第61話 校外学習編27 キャンプファイヤー 中編
少しだけ長くなったので、中編と後編に分けました。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
自由時間が終わり、レクリエーション会場へと向かう途中、私は昼ヶ谷先輩にほとんど連れ去られるようにして別室へとやって来ていた。
その場にいたのは、昼ヶ谷先輩と風城先輩、田所先輩。そして全く知らない女の先輩達だった。
晴彦への自分の気持ちを確かめる! と意気込んでいたのに、出鼻をくじかれたような気分だ。
「えーと……これは?」
椅子に座らされたまま、私を囲むように立つ先輩達。
「この子が話していた子よ」
「おぉー!! いいですねいいですね! これならばっちりです! 私達の作った衣装にも負けない逸材ですよ!」
あ、私の質問は無視ですか。
やたらとテンションの高い眼鏡の先輩が、私のことを見てしきりに「いいねー! いいねー!」と言ってるのが怖いんだけど。
「それで、用意はできてるのかしら?」
「もちのろんですよ! すぐにでも着せましょう!」
着せる? 一体何を?
にじり寄ってくる先輩達に、嫌な予感がした私は立ち上がって逃げようとした。しかし、
「ダメだよぉ~」
「ごめんなさい朝道さん、逃がすわけにはいかないわ」
風城先輩と田所先輩が私の扉の前に立ち、退路を塞ぐ。
風城先輩はなんかニヤニヤしてるし、田所先輩は……うん、ヤバい目をしてる。
「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫よ」
昼ヶ谷先輩は慈母のような笑みで言うけど、私は全く安心できない。
でももう逃げ場はない。
私は、逃げることを諦めるしかなかった。
それからしばらくの間、先輩のされるがままになっていた私。
気付けば昼ヶ谷先輩と田所先輩はいなくなり、風城先輩と謎の先輩方だけが残っていた。
「完成したっ!」
「おぉー!!」
「こ、これは……すごいですね」
「あぁ、わたくしの理想がここに……」
「うんうん、いいんじゃないかなぁ~」
先輩達の騒ぐ声で、ようやく私の意識が戻ってくる。途中から何も考えずにいたから何がどうなってるかわからないんだけど。
何これカオス。写真を撮りまくってる先輩に、目が血走ってる先輩、泣いてる先輩までいるし……どういう状況?
普通に話せそうなのが風城先輩しかいない。
「あの……終わったんですか?」
「うん、終わりだよぉ。ほら、見てみてぇ。天女をイメージしたんだってさぁ」
そう言って先輩は私を姿見へと誘導する。
「天女って、いったい何を——って、あ」
鏡に映る私の姿を見て言葉を失う。
そこには、まさしく天女がいた。
いや、うん。私のことなんだけどさ。
「え! えぇ! なんですかこれ!」
「詳しい説明は後にしよっかぁ。さ、時間もないし行こうよ」
風城先輩に連れられて、私は部屋を出た。
□■□■□■□■□■□■□■□■
レクリエーションを裏で見ながら話を聞くに、私のことをこの後に行われる最後のイベントのシンボルとして使いたいらしい。
さっきの人たちは裁縫部の人で、私のこの衣装を作ってくれたみたいだ。いつの間にそんな準備してたんだろう。
ここまでされて断るわけにもいかないけど……さすがに、この恰好で全員の前にでるのは恥ずかしい。
ダンスを踊るってこともあって下の方は膝上丈のスカートだし……私普段こういう丈のスカートは着ないからなぁ。
「この恰好ならハルハルも意識してくれそうだねぇ」
「…………」
ニヤニヤと笑いながら風城先輩が言う。
思わず反論しそうになるけれど、自制する。
私は自分に正直になるって決めたんだ。
だから……うん、認めよう。私は、晴彦に私のことを意識して欲しいと思ってるんだ。
「そうですね。そしたら嬉しいです」
「あれぇ? 否定しないんだぁ」
私が認めたことに驚いたみたいだ。
まぁ確かに、今朝までの私なら認めなかっただろうし。
「もう、自分に嘘をつくのは止めました」
「……そっか、そっかぁ……。うん、いいよぉ、いいんじゃないかなぁ」
風城先輩がこれまでにないくらい楽しそうな顔をする。
「なら、ボクはもう何も言わないよぉ……楽しませてねぇ」
そう言って私の元から離れていく。
別に先輩を楽しませるつもりはないんだけど……でも、先輩の言葉もあってのことだから、今は何も言わないでおこう。
そうこうしてるうちに決勝が終わった。
どうやら晴彦が勝ったらしい。良かったぁ。
でも、井上さんと夕森に挟まれて鼻の下を伸ばしてたことに少し苛立ちを覚える。
後で絶対に言ってやろう。
この後はいよいよキャンプファイヤーだ。
晴彦が、私の前に来る。私が晴彦のことをどう思ってるのか……その答えを出す時だ。
広場に移動すると、すでに生徒は全員集まっていた。
もちろん、晴彦の姿もその中にある。
私は生徒会の人たちと一緒に、話し始めた昼ヶ谷先輩の後ろにいた。
「さぁ踊りましょう……と言いたいけれど、その前に一人紹介させてもらうわ」
昼ヶ谷先輩の言葉で、私はその隣に立つ。
その場にいる全員の視線が自分に集まるのを感じる。想像以上の圧力に、思わず足がすくみそうになる。
「彼女は一年生の朝道零音さんよ。今回のイベントのシンボルとしての役割を担ってもらったわ。ちなみに、この衣装は裁縫部の人が天女をイメージして作ってくれたわ」
私達の後ろで裁縫部の人達がグッと親指を立てている。
この衣装作るの大変だったみたいだし、後でお礼を言っておこう。
「さて、そんな彼女と踊ってもらうのは同じく一年生の日向晴彦君よ。前に来てもらえるかしら」
遠目に晴彦が驚いてる姿が見える。
そうとう緊張してるみたいだ。まぁ、そう言ってる私もだいぶ緊張してるんだけどさ。
「頑張りなさい」
「え?」
隣に立っていた昼ヶ谷先輩が、小さな声でそう言って私の背を押す。
気付けば、晴彦が私の前まで来ていた。
あぁ、まずい。私、これ以上ないくらいに心臓がバクバクと脈打ってる。
さっきまで感じてた視線も何も感じなくなって、晴彦のことしか目に映らなくなる。
まるで、私と晴彦しかこの世界にいないみたいだ。
晴彦も、私のことをジッと見たまま動かない。
「……ハル君?」
あんまりにも動かないから心配になってきた。
「どうしたの? 大丈夫?」
私が一歩晴彦に近づいた瞬間、
「……綺麗だ」
「へっ!?」
心臓が止まりそうになる。
い、今、晴彦はなんて言った?
私の中で色んな感情が混ざり合って少しパニックになる。
「あ、わ、悪い! つい」
「別にいいけど、その、いきなりは恥ずかしいよ」
自分でも顔が真っ赤になってることがわかる。
嬉しい。そう思ってしまっている自分がいる。
「…………」
「…………」
私の中で暴れまわる感情を抑えるのに必死で、何も言えなくなる。
それから少しして、昼ヶ谷先輩に何かを言われた晴彦が私の前に立つ。
「俺と……俺と、踊ってくれますか?」
そう言って私に向かって手を差し出す。
正直に言おう。私は、今までに見たことないくらい真剣な表情の晴彦に見惚れていた。
単純に、純粋に、カッコいいと思ってしまった。
そして理解してしまった。私の胸の中に渦巻く感情の、その名前を。
「……はい!」
私は晴彦の手を握る。
ドキドキと胸が高鳴る。
まともに晴彦の顔を見れない。なのに見ていたい。
ずっと昔から私の中にあったこの感情。一度は逃げてしまったけど……もう逃げない。
私の中に渦巻くこの感情、その名前はきっと——『恋』だ。
裁縫部は何日か徹夜で零音の衣装を完成させたのです。
執念ですね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は10月23日8時を予定しています。