第65話 変わらない朝、変わった気持ち
スマホの連写機能使うと後で写真整理するのが大変ですよね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
お弁当を作り終えた私は、いつものように晴彦を起こすために家を出ていた……のだけれど。
その足は家の前で止まっていた。
どうした私? いつものように家を出て、いつものように晴彦の家の鍵をドアにさして。そこまではいい。あとは鍵を開けるだけ。なのにそれができない。
いや、本音はわかってる。緊張してるんだ。でも、いつまでもこうしてるわけにもいかない。学校に遅刻してしまう。
「えぇい! 女は度胸! 男も度胸! 根性みせたらぁ!」
若干キャラ崩壊してる気がする。
気合いと共に家に入った私。特に晴彦の家がなにか変わっているというわけでもない。変わったのは私の気持ちだけだ。それだけでまさかこうも影響があるなんて……お弁当作ってる時もそうだったけど、だいぶ染まってるなぁ。
今でも気を抜いたら頭の中が晴彦でいっぱいになりそうになる。
でもいつまでも恋心で腑抜けているわけにもいかない。好きな気持ちを抑えるってわけじゃないけど、せめて普通に話せるようにしないとね。
校外学習からの帰りは酷かったし。
キッチンへ向かい、朝ごはんの用意を終わらせた私は晴彦を起こすべく、二階の晴彦の部屋へと向かった。
「…………ゴクリ」
若干の緊張と共に部屋のドアを開ける。
晴彦は……うん、やっぱり寝てる。すごく気持ち良さそうに寝てる姿を見ると起こすのは可哀想な気がする。
そろりそろりと足音を殺して晴彦に近づく。
「……可愛い」
昔、中学生の時の事。クラスメイトの女子が話してるのを聞いたことがある。
『もう彼氏の寝顔とかがホントに可愛くてさー! その顔見てると胸がキュンキュンしちゃうんだよね! あ、私は寝顔とか絶対見せられないんだけどー』
その会話が聞こえた時には、この娘は一体何を言っているのだろうかと思っていた。寝顔が可愛い? ただ寝てるだけじゃない、そう思っていた。
しかし今なら彼女の言葉に賛同できるかもしれない。いや、できる。
「これはいい」
スッとスマホを取り出した私は無言でカメラを起動する。
パシャシャシャシャシャシャ……。
今までほとんど使ったことのない連写機能を使う。
「こんなものかな」
満足いくまで写真をとった私は、その写真をしっかり保存し、万が一のためにパソコンにも転送しておく。
スマホをしまって、今度こそ晴彦を起こす。
「ほら、ハル君。朝だよ」
「う、うーん……」
「早く起きないと遅刻しちゃうよ。今日からもう普通の授業なんだから」
しばらく揺すっていると、ゆっくりと晴彦が目を開ける。
だから私は自分ができる一番の笑顔で言うのだ。
「おはよう、ハル君」
「……おはよう、零音」
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晴彦を起こした後、用意した朝ごはんを食べた私達は家を出て学園へと向かっていた。
「あぁ、一日くらい休み欲しかったよなー」
「でも昨日は午後なかったじゃない」
キャンプファイヤーの次の日は朝のうちに帰ってきて、そのまま解散だったからお昼には家に帰って来ていた。そのうえでさらにもう一日休みを与えるわけにはいかないだろう。もうすぐ中間試験もあるしね。
「そうだけど」
「ほら、シャキッとしないと。文句言ってても休みにはならないんだよ」
「……そうだな。今日と明日行ったらまた休みだし、頑張るか」
「そうそう、その調子だよ。あとはテスト勉強も頑張ろうね」
「うっ。それを言うなよー」
嫌そうな顔をする晴彦。
今はまだ五月の半ば。中間試験は五月の終わりだ。教科数は期末試験と比べたら少ないとはいえ学園に入って最初のテストだし、難しさを測るという意味でもちゃんと勉強をしておいた方がいいだろう。まぁ、さすがに一年生の序盤の分野だとそんなに難しいのもないけどね。
「……もしよかったら私と今週末に勉強する?」
「えっ!?」
私の言葉に驚く晴彦。
むっ。そんなに驚かなくたっていいのに。中学の時は毎回一緒に勉強してたから今回も……って思ったんだけど。
「嫌……だった?」
「嫌ってわけじゃないって! これはその、俺の問題と言うか……」
「ハル君の問題? なにかあったの?」
また私の知らないところでなにかあったんだろうか。
もしそうなら今度はちゃんと聞き出さないと。
グッと晴彦に詰めよると慌てたように顔を逸らす。
「……私には言えないの?」
「これは……ごめん、言えない。でも、いつか言うから。ちゃんと……言うから」
ちゃんと私の目を見て言う晴彦。意志の強さを感じさせるその瞳に、ドキリと胸を高鳴らせてしまった私は、思わず晴彦から目を逸らしてしまう。
「ならいいけど。問題ないんだよね」
「あぁ、それは大丈夫」
「そう。よかった」
嘘をついてる様子はないし、本当に大丈夫なんだろう。
それがわかっただけでも一安心だ。
「勉強はこっちからお願いしたいくらいだし、頼んでもいいか?」
「もちろん! 場所はいつも通り私の家でするとして、日曜日でいいかな?」
「あぁ、それでいいよ」
「じゃあそれで決まりね」
やった、これで休みも晴彦と一緒だ。
って待てよ。よく考えたら晴彦を家に呼ぶのって久しぶりな気がする。いつもは私が晴彦の家に行くばっかりだったから。
……どうしよう、まだ日曜日まで時間はあるけど。そ、掃除しないと。いつも綺麗にはしてるけど、もっとちゃんとしておこう。
「そういえばさあの衣装ってどうしたんだ?」
「あの衣装って、キャンプファイヤーの時の?」
「あぁ、それそれ。あれって零音に合わせて作ったんだろ」
「返そうとしたんだけどね……」
キャンプファイヤーの後、裁縫部の人たちに服を返そうとしたんだけど是非とも持って帰って欲しいって言われて、断りきれなかったんだよね。
まぁ、服自体は気に入ってるからいいんだけど……普通に考えて着る機会もないしなー。
何かのイベントでもないと、あの服は目立ちすぎるし。
あと、どうやら裁縫部の人に気に入られたらしく、また遊びに行くと約束をさせられてしまった。まぁいいんだけどさ。
「とりあえずは家で保管してるよ」
「そうなのか」
「……また着て欲しい?」
「な、何言ってんだよ!」
「ふふ、冗談だよ、冗談」
「…………」
「どうかした?」
「いや、なんか今日は機嫌いいなーって思ったんだけど、なんかあったのか?」
「それは……」
確かに、私はいま機嫌が良い。
それは何故かと言われたら、晴彦と一緒に登校しているから。ただそれだけだ。
たったそれだけのことがどうしようもなく嬉しい。
晴彦のことが好きで、その好きな人が今隣にいる。それはきっと幸せなことなんだろう。
いつもと同じ登校風景も、心持ち一つでこうも変わるのかと思う。
でも、今そのことを晴彦に教えるわけにはいかない。
「ふふ、ハル君には教えてあーげない」
そう言って私は誤魔化した。
この日以降、零音は毎日のように晴彦の寝顔を撮るようになったのですが、それはまた別のお話なのです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は10月29日21時を予定しています。