第59話 校外学習編25 レクリエーション
校外学習編はあと二、三話で終わる予定です。たぶん。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
全体のレクリエーションまでの時間、自由時間になった俺は友澤達とホテルの中にあったお土産屋さんに来ていた。
「母さんになんか買って来いって言われたんだけどさー。何がいいんだろうな」
「うーん、まぁ普通にお菓子とかでいいんじゃないか? こういう、ホテルの名前とかが書かれてるやつ」
お土産かー。俺は家に父さんも母さんもいないし、買っていく必要ないかな。というか、そんなに金持ってないし。
「山城は買わないのか?」
「あぁ、そうだな。祖父母と両親の分くらいは買って帰ろうと思う。お前は買わないのか?」
「あぁ、俺はいいかな。父さんも母さんも海外だし」
「そうだったのか」
「そういえば言ってなかったか」
「まぁな。しかし納得したぞ。だから朝道がお前のことを起こしたりするわけか」
「そういうことだ。助かってるよ」
「ホント、日向はいいよなー。俺なんて家に帰っても鬼みたいな母さんと、生意気な妹しかいないんだぜ? 不公平だ不公平!」
お菓子を吟味しながら友澤が文句を言ってくる。
それを俺に言われてもなぁ……どうしようもないし。
「あ、そういえばさ、朝道さんってダンス相手誰を選んだんだろうな」
「ふむ、そういえばキャンプファイヤーの時に踊ると言っていたな」
「……あぁ、そういえばそうだな」
内心の動揺を悟られないように努めて冷静を装う。
本音を言うなら、俺もすっごく気になってる。零音が誰を選ぶのか。
零音なら俺を選んでくれるんじゃないか……なんて勝手に思ってるけど、違かったら相当恥ずかしい奴だよな、俺って。
でも実際、零音には全くと言っていいほど男っ気がない。いっそ不自然なほどに。
「オレのこと選んでくれたりして!」
「それはないな」
「ないだろ」
「うぐぅっ!! わかってたことだけど、そんな直球で言わなくていいだろ! 夢くらい見させろよ!」
思わず反射的に言ってしまった。
零音の隣に俺以外の男がいる。零音がその男に笑顔を向けてる姿を想像すると……すごく嫌だった。子供みたいだと思わず自嘲しそうになる。
でも、今のままだと、今のままの関係なら、いずれそうなるんだ。いつまでも今のままではいられない。いつか零音にも好きな人ができて、その人と結ばれるんだろう。
その時俺は笑って祝えるだろうか?
「よし、決めた! オレこれ買ってくるわ!」
「俺も買ってこよう」
二人の声に、俺は現実に引き戻される。
今は考えてもしょうがないか。
そう思って俺は二人の後を追った。
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自由時間終了後、俺達はバトミントンをした体育館のような場所に集まっていた。
会場は三つに分けられていて、それぞれの場所でレクリエーションが行われるらしい。さすがにこの一か所に全員を集めるのは無理だろうしな。
「あれ、零音はどうしたんだ?」
班ごとに集合、ということになってたんだけど、やって来たのは雪さんと井上さんだけだった。
「んー、アタシ達もよくわかんないんだけど、昼ヶ谷先輩に連れてかれたよ。途中までは一緒だったんだけどさ。ね、めぐちゃん」
「う、うん。後でのお楽しみだって言ってたよ」
うーん、まぁ、雫先輩なら悪いようにはしないだろうし。大丈夫か。
それから少しして、雫先輩が全員の前に立つ。
「待たせたわね。これからこの校外学習の最終プログラムを始めるわ」
雫先輩が話し出すと、それまでざわざわとうるさかった会場が静かになる。
最終プログラム。全体で何かするって話は聞いてたけど、結局詳しい内容とかは知らないんだよな。何するんだろ。
「まぁ、そう固くならなくていいわ。今回行うのは、二人三脚、三人四脚、ムカデ競争の三つよ。それぞれ班ごとにチームを組んでもらうわ。各々、今回の校外学習で得た仲間との絆を最大限に発揮して頑張ってちょうだい」
こうして、先輩の号令で始まった最後のプログラム。
トーナメント形式で、二人三脚、三人四脚、ムカデ競争の三つを連続で行い、そのタイムを競うというものだった。
俺達の班は零音が欠けているという点で不利ではあったけど、雪さんや山城みたいな運動の得意な人も多かったおかげで、なんと決勝まで勝ち残ることができた。
「よーし、これで最後だね!」
テンション高めに雪さんが言う。
ここまで一回戦からずっと走り続けてるのに、すごい元気だと思う。俺なんかはもうすでにだいぶ疲れてる。
さすが雪さんって感じだ。
決勝戦は四チーム対抗だった。
他のチームを見てると、もう残ってるのは運動部を中心にしている班だけで……ってあれ? なんかあの人たち見たことある気がする。
すると、向こうにいた人の一人が、こちらに近づいてくる。
「よぉ、久しぶりだな」
「えーっと……」
いきなり声を掛けられても、誰かわからない。
見たことはあるんだけど……。どうしよう。
「君、誰?」
直球で雪さんが問う。
俺と雪さん以外の三人も知ってる様子はない。
「なっ!? 覚えてねぇのか!」
「うーん……ごめん! わかんないや!」
どうやらその人は俺達……というか、雪さんに因縁があるらしい。
「おれだよ! 部活動見学の時にバスケで3on3やっただろうが!」
「……あぁ! あの時の」
そう言われて俺もようやく思い出した。この人は俺と零音と雪さんで部活動見学をしてた時に会った人だ。バスケで雪さんにコテンパンにされてた……名前は知らないけど。
「それで、どうしたの?」
「あんときはお前に負けちまったからな。今回は勝たせてもらうぞ」
宣戦布告をしに来たと、そういうわけか。
「へぇ……アタシに勝とうって言うんだ」
勝負を吹っかけられた雪さんの目が好戦的に光る。
「いいよ、受けてあげる」
やっぱりそうなりますよねー。
二人は少しの間睨み合い、やがて男子の方がふん、と鼻を鳴らし、元の班の所へと戻っていった。
「よーし、勝つよ! 絶対勝つよ! ファイトー、おー!」
メラメラと勝負の炎を燃やしている雪さん。
俺達がそれを止められるわけもなく、
「「「「お、おー」」」」
雪さんに合わせるしかなかった。
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まず最初の二人三脚、普通は男子二人から選んで組んでいる。
そして、そこから他の班は女子3人で三人四脚、をして、最後に全員でムカデ競争という流れなんだけど……俺達の場合、零音がいないので、そこに男子が誰か入るしかない。
体格差のある山城は除くとして、俺か友澤か。もちろん友澤が雪さん達と組みたがったけど、下心が見えすぎと言われ、断られていた。つまり俺が組むことになったんだけど……これが非常に心臓に悪い。
バランスをとるために俺が真ん中になったんだけど、こう、二人の体が押し付けられて落ち着かないのだ。そして何より、他の男子からの嫉妬の目がすごい。殺意のこもった視線とはまさにあのことだ。ちなみに、一番の殺意を向けてきたのは友澤だ。
そして、競争開始前。友澤が山城に向けて言う。
「山城、全力で走ってくれ」
「いいのか?」
「あぁ。夕森さんが勝ちたいって言ってるんだ。本気出さないわけにはいかないだろ。任せろって。このオレなら山城に合わせるくらい朝飯前だからよ」
「……わかった」
山城はでかい。俺達のクラスでも一番だ。対して友澤はそこまで大きいわけじゃない。二人三脚で山城に合わせると、どうしたって友澤の負担が大きくなるのだ。だからこそ山城は今まで友澤に合わせて走っていた。
友澤が山城に合わせる。それは簡単なことじゃない。でも、あいつの目は本気だった。
それを山城も感じたんだろう。
そしていよいよ、全員がスタートラインに立つ。
「よーい……ドンッ!」
「行くぞ!」
「へ?」
先生のスタートの合図と同時、山城がものすごいスピードで飛び出す。
「え、ちょっ。これは無理だぁああああああ!!」
あまりの速さに、友澤はほとんど引きずられるような形になっている。しかし、そのかいもあってか、他の班を大きく引き離している。
「ひぃいいいいいいいい!!」
あれ、友澤死ぬんじゃないかな。
なんて心配をよそに山城は戻ってくる。そしてバトンを受け取り、今度は俺達が走り出す。
俺達は井上さんに合わせて走っている。三人四脚では二人三脚以上に歩幅を合わせるということが大事だ。だからこそ、一番歩幅の小さい井上さんの走りやすいペースで走った方がいい、というのが雪さんに言われたこと。
だからこそ俺達は足をもつれさせることなく走ることができている。
しかし、転ばないというのは大きな利点ではあるが、決して速いわけじゃない。
他の班がじわじわと追い上げてくる。
そして俺達がゴールするとほとんど同じくらいに、さっきのバスケのチームが到着する。
「あぅ、ご、ごめんね」
「まだ大丈夫。焦っちゃダメだよ。アタシ達のペースで走ったら勝てるから」
最後のムカデ競争。
ムカデ競争は、背の高い人順に並んでいくのが定石。つまり、俺達の場合山城を先頭に置くことになる。そして一番後ろには雪さん。後ろは声の大きい人が良いと言われている。
「せーのっ!」
ムカデを組み終わり、雪さんの号令で俺達は走り出す。
それから少し遅れて、バスケ部の班も走り出した。
その速さはほぼ同じ。
そして折り返し地点。俺達との距離が縮まらないことに業を煮やしたのか、先頭に立っていたあのバスケ部男子がスピードを上げようとする。
しかし、それが悪手だった。
「うわっ!」
「ちょっ」
「きゃあ!」
いきなりスピードを上げられたことでバランスを崩し、そのまま倒れる。
そして俺達は最後までペースを乱すことなく走り、ゴールテープを切る。
「一位、日向チーム!」
「やったぁああ! 勝った、勝ったよー!」
「ちょ、雪さん。嬉しいのはわかるけどあんまりくっつくと——」
雪さんの体の柔らかい部分が押し付けられて、何とも言えない多幸感に襲われる。
「まぁまぁ、今ぐらいいいじゃん!」
やんわり引き離そうとしても、テンションの上がった雪さんは離れてくれない。
まぁ、それだけ喜んでるってことなんだろうけど。
山城も友澤も井上さんも勝てたことを喜んでいる。
俺達が勝利の余韻に浸っていると、バスケ部男子が近づいてきた。心底悔しそうな顔で。
「……負けだ。でも次は勝つからな! 覚えとけ!」
「ふふん、いいよ! いつでも受けてあげる。あ、でもその前に君の名前教えてよ」
「知らなかったのかよ!」
「だって名前言ってないじゃん」
「甲斐だよ! 甲斐隆二! お前も……お前達も覚えとけよ!」
それだけ言い残してバスケ部男子——甲斐は去っていった。なんというか……友澤とは別のベクトルで騒がしい奴だ。
何はともあれ、俺達はこうしてレクリエーションを勝利で終えることができた。
そして、キャンプファイヤーの時間がやって来た。
ムカデとか二人三脚とかやりましたよね。
案外得意でした。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は10月21日18時を予定しています。