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第69話 勉強会 中編

今回も三人称です。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 勉強会が始まってからすでに五時間。お昼ご飯の休憩を挟みつつ、零音、晴彦、雪、めぐみの四人は勉強を続けていた。


「よし、英語の勉強はこれくらいでいいかな。次は数学にしよっか」

「うん、そうだね」


 比較的和やかな雰囲気の零音とめぐみ。

 しかしそれとは対照的に、


「あはは、アルファベットが、頭の上をグルグル回って、回ってー……」

「次は間違えません、だから、だからどうか問題を追加しないでください……い、いやだ、もう、俺は……」


 雪と晴彦の二人は若干壊れかかっていた。

 零音から休む間もなく与えられる問題の山。間違えれば問題を増やされ、正解すれば難易度を上げられるという地獄のループ。

 雪の起こした事件により、容赦という二文字を消し去った零音はいつになく厳しく二人に勉強をさせていた。

 明らかに限界を迎えている二人。しかし零音はそんなことには知らないと言わんばかりに勉強を続けようとする。


「さ、二人とも数学の教科書を出して」

「「ひっ」」


 笑顔で言う零音。しかし今の晴彦と雪にはその笑顔が死神のように見えていた。

 

「あ、あの朝道さん。さすがに一回休憩したほうがいいんじゃないかな。何時間も連続で勉強してるわけだし、ね?」


 ガクガクと震える二人を見て流石に可哀想になってきためぐみは、零音にそう進言する。

 雪に騙されていためぐみだが、すでにその誤解もとけていた。最初こそ嘘をつかれたことに少しだけ怒っためぐみだったが、もともと怒りが持続するタイプでもなかったため、もう全く気にしていなかった。


「そうかな? んー、井上さんがそういうなら少し休憩しよっか」


 休憩、という言葉を聞いて晴彦と雪の顔が輝く。

 そして零音に進言してくれためぐみをまるで神様を見るような目で見る二人。事実、今の二人にとってめぐみは救いを与えてくれた神のような存在だっただろう。


「ありがとう、ありがとねメグちゃんっ」

「あはは……」


 めぐみの手を取り、感謝を示す雪。いつもとあまりに違う雪の様子にめぐみは苦笑いだ。


「それじゃあ休憩ついでに少し買い物してくるね。三十分くらいで戻って来るから。そしたら勉強再開だよ」

「もう少し休憩長くしても……」

「何か言った?」

「なんでもないです」


 零音に睨まれてあっさり撤回する晴彦。

 すごすごと元の場所に座り直す。


「雪ちゃんも一緒に行こ」

「え、アタシここで休憩を……」

「行くよ」

「……はい」


 三十分ほどとはいえ、再び目を離したら何をするかわからない雪を連れていく零音。自分がいない間に晴彦に何かされたら困るという思いもある。晴彦とめぐみを二人きりにするのも不安ではあるのだが、まだマシだという判断だった。


「それじゃ行ってくるね」

「行ってきまーす」






□■□■□■□■□■□■□■□■


「はぁ、疲れた。お前ホント鬼だな」


 家を出て少し歩いたところで雪が素で言ってくる。

 実際、さっきまでの怒涛の勉強でかなり疲れていた雪は、零音と二人きりの状況になってまで演技を保とうとする気力はなかった。


「何が?」

「勉強だよ、勉強。あそこまでするか普通」

「夕森があんなことするから」

「ちょっと興味あっただけじゃん。同じ元男として、どんな下着持ってんのかなーって」

「それに晴彦を巻き込まないで」

「それは悪かったって。そりゃ好きな奴が他の女にそそのかされて自分の下着見ようとしてたら怒るわな。オレでも怒るわ」


 雪の言葉に零音はドキッとする。

 晴彦のことが好きなのはまだ雫にしか話していないのになぜ知っているのかと。

 そんな零音の様子に、雪は呆れたように息をつく。


「あのなぁ、あんだけ露骨に態度に出してて気づかないわけないだろ」

「えぇ!」

「いやこっちが、えぇ! だよ。自覚なしかよ」

「だ、だってできる限り普通にしてたのに」

「あー、なんてか、雰囲気? 晴彦好き好きオーラが半端ないんだよお前」

「~~~~~~っ」


 他の人に知られていたとわかり、恥ずかしさのあまり顔が赤くなる零音。


「そ、それって晴彦も?」


 もし晴彦にまで気持ちを知られていたら自分はもう死ぬしかない。零音はそう思っていた。


「あいつは気付いてないだろ」

「そ、そっかよかった」


 ホッと安心する零音。次からはもっと態度に気を付けようと思った零音だったが、そもそも無意識に出ているものなので自分の意識ではどうしようもないことに零音は気付いていない。


(まぁ、晴彦の方もお前の事好きみたいけどな。お前も晴彦と一緒で気付いてないわけだ。オレにとっては助かったって言えるけどな)


 どうしたら晴彦好き好きオーラを隠せるかと思案する零音を見ながら雪はそう思う。

 どちらかがどちらかの想いに気付き、両想いだとわかってしまえばその時点で雪の可能性はなくなってしまう。

 二人の鈍感さに助けられたと言えるだろう。


「? どうかしたの?」

「いや。なんでもねぇよ。まぁオレから一つ言えるのは、お前が晴彦のこと好きだろうとオレは遠慮しねぇからな。せいぜいオレに奪われないように気を付けるんだな。まぁ、オレには勝てないだろうけどな」


 ニヤリと笑って胸を張る雪。その拍子にプルンと揺れる胸。


「私だって負けないんだから」


 入学式の日と同じように宣言して胸を張る零音。しかし胸は揺れない。

 それを見た雪は鼻で笑う。

 対する零音は憎々し気に雪の胸を見つめながら呟く。


「無駄肉の塊が」

「はっ、なんとでも言いやがれ」


 零音の苦し紛れの言葉は雪に全く通じない。

 零音の名誉のために言うならば、別に零音は胸が小さいというわけではない。雪が大きいだけなのだ。


「……帰ったら勉強二倍にしてやる」

「それはやめろっ!」


 やいやいと言い合いながら二人は買い出しへと向かうのだった。


これからもテストのたびに雪は零音の勉強地獄に巻き込まれることをこの時の彼女はまだ知らなかったのです。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は11月4日18時を予定しています。

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