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第70話 勉強会 後編

三人称が案外書きやすいという。やっぱり慣れってありますよね。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 零音と雪の二人が出かけてからしばし、零音の部屋は沈黙に包まれていた。

 晴彦が勉強疲れでグロッキーになっているということもあるが、晴彦もめぐみも聞き手になることが多く、自分から会話を振るということがそれほどないというのも原因の一つだった。

 めぐみの場合は想い人である晴彦と一緒に居るという緊張もあってなかなか話せないのだが。

 そんな沈黙が続くことしばし、部屋のドアがノックされる。

 いきなりの音にビクッとする二人。誰かを確認する前に部屋のドアが開かれる。

 入ってきたのは莉子だった。人数分のお菓子と飲み物の追加を持ってきていたのだが、部屋の中に二人しかいないことに首をかしげる。


「あら、零音ちゃんともう一人の子は?」

「二人なら少し出かけるって言って出ていきましたけど。もう一人はそれについて行きましたよ」

「あらそうなのぉ。お客さん置いて出かけるなんてあの子ったら……しかも女の子と二人っきりにするなんて」

「え?」

「なんでもないわ。それよりもお菓子持ってきたの。良かったら食べて」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

「今は休憩中なの?」

「はい、零音達が戻ってくるまでは」

「そう。あ、じゃあ二人ともいいもの見せてあげる」


 そういうなり莉子はパタパタと部屋を出ていき、少ししてから手にアルバムを持って戻ってくる。


「じゃーん、零音ちゃんの成長アルバム~」

「アルバムですか?」


 なんでそんなものを持ってきたのかという顔をする晴彦。めぐみも似たような表情だ。


「二人とも零音ちゃんの部屋じゃすることないでしょ。だから一緒にアルバムでも見て時間過ごしましょう。晴彦君は昔から零音ちゃんのこと知ってるけど、あなたは知らないでしょう? いい機会だと思うのよ」

「そ、それは……ちょっと見てみたいです」


 零音のアルバムというものにめぐみが興味を示す。


「でしょ、見ましょ見ましょ」


 莉子が持ってきたアルバムを机の上で広げる。

 それを横からのぞき込むめぐみ。晴彦もまた幼少期の零音の写真と聞いて、興味がない風を装いながらのぞき込む。


「これが赤ちゃんの頃の零音ちゃんよ」

「か、可愛いですねっ!」


 生まれたばかりの零音の写真を見て珍しくテンションを上げるめぐみ。


「零音ちゃんはあんまり泣かない子でね~。すごくお利口さんだったわ。まるでこっちの言うこと理解してるかと思っちゃったもの」


 それは事実である。生まれた頃からしっかりとした意識を持っていた零音は、ご飯の時も、おむつを替えられる時もできるだけ泣かないようにしていた。

 それからしばらく赤ちゃんの頃の写真が続き、幼稚園の頃のページに映る。


「これが幼稚園の頃ね~」

「もうだいぶ今の朝道さんの面影がありますね。あ、この隣にいるのってもしかして」

「そう、晴彦君よ~」

「この頃のことなんか全然覚えてないですけどね。っていうか子供の頃の俺ってこんな感じなんですね」


 自分の幼少期の姿をなんとも言えない顔で見る晴彦。


「ふふ、でもこの日向君可愛い」

「可愛いっていうのはちょっと恥ずかしいんだけど」

「あ、ご、ごめんね」

「いや、いいんだけどさ」

「零音ちゃん、この頃なかなか友達ができなかったのよ。でも、晴彦君とだけは一緒に遊んでたのよね」

「あー、そういえば……零音がおままごととかしてるの見たことないかも。どっちかって言うと俺とかと鬼ごっことかサッカーとか、そんな遊びばっかしてましたね」

「へぇ、そうなんですね。ちょっと意外かも」


 この頃の零音はまだ女の子としての生活に慣れておらず、他の娘と一緒におままごとをするのが恥ずかしかったのだ。しかし鬼ごっこやサッカーなら抵抗がなかったのだ。


「それじゃあ次の写真は——」


 こうして、零音のいないところで零音の過去の写真とエピソードが莉子によって晴彦とめぐみに暴露されていった。零音が晴彦のために料理の勉強を始めた当時の失敗談など、零音の隠しておきたかったことも遠慮なく莉子の手によって暴露されていった。

 莉子の狙いは、娘の想い人である晴彦にそれとなく零音がどれだけ晴彦のことを想っているのかを伝えることだった。めぐみが晴彦や零音のことをどう思っているのかを見極めるのも目的の一つであった。

 しかし目的はどうあれ、めぐみは零音の過去を知り、理解を深めることができたのはよかった……のかもしれない。






□■□■□■□■□■□■□■□■


「ただいまー……って、え?」

「お菓子とか買ってきたよー……ん?」


 買い物から戻ってきた零音と雪は、部屋でワイワイと騒ぎながらアルバムを見る三人の姿に目を丸くする。


「そうそう、この頃零音ちゃんたらお菓子作りにハマってて。毎日のように作ってたから少し太っちゃって、慌ててダイエットしてたのよ」

「あー、そんなこともありましたね」

「そうなんですね」

「そうなのよ。だからこの頃は写真撮らせてくれなくて、隠し撮りしたのしか——」

「ちょ、ちょっと! お母さん何してるの!」

「あら零音ちゃん。おかえりなさい」

「あ、ただいま。じゃなくてっ。ハル君と井上さんに何見せてるのって聞いてるの!」

「何ってアルバムよ。ほら」


 そう言って莉子が見せたのはまさしく今話していた零音が少し太っていた頃の写真。といっても零音本人が気にしていただけで、見た目に大きな変化があったわけではないのだが。それでも零音にとっては黒歴史の一つである。


「ひゃぁああああ!?」


 慌てて莉子の手からアルバムを奪い取る零音。


「あ。何するのよ」

「それはこっちの台詞! 何見せてるの!」

「零音ちゃんがお客さんおいて出かけちゃうからでしょ。晴彦君もめぐみちゃんも暇してたんだから」

「うぅ、それは確かに私が悪いけど……でもだからって私の写真見せなくても」

「え、なにそれ。アタシも見たーい!」

「ふふ、いいわよー」

「よくない! というかハル君も止めてよ」

「いや、俺もちょっと見たかって言うか。懐かしかったからさ」

「う~~~~」


 恨みがましい目で晴彦の事を睨む零音。しかし怒りよりも恥ずかしさの感情が勝ってしまっているため全くと言っていいほど迫力がない。

 先ほどの般若の怒りを受けている晴彦からしたら可愛さすら感じるくらいだ。


「零音ちゃん可愛かったでしょ」

「はい、とっても!」

「そうですね。昔も可愛かったんだなって思いましたよ」


 いまだテンションの高いめぐみ。この短い時間ですっかり莉子と仲良くなることができてるのは莉子の人柄のなせる業だろう。


「もう、勉強するからお母さんは出てって」

「はいはい」


 プンプンと怒る零音に立たされて部屋を出ていく莉子。

 その直前、零音の耳元に口を寄せて、零音にだけ聞こえる声で莉子が言う。


「良かったわね。昔『も』可愛かったそうよ」

「っ!?」


 それだけ言って部屋を出ていく莉子。そして顔が真っ赤になる零音。


「どうかしたのか?」

「~~~~っ、なんでもないっ!」


 自分が照れてることを誤魔化すように強く言う零音。

 しかし顔は赤いままなので全然誤魔化せていない。


「ほら、勉強再開するよ」

「うへ~」

「雪ちゃんも……ってなにアルバム見てるの」

「預かったから?」

「ダメ。返して」

「ちぇっ、はーい」

「ご、ごめんね朝道さん。嫌だった?」

「嫌だったわけじゃないけど……次は一緒に見よ。ハル君の話とか聞かせてあげる」

「う、うん!」


 勝手に見てしまったことで零音を怒らせたかと心配するめぐみだったが、零音が怒っていなかったことにホッと安堵の息をつく。


「えー、なんかアタシ達と対応が違いすぎない?」

「まぁそれはしょうがないと思うけどな」

「二人とも何話してるの、ほら勉強始めるよ」

「「……はーい」」


 その後再開された勉強では、零音は晴彦に対して少しだけ優しくなったとか……雪に対しては変わらずだったのだが。

 四人での勉強会は、こうしてそうして終わりを迎えたのだった。



数学の勉強中。

雪「これで……最後だっ」

零音「うん、合ってるね。じゃあはい、次はこの問題」

雪「え?」

零音「まだまだ問題はあるから、たくさん解こうね」

雪「もういやぁああああああ!!」


 ということがあったとかなかったとか。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月5日21時を予定しています。


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