第56話 校外学習編22 めぐみの想い
この話は三人称となっています。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
お菓子作りのペアが決まった後、双葉とペアになっためぐみはどんなお菓子を作るかについて話し合っていた。
「うーん、何作ろっか~」
「そ、そうですね。何作りましょう」
いつも通りな様子の双葉と対照的に、めぐみはガチガチに緊張していた。同級生でさえ話すのは緊張するというのに、先輩と一緒に居て緊張しないわけがなかった。昨日、一ノ瀬と組んでいた時も終始緊張していたのだから。
「ん~、めぐみちゃん」
「は、はい!」
「えいっ」
「ひゃんっ」
むんずと双葉がめぐみの胸を鷲掴みにする。
そして遠慮なく揉みしだく。
いきなりの事に反応が遅れためぐみだったが、慌てて双葉の手を引きはがす。
「な、ななな何をするんですか!」
「おぉ~。やっぱり柔らかいね~」
顔を真っ赤にして叫ぶめぐみのことなど気にせず、双葉はもんだ胸の感触を思い出すかのように手をワキワキと動かす。
「うぅ~」
「あぁ、ごめんねぇ。昨日バトミントンで見た時からずっと触ってみたかったんだぁ」
「そ、そんないきなり、恥ずかしいですよぉ」
「だって言ったって触らせてくれないでしょ~」
「それは……そうですけど」
誰だって胸を触らせてくれと言われて素直に触らせるわけがない。
ましてやめぐみにとってこの胸はコンプレックスだ。注目を浴びたくないのに、この胸のせいで周囲の人からジロジロと見られることも少なくなかった。だから普段は隠しているのだ。だがしかし、今回は激しく動くようなことはないと思っていたこともあって、いつも胸を押さえているアイテムを持ってきていなかった。だからあんなことになってしまったのだ。
「うん、でも予想以上だったよぉ」
「予想以上……ですか?」
「大きさ、柔らかさ、弾力。どれをとっても文句なしだねぇ」
「そ、そういうのは言わないでいただけると……恥ずかしいです」
「うんうん、恥じらう姿もグッドだねぇ」
楽し気に頷く双葉に対して、めぐみは顔を赤くして俯いてしまう。
「でもでもぉ、さっきよりは緊張ほぐれたんじゃない?」
そう言われればとめぐみは思う。まだ緊張してないわけじゃない。それでも先ほどよりもマシになったとめぐみは感じていた。だからといって胸を触られたりしたらたまったものではないとも思っていたけれど。
「まぁそれじゃあめぐみちゃんの緊張もある程度解けたところで、作るお菓子決めよっかぁ」
「は、はい。そうですね」
「ボクはお菓子なんでも好きだけどぉ、めぐみちゃんは?」
「わ、わたしもお菓子は好きです。ただ、自分で作ったりしたことは、その……ないですけど」
「そっかぁ。ボクもお菓子はあんまり作ったことないんだぁ。料理ならするんだけどぉ」
「そうなんですね」
昨日、双葉は零音と一緒に夜ご飯を作った。その手際は見事なもので、あまり料理に慣れていないめぐみでも上手だということがわかったくらいだ。
「でも大丈夫だよぉ」
「大丈夫……ですか?」
「うん。だってボクお菓子好きだしぃ」
「……えっと、それはどういうことですか?」
「だからねぇ、ボクはお菓子が好きなんだよぉ」
「は、はい」
「だからお菓子作れると思うんだぁ」
「???」
めぐみの頭に疑問符が浮かぶ。まるで数学で問題と答えだけ見せられて、解き方も途中式も何も教えてもらっていないような、そんな感じ。
なぜお菓子が好きなこととお菓子を作れることがイコールになるのか、まったく理解できていなかった。
「えーっと……」
「ボクのお菓子好きな思いがあれば、作れるんだよぉ」
「……そうですね」
めぐみは理解することを諦めた。きっと先輩が言うのだからそうなんだろうと、半ば無理やり自分を納得させたのだ。何事も、諦めが肝心である。
「めぐみちゃんは何か食べたいお菓子とかある~?」
「い、いえ、特には。先輩の好きな物でいいですよ」
「そっかぁ。それじゃあドーナツでも作ろっかぁ」
その一言で、めぐみ達の作るお菓子は決まったのだった。
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ドーナツというお菓子は、手順と道具さえしっかり揃っていればそれほど作るのが難しいお菓子というわけじゃない。
そしてこのホテルには、ドーナツを作るための道具もひと通りあった。
二人のお菓子作りは比較的スムーズに進んでいった。
「あとはぁ、生地を寝かせてからかなぁ」
「い、意外と早くできそうですね」
「そうだねぇ」
生地を寝かせている間は手持ち無沙汰になってしまう。
「ねぇ、めぐみちゃん」
「は、はい。なんですか?」
「暇だからさぁ、ちょっとお話でもしてよーよ」
「あ、あんまり面白い話はできないと思いますけど」
「大丈夫だよぉ」
あんまり話すのが得意じゃないめぐみは不安そうな顔をしているが、双葉はお気楽なものだ。
「聞きたいのはハルハルのことだからさぁ」
それを聞いて、めぐみは思わずドキリとする。そんなめぐみの様子を見て楽し気な表情をした。そして双葉の聞きたいことは一つだけだ。ズバリ、晴彦のことが好きかどうか。答え次第によっては面白いものが見れるかもしれないと双葉は思っている。
「最近さぁ、ハルハルと仲良いんでしょ~?」
「えぇっと……まぁ、はい。でもそれは日向君が優しいからで、私なんかと仲良くしてくれる日向君には本当に感謝しかなくて」
「ふぅ~ん。じゃあさぁ……ぶっちゃけぇ、ハルハルのこと好きなのぉ?」
「え、えぇ!! な、なんでそういう話に。ひ、日向君は友達で、だから、その、好きとかそういうのは……」
顔を真っ赤にして慌てふためくめぐみの様子は晴彦のことをどう思ってるかを如実に表していたが、めぐみはそのことに気付いていない。
「そっかそっかぁ、好きなんだぁ」
「だから、その、えっと……はいぃ……」
最後は最早消え入りそうな声になりながらも、めぐみは晴彦のことが好きなのを認める。そしてそれは双葉が望んだ答えでもあった。
「じゃあさぁ、零音ちゃんのこと邪魔だと思ったりしないのぉ?」
「じゃ、邪魔って……なんでですか?」
「だってさぁ、ハルハルのことが好きならずっと隣にいる零音ちゃんが邪魔だと思うでしょ?」
好きな人の隣に、自分じゃない異性がいる。普通なら邪魔だと思う。嫉妬する。そう思わずにはいられないはずだと双葉は考えている。
しかし、
「それはありえません」
今までにない、はっきりとした口調でめぐみは否定する。
「私が日向君のことを好きなのは、その、事実ですけど。それ以上に、私は朝道さんの友達なんです」
「どういうことぉ?」
「私が日向君と話すようになったのも、私が孤独じゃなくなったのも……全部朝道さんがいてくれたおかげだから。だから、私は朝道さんに感謝することはあっても、邪魔だと思うなんてありえないんです」
「……でも、零音ちゃんもハルハルのこと好きだよぉ。とられてもいいのぉ?」
「そうですね。朝道さんは言わないけど、日向君のことが好きなのは見てたらわかります。だったら、私はその想いを応援したい」
それはずっとめぐみが思っていたことである。晴彦のことは好きだけれど、零音が晴彦のことを好きだと言うなら、その想いがあるのなら自分はその応援をしたいと。それがめぐみの決断である。
「好きな人と好きな人が幸せになるなら、それ以上に嬉しいことってないじゃないですか」
対して、双葉にとってその言葉は決して面白いものじゃない。本当ならここでめぐみを晴彦にけしかけて、零音が恋心を自覚する一助になればいいと思っていたのにこのめぐみの様子ではそれが望めないと思ったからだ。
(まさかこんな子がいるなんてねぇ……予想外だったかもぉ。あと一押しなのになぁ)
あと少し、何かきっかけがあれば零音は晴彦への想いを自覚する。そう見込んでいる双葉は、めぐみをそのきっかけにできないことを残念に思った。
(まぁでも……うん、この子はこの子で面白いかなぁ)
「……ふふ」
「? どうかしたんですか?」
「ボク、君に興味が出てきたかもぉ」
それからドーナツ生地を寝かせてる間、めぐみは双葉の雑談に付き合わされたのだった。
お菓子好きな人はお菓子を作れる by風城双葉
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次回投稿は10月17日21時を予定しています。