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第58話 校外学習編24 零音の決断

しっかり寝ると頭がすっきりする。そんな当たり前のことに気付いた今日この頃。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。


「そういえば、キャンプファイヤーの時のダンス相手は決めたのかしら」

「え?」


 お菓子を食べ終わった後、昼ヶ谷先輩がいきなりそんなことを聞いてきた。

 あ、そういえば昨日のバトミントン大会のご褒美とか言ってたっけ。すっかり忘れてた。

 ダンス相手の指名権。そんなの貰っても選ぶ相手なんて晴彦しかいないけど……今はそういう気分でもない。まぁでも、晴彦しか相手がいないのも事実だ。


「……とりあえずハル君でお願いします」

「まぁやっぱりそうなるわよね。それ以外の選択肢なんてないんだろうし」


 当たり前だ。なんで他の男と踊らないといけないのか。そんなのは自分で骨を折ってでも回避する。


「……先輩はいいんですか?」

「何がかしら?」

「私がハル君と踊る事です」


 昼ヶ谷先輩と晴彦をくっつける手伝いをしろというのが本心であるなら、私が晴彦と踊るような事態は避けたいはずだ。少なくとも、私なら絶対に許さない。


「あぁ、そのことね。別にいいわ」


 あっけらかんと先輩は言う。


「悩んでいたのはそのせいかしら? 私に遠慮したの? それはつまり私のサポートをする気になったと考えていいのかしら」

「そういうわけじゃ……」


 一瞬ドキリとする。遠慮なんてする理由はない。まだ先輩のサポートをすると決めたわけでもない。なのになんで私はそのことで悩んだんだろうか。私はその理由にたどり着きかけて……直前で止める。私の直感が言うのだ、その理由にたどり着いたら、私は私でいられなくなると。


「ふふ、冗談よ。それじゃあ、晴彦を相手にしておくわね」

「……はい」


 先輩はそういって去っていく。私はただその背中を見送るしかなかった。





□■□■□■□■□■□■□■□■


 お菓子を食べ終わった後、全体のレクリエーションまで自由時間となった。

 皆が他のクラスの人の所に遊びに行ったり、ホテル内のお土産屋さんに買い物に行ったりしてる中、私は一人ホテルの自室にいた。

 どうにも何かする気にならない。頭の中を巡るのは昼ヶ谷先輩の言葉ばかりだ。

 もし私が先輩の提案を呑んだなら、先輩と晴彦が結ばれる可能性は高くなるだろう。そしたら私は元の世界に戻れる……かもしれない。だって、先輩の言ってることが本当だとは限らない。嘘をついてる可能性だってある。私を騙そうとしているのかもしれない。もしそうなったら私は馬鹿で間抜けな奴だ。

 そのリスクを考えたら断るのが正しい。正しいはずなのに。


『……本当の意味で、私が晴彦のことを好きになったから……って言ったらどうする?』


 そう言った時の先輩の目は真剣だった。それが、そのことが私の頭を離れない。

 ずっと前から考えてたこと。私という存在が与える晴彦への影響。私は美少女だ。そんな私がずっと晴彦のそばにいれば、決して少なくない影響はある。男子は晴彦に嫉妬した。女子は私がいるせいで晴彦に近づこうとしなかった。私の存在はそれだけ大きかった。

 でももしそれでも晴彦のことを好きになる人がいたなら、晴彦のことを諦めない人がいるのなら……私はその人に勝てないんだろう。

 誰かに晴彦を盗られるなら……そんなことになるくらいなら——


 コンコン、と部屋のドアがノックされる。

 その音で私は思考の海から引きずり戻された。

 誰だろう。井上さんとか夕森なら勝手に入ってくるだろうし。


「……はい」

「私だ。保険医の風城だ」

「っ!?」


 予想もしてなかった人の訪問に驚く。

 なんで先生が私の所に……というか、なんで私が部屋にいることを知ってるんだろう。

 正直、風城先生のことは苦手だから二人きりで会いたくはないけど……追い返すのも失礼な話だ。開けるしかない。

 そう思って私はドアを開ける。

 

「すまないな。いきなり来て」

「いえ、それよりもどうかしたんですか?」

「別に大した話じゃないけどな」


 部屋に入った先生は、椅子に座り、私にも座るように目で促す。

 できれば用件だけ言って帰ってもらいたかったけど……しょうがないか。


「今回、お前達の班に私の妹がいただろ?」

「え、あぁ、はい。そうですね」

「あいつに迷惑をかけられなかったか?」

「そんなことは——」


 ないとは言い切れない。というか、今回の校外学習、考えてみればあの人のせいで色々と苦労した気もする。意味深なこと言ってきたりもしたし。


「はぁ、やっぱりか」

「あ、いえ、先輩には良くしていただいて……」

「ふっ。そんなに気を使わなくていい。あれには私も手を焼いてるからな」


 確かに、あの人相当自由な感じだし、家でもその調子だと苦労するだろう。

 

「すまないな」

「そんな、先生が謝ることじゃないですよ」

「あの子にも悪気はないんだが……まぁ、朝道のことを気に入ってるみたいだから、仲良くしてやってくれ」

「はい、もちろんです」


 嫌です。とは言えないよなぁ。まぁそれに、風城先輩は変な人だけど、だからって悪い人ってわけじゃない……と思いたい。


「そう言ってくれると姉として安心するよ」


 安心したように息を吐く先生を見て、先生もお姉さんなんだなぁっていう失礼な感想を思わず持ってしまう。


「そういえば、朝道はなんで部屋にいるんだ? 他のみんなみたいに買い物したりしないのか」

「あぁいえ、その……疲れちゃって」


 あぁ、もしかしてこれが本題か。わざわざ部屋まで来たのはそれを知るためか。

 ジッと私を見る先生の目は前と同じで、私の心の底まで見透かそうとするような……私の苦手な目だ。


「ふむ……日向のことか?」

「っ!」


 なんでわかるのか、なんてことはどうでもいい。

 先生の言葉に、私はただ俯くことしかできない。


「……まぁ、私が何かを言うべきじゃないかもしれないが。私が前に言ったことを覚えているか?」

「前に言ったこと……ですか?」

「自分の心にすら正直になれないものに、掴めるものなんてありはしない」


 それは、前に図書館で先生に言われたことだ。


「私には、君は悩みの答えを出しているのに、それに気づいてないふりをしているように見える」


 私が答えを出してる? どういうこと?

 私はまだ何も決めてなんてないのに。


「本当は気付いてるんだろう? 自分がどうしたいのかということは」

「私は……」

「……ふっ、おせっかいだったな」


 そう言って先生は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。

 

「……後悔のない選択を」


 それだけ言い残して先生は部屋を去っていった。

 先生が出ていってしばらくして、私はベットに倒れこむ。

 はぁ、疲れた。あの人がいるとそれだけで精神が削られる気がする。

 っていうかあの人真面目な顔して話してたけど、私の胸とか太ももとか見過ぎだと思う。


「…………」


 後悔のない選択を……か。言うのは簡単だよね。

 できるかどうかは別だけどさ。


「……なんか、悩んでばっかりだ」


 高校に入って、色んなことがあって……晴彦の周りには私以外の人が増えた。

 私がいることが当たり前だった晴彦の隣に、私以外の人がいることが増えた。

 それが私には辛くて、悲しくて……でもちょっとだけ嬉しくて。

 それはなんでなんだろう。

 ジッと目をつむって考える。


「自分の心に正直に……か」


 思い出すのは、この今までにあったこと、そしてこの校外学習の間に言われたこと。


「……よし」


 決めた。今夜、私は答えを出す。

 キャンプファイヤーの時に、晴彦と話して、そして決めよう。


「私はもう、自分の心から逃げない」


ようやく校外学習編も終わりが見えてきました。長かった……。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は10月20日18時を予定しています。


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