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第63話 校外学習編29 零音の答え

今回は三人称視点になります。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 キャンプファイヤー終了後、人気のないホテルの裏側に零音と雫の姿があった。


「それで、なんの用かしら? 就寝時間はとっくに過ぎているのだけど」


 一応はそう言う雫。しかし、零音に呼び出された理由についてはほとんど察しがついていた。


「……晴彦のことです」


 零音はいたって真剣に雫のことを見つめる。


「聞こうかしら」

「先輩は言いましたよね。晴彦とのことを協力して欲しいって」

「えぇ、言ったわね。その答えを聞かせてもらえるのかしら?」

「すいませんが、協力はできません」

「……理由は?」


 雫からの質問に、零音は言うかどうかを迷う。しかし、ここで言わなければいけないんだと自分を奮い立たせて、雫の目をまっすぐ見て言う。


「好きだからです。晴彦のことが。幼なじみとしてじゃなく、一人の異性として」


 普通の人であったなら、零音はこの事実を告げるのにここまで覚悟することはなかっただろう。だが雫は違う。零音のことを知っている。同じ世界から来た、『元男』であるということを知っている。

 中身は男のくせにと思われるかもしれない。その恐怖が零音の中にはあった。それでも、自分の想いをごまかすようなことはしたくなかったのだ。

 

「そう、それは残念ね。でもしょうがないわ」

「え?」

 

 予想に反して、あっけらかんと言う雫に逆に零音があっけにとられる。

 もっと何か言われると思っていたのに、口で言うほど残念そうにも、気にしているようにも零音には見えなかった。


「……何も言わないんですか?」

「何か言われたいの?」

「そういうわけじゃ……ないですけど」

「……あのね、朝道さん。私は、誰が誰を好きになってもしょうがないと思ってるわ。それが、私達の様な存在であっても」

「私達みたいな……存在」

「自分の気持ちに嘘をつく必要はないの。どんな思いも、感情も、受け入れないと理解なんてできないんだから」


 零音の晴彦が好きだという気持ち。それを聞いても雫は全く驚いていなかった。零音がわかりやすかったということもあるが、もう一つ理由があるとしたら、ずっと昔から考えていたからだろう。自分達三人の誰かが本当に晴彦のことを好きになるかもしれないと。もう一度人生をやり直しているにも等しい自分たちは、精神が肉体に引っ張られてもおかしくないと雫は思っている。

 何より雫自身も、晴彦を恋愛対象として見ることができていた。まぁだからといって好きなわけではないけれど。少なくとも、今はまだ。


「あなたが晴彦のことを好きだというのは理解したわ……でも、どうするの?」


 好きになることに問題はない。しかし、そしたら別の問題は生まれる。

 それはすなわち、


「晴彦と元の世界、どちらを取るのか……ってことですよね」

「えぇ、言っておくけれど、私も夕森さんも、あなたに遠慮することは無いわよ」


 このまま零音の想いが成就するならば、それは元の世界へ帰る権利を手にすることができるのと同義。しかしそれは、晴彦との別れを意味する。だからと言って何もしなければ、雫か雪かのどちらかが晴彦の結ばれるのを見ていることしかできない。


「正直に言うなら、まだ迷ってます。私は晴彦のことが好きです。ずっと、ずっとずっと一緒に居たい。でも……元の世界の家族や友達を忘れることもできない」


 想いに正直になったがゆえに生まれた迷い。元の家族か、想い人か。零音にはまだ決断することができていなかった。


「……そう。まぁせいぜい早く決断することね。私か、夕森さんが晴彦と結ばれる前に」


 晴彦が他の誰かと結ばれる。それは零音にとってとても許容できることではなかった。


「負けません、先輩にも……誰にも」


 挑戦的に雫を睨む零音。

 しかし、雫は涼しい顔でそれを受け流す。


「なら戦うことね。自分とも、私達とも」







□■□■□■□■□■□■□■□■


 零音と雫の二人が部屋に戻った後、その近くの木の陰から人が出てくる。

 それは、保険医の風城彩音だった。


「ここまでは予想通り……予定外ではあったがな。まさか昼ヶ谷がここまで校外学習の予定を変えてくるとは思わなかったがな。なぁ、お前もそう思うだろう?」

「まさか気付かれてるなんて……あなた何者?」


 彩音が茂みの方に視線を向けると、姿は見えずに、声だけが聞こえる。


「私が何者かなんてどうでもいい。大事なのは、私が多くを知っているということだ」

「私のことも?」

「もちろんだ。お前が夜野霞美なんだろう?」


 彩音がそう言うと、声が正体を現す。


「正解。なぜ知ってるのかはわからないけど……もし、私の邪魔をするなら……」


 霞美の目に剣呑な光が宿る。

 しかし、彩音は全く気にする様子はない。


「お前の邪魔なんてしないさ。私はただ見守るだけだ」

「その割には朝道零音に助言したりしてるみたいだけど?」

「あれはしょうがないだろう。そうしないと……面白くない」

「面白い?」

「あぁ。状況が動かないのは面白くない。朝道が自分の気持ちに気付けばこの状況は必ず変わる」

「そのために動いたと」

「そういうことだ」

「昼ヶ谷雫と、風城双葉、あの二人は?」

「昼ヶ谷は予定外だったが、妹は想像通りだ。あいつは朝道を見れば確実に動くと思ったからな」


 今回の校外学習において、雫が零音の為に動いたことは予定外だったが、双葉と零音を引き合わせることができた時点で彩音の目的はほとんど達成されていた。

 あの面白好きの双葉が、零音と晴彦のような状況を見てかき回さないはずがないと。彩音はそう確信していたし、事実、双葉は動いた。


「……あなたが敵でないことはわかった。でも、この先私の邪魔になるようなことがあったら、その時は容赦しない」


 それだけ言って霞美はその場を去ろうとする。


「少し待て」

「何?」

「お前はこれからどうするんだ?」

「これから?」

「朝道零音は晴彦のことを好きな自分の気持ちを認めた。夕森雪は白石鈴のおかげで焦りが無くなり、自分を取り戻した。昼ヶ谷雫もこの校外学習で確実に日向晴彦との距離を縮めつつある。そんな状況で、お前はどう動く?」

「……私はハッピーエンドを認めない。ただそれだけ」

「それはどういう——」


 彩音が問う前に、霞美の姿が忽然と消える。あたかも、最初からいなかったかのように。


「……まるで化かされた気分だな」


 その場に残された彩音は一人、空を見上げて呟く。


「観察者というのは難しいものだな。今度会ったら文句言わせてもらうぞ、神様」


これで校外学習編は終了です。

次回は登場人物まとめを挟んで、いよいよ第一章の終盤に入ります。どうか最後までお付き合いください。

ここからは霞美も動き出す……かもしれません。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります。

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は10月25日21時を予定しています。

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