われても十分通用するレベルだ。
「あ、弥美ちゃんと依依ちゃん。どうしたの?」
「どうしたのじゃない! いきなり教室出て走って行くからどうしたのかと思ったら。次の時間の準備があるから早めに動かないといけないのに、何考えてるのよ」
「弥美ちゃーん、それならなんでわたしも連れてきたのー。いい感じで寝れそうだったのに」
「依依もほっといたら授業サボるでしょ。来る途中にいたからついでよ、ついで」
「ひどい」
「あの、花音何か迷惑かけてませんか」
「まだ大丈夫よ、まだね」
「そうですか。良かったです。すいません。すぐに連れて帰りますから。ほら帰るよ花音」
「えぇ! ダメだって。何か嫌な予感がするんだもの」
「嫌な予感?」
「そう、あの男が生徒会室に来るような……そんな気がするの!」
「あの男って……もしかして日向先輩?」
「そう!」
「あぁ、そういえばさっき晴彦をさっき呼んだわね」
晴彦を呼んで、今から行きますという返事が来ていたことを思い出した雫。
「ほらやっぱり!」
「やっぱりじゃないって。ほら帰るよ」
呆れた弥美が花音を連れて帰ろうとするが、嫌だ嫌だと花音が激しく抵抗する。
最初は優しく連れて帰ろうとしてた弥美だったが、いつまでも駄々をこねる花音に苛立ちはじめる。
「……花音」
「なによ」
「いい加減、怒るよ」
「うっ」
弥美の声に本気を感じた花音は若干怯む。
「で、でも」
「今から三秒以内にこの部屋から出て教室に戻らないと、花音の秘密を一つずつバラしていくから」
「ひ、秘密って」
「会長たちが校外学習に行った日の放課後、誰もいない生徒会室で花音が会長の席で——」
「わーわーわー!! な、ななななんで知ってるのよ!」
絶対に知られていないと思っていたことを暴露されかけた花音は慌てて弥美の口を押える。
「花音? 私の席でなにしてたのかしら」
「な……なんでもないです。何もしてないですぅ!」
「これ以上粘るなら、もっとひどい秘密を暴露するからね」
「ううぅ……はい」
がっくりとうなだれた花音は、しぶしぶ部屋から出ていく。
「お姉さま、どうかあの日向晴彦にほだされないでくださいね! 私はいつでもお姉さまのことを想っています!」
「もういいから行くよ。すいませんでした、お騒がせして」
「別にいいわ……あなたも大変ね」
「もう慣れました」
嵐のようにやってきて、去っていく。
花音が去って行った生徒会室には先ほどまでの騒がしさはなかった。
「本当に、元気な子ね」
「ねー、あれで仕事ができるんだから人って見かけによらないって感じだよぉ」
「…………」
「あれぇ、優菜ちゃんどうしたのぉ?」
勉強する手を止め、真剣な表情で何かを考えている。まるで学者が実験に挑むときのように、数学者が誰も解いたことのない問題に直面した時のように、優菜は真面目な顔で考えていた。
「……やみかの、ありね」
「……は?」
いきなり意味のわからないことを呟いた優菜に、双葉が目を丸くする。
「あ、ごめんなさい。なんでもないなんでもない」
「? そうなのぉ?」
そこまで気にしていたわけでもなかった双葉はあっさり引き下がる。
「はぁ、あなたも変わり者よね。優菜」
「そんなことないって」
「なんでもいいけど、暴走だけはしないようにね」
そう言って雫は空になったティーカップに紅茶を入れ直す。
「さて、そろそろ晴彦が来るだろうし。お茶の準備をしておきましょうか」
この後に晴彦がやってきて雫にいじられたり、双葉にからかわれたり、優菜から勉強を教えてもらったりしながら、生徒会室の昼休みは賑やかに過ぎていった。
宵町依依 (よいまち よい)
新キャラです。彼女がやる気を出すのはお金に関わることだけなのです。
またいずれ出てくるはずです。
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次回投稿は11月8日21時を予定しています。