第66話 花音との再会
今回は最後の方だけ弥美視点になっています。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
昼休み、ご飯を食べ終わった俺は飲み物を買うために一人、自販機へと向かっていた。
いつも一緒に食べる零音、友澤、井上さんに加え今日は雪さんと山城とも一緒にご飯を食べていた。そして食べ終わった後に飲み物を買いに行くという罰ゲームを賭けて勝負をし、俺は見事に負けたというわけだ。
その道中、俺はこれからのことについて考えていた。
俺は零音のことが好きだ。そう気づいたのは校外学習の時だった。それに気づいた時、俺はふと思ったのだ。あれ? 俺ってすごく恵まれた状況にいるんじゃね、ということに。
好きな人が毎日お弁当を作ってくれて、さらには朝になったら起こしに来てくれる。これってすごく幸せなことだと思う。
しかし、しかしだ。だからこそ俺は気付いてしまった。ここから距離を詰めるにはどうすればいいのかという問題に。最近は選択肢も出てこないし。朝に零音の好感度を見た時には以前と変わらず『69』のままだった。
俺はキャンプファイヤーの時、勢い余って零音に告白しようとした。今にして思うと、なんてことをしようとしたんだって話だけど……場の空気に呑まれるってあのことだな。
もしあのまま告白しても上手くはいかなかったかもしれない。
「はぁ……」
思わずため息が出る。これからどうしたもんか。
いきなりなんかしても不審がられるだけだろうし、とりあえずは今まで通り接するとして……誰かに相談とかしたほうがいいんだろうか。といっても、そんなことができる人も思い浮かばないしなぁ。
なんて考えてるうちに自販機にたどり着く。
「えーと、零音が紅茶で、雪さんが炭酸水、山城がお茶で、友澤がサイダーそれで井上さんがイチゴオレだったな。俺はそうだな……フルーツオレにするか。これ好きなんだよな。学園内だと何故かここにしかないし」
さすがに全部買うと持つのが大変だな。なんか袋でも持ってきたらよかった……お、フルーツオレはちょうど売り切れか。タイミングよかったな。
飲み物を抱えてその場を立ち去ろうとしてたその時、前から若干見覚えのある女の子がやってくる。
誰だったかな。思い出せそうで思い出せない。
「あーーーーーー!!!」
「っ!?」
そのまま横を通り過ぎようとした時、その女の子が俺のことを見て大声を上げる。
びっくりした俺は思わず飲み物を落としそうになる。
何やら怒った様子の女の子。俺のことを指さしながら睨んでくる。
「日向晴彦!!」
「こら、先輩を呼び捨てにしない、指ささない」
「いたっ!」
隣にいたもう一人の女の子 (前髪で顔が隠れてて表情はわからない)が俺のことを指さしていた女の子の頭を叩く。
「えーっと、君たちは?」
「なっ! 私のことを覚えてないってどういうこと! です」
「一回会っただけで覚えてるわけないでしょ」
「いたっ! なんで叩くの!」
「花音が失礼なことしてるからでしょ」
「うぅ……」
花音? どこかで……あ! 思い出した。雫先輩のことをお姉さまって呼んでた娘か。確か中等部の生徒会長だったはず。
「もしかして桜木さん……だったかな。中等部の生徒会長の」
「っ! やっと思い出したの? そう、私は中等部生徒会長の桜木花音よ! です」
「さっきから何なのそのとってつけたような『です』は」
「それはほら、一応は先輩だし。ちゃんとしないと」
「全然ちゃんとできてないから」
「えぇ!?」
心底意外だ、という顔をする桜木さん。あれでちゃんとしてるつもりだったのか。
するともう一人の女の子が俺の方を向いて頭を下げる。
「すいません。さっきから花音が失礼ばかりして」
「あぁいや、全然気にしなくていいよ」
「そう言ってもらえると助かります。あ、私は中等部生徒会副会長の病ヶ原弥美です。よろしくお願いします」
おぉ、なんていうか普通の子だ。相変わらず表情は全然わからないけど。
なんで前髪で顔隠してるんだろう。
「気になりますか?」
「え?」
「この前髪です」
俺がジッと髪を見ていたことに気付いたのか、病ヶ原さんが聞いてくる。
「まぁ、気になると言えば気になるかな」
「実は……私の左目には悪魔が宿っているんです。私と目を合わせた人は呪われてしまって。それが辛くてこうして顔を隠してるんですー」
あ、嘘だ。
少しだけ見えてる口元が笑ってるし、物凄く棒読みだった。
しかし、そうは思わない人が一人。
「えぇ! そうだったの!」
心底驚いた顔をしてる桜木さん。というか、君も知らなかったのか。
「えーと……嘘だよね」
「はい、嘘です」
あっさり認める病ヶ原さん。
まぁ本気で騙すつもりでもなかったんだろうけど。
「でも男の人ってこういうのが好きなんじゃないんですか? よくクラスの男子の一部がそんな話で盛り上がってたりしますけど」
それは中二病というやつだと思う。
かくいう俺も中学生の時は……やめよう、思い出してもいいことなんかない。
「まぁ、人それぞれだと思うよ」
「そうですか。次はもう少し真実味のある嘘にします」
「嘘って言っちゃうんだ」
「えっ? どういうこと? 嘘なの?」
頭に?マークを浮かべた桜木さんが聞いてくる。
どうやら本気で信じていたらしい。
「嘘だよ」
「もう、なんでそんな嘘吐くの。心配しちゃったじゃん!」
「ふふ、ごめんごめん」
こうしてると普通にいい子だなぁって思うんだけど。
俺に視線を向けるたびに睨むのは止めて欲しい。普通に怖いから。俺何かしたかな?
「というか私あなたに言わないといけないことがあったの、です」
「言わないといけないこと?」
桜木さんが俺のことを指差そうとして途中で止める。さっき病ヶ原さんに言われたことは守るらしい。
「最近お姉さまから気に入られてるからっていい気にならないことね。お姉さまにとって一番になるのは、この桜木花音なんだから! です。それじゃあまた」
胸を張って言う桜木さん。
それだけ言って自販機に向かってしまった。
「あ、もう花音ったら……ホントすいません。後でちゃんと言っておきます」
ペコリと頭を下げて桜木さんの後を追う病ヶ原さん。
あれが中等部の生徒会長と副会長か。なんていうかユニークな子達だな。
「あ、やば。飲み物のこと忘れてた」
罰ゲームのことをすっかり忘れていた俺は、慌てて教室に戻るのだった。
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「まさかこんなところで日向晴彦に会うなんて……」
「先輩をつけなさいってば」
ま、花音が注意したくらいで言うこと聞くなら私が苦労することなんてないんだろうけど。
「まぁでもあの先輩、結構カッコ良かったよね。普通にいい人っぽかったし、会長が気に入るのもわかるかも」
まだそんなに話したわけじゃないから人となりが全部わかったってわけじゃないけど、悪い人じゃなさそうだし。また機会があったら話してみたいな。そしたら会長が気に入った理由もわかるかもしれない。
「うぅうう……」
「何変な顔してるの?」
「だって弥美ちゃんまで日向晴彦のこと気に入ったみたいに言うから」
「はぁ?」
「ダメだからね! 弥美ちゃんは私の友達なんだから」
「なによ今さら……ってあぁ、そういうこと」
つまり嫉妬か。私が日向先輩にとられるかもしれないって思ってるわけだ。
今日会ったばっかりでそんなことあるはずないのに。
まぁ花音はそういうとこが可愛いんだけどさ。
「大丈夫だって。それに会長がいるのに私とどうにかなるわけないでしょ」
「お姉さまもダメなの!」
「はいはい。それよりも早く買って戻らないと。昼休み終わるよ」
「そうだった。フルーツオレ、フルーツオレ♪ ……って、売り切れてる!?」
「あ、ホントだ」
このフルーツオレ、学園内だとここにしか売ってないからわざわざ高等部の場所まで買いに来るの大変なんだよね。
あれ、でもそう言えば……。
「さっき日向先輩がフルーツオレ持ってなかったっけ?」
「えぇ!」
「さっき先輩が買ったので最後だったみたいだね。まぁ今日は諦めるしか——」
思わず口をつぐむ。
やば、私余計なこと言ったかも。
「お姉さまと弥美ちゃんだけに飽き足らず、フルーツオレまで……」
フルフルと花音の肩が震えている。
「覚えてなさい日向晴彦。今度会ったらコテンパンにしてやるんだから!!」
憤怒の形相で叫ぶ花音。
こうなった花音をどうやってなだめるのか、私はこれからのことを考えて頭が痛くなった。
知らぬところで花音からのヘイトをためる晴彦。果たして二人が和解できる日はくるのでしょうか。
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次回投稿は10月31日21時を予定しています。