第62話 校外学習編28 キャンプファイヤー 後編
睡眠で一日を潰してしまった時はもったいなくて悲しくなります。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
最初にその感情……『恋』の感情に気付いたのはいつだっただろうか。
朝、晴彦と登校していた時かもしれない。昼、晴彦とお弁当を食べていた時かもしれない。夕方、晴彦と買い物をしていた時かもしれない。夜、お風呂に入って晴彦のことを考えていた時かもしれない。
昔の私は、その感情を恐れた。男であった自分が無くなってしまうような気がして。そして何より、元の世界に戻る気持ちを失ってしまいそうな気がして。
だから忘れることにした。心の奥底に全部押し込んで、何もなかったことにした。
今度は違う。今でも怖い。晴彦に恋をしていると、好きなんだと認めることは。それでも私はもう、この『恋』から目を背けない。
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しばらく踊った後、疲れた私達はダンスの輪から離れていた。
「ふぅ、ちょっと疲れたね」
「あぁ、そうだな」
うぅ、ダメだ。頑張って普通にしてるけど、緊張して顔が見れない。
というか、晴彦のことを見てると好きだって感情が抑えられなくなりそう。
「そういえば結局さ、なんで零音はそんな恰好してるんだ?」
「これ? 私もわかんないよ。昼ヶ谷先輩に用があるって言われて、連れていかれたらその先に裁縫部の人たちがいて……こうなっちゃった」
実際、なんで私がこの恰好をさせられることになったのかはわかってない。シンボルとか言われたけど、なんで私がシンボルに選ばれたのか……もしかして、バトミントン大会で優勝したからかな?
まぁでも、おかげでこうして晴彦への気持ちがわかったわけだし、良しとしておこう。
「なっちゃったって……、まぁ雫先輩の考えてることだしな」
「私達にはわかんないね」
「そうだな」
そうだ。レクリエーションのこと言おうと思ってたの思い出した。
あの夕森達にデレデレしてた一件。
「あ、私ね、ハル君達が二人三脚を頑張ってるの見てたよ」
「え、見てたのか?」
「うん。この衣装のこととか秘密にしないといけなかったから出れなかったけど、裏から見てたの」
「そうだったのか」
「だから、ハル君が雪ちゃんとか井上さんとの三人四脚で鼻の下伸ばしてるのもしっかり見てました」
晴彦が二人に挟まれていた姿を思い出す。
あの時に感じた苛立ち……私は嫉妬しているんだと理解する。
晴彦の隣に、自分以外の人がいるのが許せない。
「伸ばしてねーよ!」
「えぇ、ホントに? ハル君はスケベさんだからなー」
「ドキドキしたりとか、嬉しかったりとか……しなかったの?」
「うぐっ」
やっぱりしてたんだ。
しょうがないことだとは思う。
夕森は中身はアレだけど、見た目だけなら完璧だ。井上さんも可愛い人だし。
何より二人とも胸が大きいし。
男の晴彦が二人のことを意識してしまうのは必然だ。
元男として、その気持ちはわかる。わかるけど、だからって納得できるわけじゃない。
「まぁでも、二人とも可愛いし。しょうがないよね。私は……ただの幼なじみだし」
ただの幼なじみ。そう、私達は結局どこまでいってもただの幼なじみなんだ。
私が今まで強調してきたものが重くのしかかる。
幼なじみという関係があったからこそ、今のこうして一緒に居る。でも、幼なじみという関係だからこそ、その先に踏み出せない。
ゲームでもそうだった。『日向晴彦』と『朝道零音』が、お互いを意識するまでの最大の障害は、幼なじみという関係そのものだった。近すぎるから近寄れない。
きっと、今の晴彦は私のことをただの幼なじみとしてしか見ていない。
「……違う」
「え?」
予想していなかった晴彦の言葉に、私は晴彦のことをジッと見つめる。
晴彦は、自分の中にある想いをさらけ出すように話す。
「ただの幼なじみなんかじゃない」
再び胸が騒ぎ出す。
自分の心臓の音がうるさすぎて、晴彦にも聞こえていないかと心配になるほどだ。
「俺にとって零音は、ただの幼なじみなんかじゃない」
「……じゃあ、何? ハル君にとって私は……どんな存在なの?」
何を言われるかわからないという不安、そしてもしかしたらという期待。
それを抱えたまま、言葉の続きを待つ。
「俺は、俺にとって零音は——」
晴彦が先を言いかけたその瞬間、突然大きな音が鳴り響く。
「きゃっ」
「うわっ!」
びっくりした私は、思わず晴彦に飛びつく。
私が飛びついたことと、大きな音、そのどちらか、または両方にびっくりしていた晴彦は、それでも私のことをしっかり支えてくれた。
「ご、ごめん。大丈夫?」
「え、あぁ、うん。全然、全然大丈夫だから!」
大丈夫そうには見えないけど……まぁいいか。
実は晴彦の言葉の続きを聞かなかったことにちょっとだけ安心してたり……はぁ、私って肝心なところでビビりなのかもしれない。
とりあえずそれは置いておいて、何の音だったんだろう。
そう思っていると、再び音が鳴り響く。
その方向を見てみると、
「はな……び?」
夜空に輝く大輪の花。
すこし季節は早い気がするけど、それはまぎれもなく花火だった。
踊っていた生徒達も空に上がる花火を見ている。
私も、晴彦も思わず見入ってしまう。
「……綺麗だな」
「うん」
それから少しの間、花火を見ていた私はふと、あることに気付く。
……あれ? 今の私の状況って、もしかして晴彦に抱きしめられてる?
私が花火の音にびっくりして、それから離れてないし……。
ふと見上げると、想像以上の近さに晴彦の顔があった。
「~~~~~~っ!!」
思わず叫びそうになるけど、なんとか抑える。
晴彦はまだ花火に夢中で気付いてない。さすがにもう少ししたら気付くだろうけど。
そしたらきっと晴彦は慌てて私から離れるんだろう。
こんな機会がまたあるかどうかなんてわからないし……だったら、あと少しだけ、
「もう少しだけ、このままでいいよね」
私は小さく呟いて、再び花火を見始めた。
ようやく自分の気持ちを理解した晴彦と零音。
しかし、ここからが本番になるのです。
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次回投稿は10月24日21時を予定しています。