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第55話 校外学習編21 雪と鈴 雪視点

書きたいものが多すぎて時間が足りないのです。もっと早く書けるようになりたい。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 これは、オレがまだ元の世界にいた時の話。

 オレには、弟がいる。生まれつき体が弱くて、入院したり、退院したりを繰り返してるやつだった。どんくさい奴で、何をするにも他の人よりも時間がかかってた。

 対してオレは、やろうと思えばなんでもできた。勉強は苦手だったけどな。それだけが理由じゃねぇけど、やろうと思えばできちまうオレは何に対しても情熱を持ち続けることができなかった。

 そんなオレのことを弟は褒めてくれた。兄さんはすごいって、ボクも兄さんみたいになりたいって。弟がオレの世界に色をくれたんだ。

 弟に誇れる兄であること、それがオレの存在意義だった。

 なのに、オレはこの世界に来ちまったんだ。弟を元の世界に残したまま。

 だから、オレはなんとしても元の世界に戻らないといけないんだ。弟のいるあの世界に。






□■□■□■□■□■□■□■□■


 やっちまった。オレは後悔のため息を吐きながらホテルのロビーにあるソファに座っていた。

 もう少し考えて動くべきだった。さっきの行動は、オレの嫌いなタイプの女共と同じだ。


「ちっ」


 思わず舌打ちする。

 あぁくそ、最悪だ。オレの目的は晴彦に自分を意識させることなのに。あれで距離を取られたら元も子もねぇ。

 でも、今日の晴彦を見ててわかったことがある。

 あいつは、確実に朝道の奴を意識してる。今までみたいに、幼なじみとしてじゃなく、一人の異性としてな。さっき朝道が近づいてきた時、あいつは無意識か意識的にか、オレを引き離そうとした。

 それから授業の合間の休み時間、朝道と山城が二人で話してた時、あいつはたぶん無意識に二人の方を気にしてた。

 思ってた以上に早い。晴彦が朝道のことを異性として意識し出すのはもっと後だったはずなのに。まぁ、幸いなのは肝心の朝道の奴がそのことに気付いてないってことだけどな。

 それからもう一つ。さっき確信したのは、朝道は晴彦のことが好きだってことだ。さっきのオレを見る目。オレの行き過ぎた行動を止めるという目的以上に、あいつの目には嫉妬の炎があった。

 あいつはたぶん自分のことに気付いてないだろうがな。

 つまり、今の晴彦と朝道は相思相愛に近い。どちらかがそのことに気付いてたらその時点で終わりだ。そのままエンディングに行っちまう可能性が高い。


「そんなの認めねぇ……って言ってもなぁ」


 それで焦ってさっきみたいなことしてたらなぁ。ホント、バカやっちまった。なんとか取り戻さないと。


「…………」


 自分の中にあるどうしようもない焦り。それはこの世界で晴彦と出会ったその時から日ごとに大きくなってる。

 どうしようもねぇことだとは理解してる。でもしょうがないだろ? 何年も何年も待ってたんだ。ようやく出会った元の世界に帰る手段なんだ。焦るなって言う方が無理がある。


「ふぅ、とりあえず戻るか。そっからだ」


 まずはさっきの行動の尻ぬぐいからしねぇとな。あー、めんどくせぇ。晴彦が手っ取り早く体に反応してくれるやつだったらよかったのに……なんてな。そんなやつじゃねぇのはよくわかってるさ。


「あれ、雪ちゃんだー!」


 オレが立ち上がろうとした時、遠くから走ってくる奴が一人。鈴だった。


「鈴ちゃん!」

「わー! ホントに雪ちゃんだー! 昨日一日会えなかっただけで寂しさで死にそうだったよ~」


 遠慮なく飛び込んでくる鈴。避ける間もなく抱き着かれて、胸に顔をうずめられる。鈴の鼻息がくすぐったい。


「うぇへ、うぇへへへへへ」


 あ、鈴が人に見せられねぇような顔してやがる。っていうか力つえぇ、引き離そうとしても離れねぇ。


「ちょ、ちょっと鈴ちゃん。離れて欲しいんだけど」

「やだ」

「えぇ!? なんでよ」

「まだ雪ちゃん分を補充できてないのー」

「でも、鈴ちゃんもまだ先輩達と一緒に行動してるでしょ。アタシと一緒にいちゃだめなんじゃ」

「んー、大丈夫だよー。今は休憩時間だし。だからロビーに来たのジュース買おうと思って」


 くっそ逃げられねぇ。さっさと調理室に戻ってりゃよかった。


「……雪ちゃん、どうかしたの?」

「え?」

「なんか悩んでる顔してるから」

「アタシが? 気のせいだよ。ほら、アタシ元気だし」

「嘘」


 今までの生活で培った演技力で笑顔を作る。

 しかし、それを鈴は嘘だと言い切る。


「何年一緒にいると思ってるの。何か悩んでるでしょ。……わたしには話せないの?」


 うっ。この目、この目は苦手なんだ。なんだか悪いことしてる気分になる。それと、鈴の雰囲気が元の世界にいた弟となんとなく似てるってのもあると思う。

 こうなったら鈴は引かねぇしな。しょうがない。ある程度話すか。


「はぁ、しょうがないなー。わかった、話すよ」


 ロビーのソファに鈴と並んで座る。


「前に話したの覚えてる? アタシに気になる人がいるっていうの」

「うん、覚えてるよ」

「その人にもしかしたら好きな人ができちゃったかもしれないの」

「えぇ! ホントに?」

「うん。それでね、相手の子もどうやらその人のことを意識してるみたいで」


 別に嘘は言ってねぇ。オレの今の状況を普通に説明するならこういうことになるだろう。


「それで焦って、失敗しちゃったって感じかなー」

「そっかー。まさか雪ちゃんになびかない男子がいるなんて」

「なにそれ」

「だってだって、小学校の時も、中学校の時も雪ちゃんの事好きな男子なんてそりゃもういっぱいいたよ! それこそダース単位でさ」

「そうなの?」

「そうだよ! わたしが何度雪ちゃんに渡して欲しいって手紙を預かったことか。まぁ、雪ちゃんに直接渡す勇気もないような人の手紙なんて渡さないけどね」


 中学生の頃に何度か告白されたことはあったけどなぁ、まさかそんなにモテてとは知らなかった。っていうか鈴にそんな迷惑かけてたのか。


「ごめんね、まさか鈴ちゃんにそんな迷惑かけてたなんて」

「全然迷惑なんかじゃないよ! むしろ雪ちゃんに近づく男はわたしが全部見てやるんだから」


 なんでか知らないけど、鈴の奴は昔からオレに懐いてる。いや、懐いてるってのが正しいのかどうかはわかんねぇけどな。オレが他人との関わりに一線を引いてたなか、こいつだけがしつこく付きまとってきた。その結果こうして今も関係が続いてるわけだけどな。

 そんな鈴が突然、真面目な顔をしてこっちを見る。


「……ねぇ、雪ちゃん」

「何?」

「その気になる人ってさ、日向君だよね」


 やっぱり、というか知ってたか。そりゃそうだよな。調べるみたいなこと言ってたし、最近は学校でも結構露骨に晴彦に近づいたりしてたから。こいつが気付かないわけがない。


「……うん、そうだよ」

「やっぱりそうなんだ。じゃあライバルは幼馴染の朝道さんと生徒会長の昼ヶ谷先輩ってところかな」

「鈴ちゃんってそういう情報調べるのだけはホント早いよね」

「だけって言わないでよー。っていうか、雪ちゃんはもっと自分の知名度を知ったほうがいいよ」

「知名度って、普通の生徒なのに知名度も何もないじゃん」

「ちーがーうーの! 雪ちゃんも、それから朝道さんもだけど、入学当初から注目されてるんだよ? そんな二人が一人の男の子の近くにいたら噂にならないわけないよ。新聞部の人が、雪ちゃんと朝道さんと昼ヶ谷先輩が日向君を巡って四角関係になってるって記事書こうとしてたくらいなんだから」


 なんだそれ、それはさすがに初耳だぞ。っていうか新聞部、新聞部か。あんまりいい噂きかねぇしなー、あそこ。あんまり関わらないようにしてたんだけどまさかそんな記事書こうとしてたなんてな。


「まぁそれは生徒会が止めたみたいなんだけどね。さすがに現役生徒会長のスキャンダルみたいなの出すわけにいかないって」

「じゃあなんで鈴ちゃんそんなこと知ってるの?」

「新聞部に友達がいるんだけど、記事出せなかったーってぼやいてたから」


 正直出てなくてよかったと思う。出てたら面倒なことになってただろうしな。グッジョブ昼ヶ谷、とだけ言っとこう。


「まぁとにかくそれは置いといて。雪ちゃんはどうしたいの?」

「どうしたいって?」

「日向君のこと、諦めるのか、諦めないのか」


 オレが晴彦のことを諦める。それはつまり、晴彦とエンディングを迎える可能性がなくなるってことだ。そうなったら元の世界にも帰れない。そんなのは認めねぇ。


「諦めないよ」


 まっすぐ、鈴の目を見てそう伝える。


「……そっか。よし、わかったよ!」

「わかったって……何が?」

「私がサポートしてあげる!」

「えぇ!?」

「日向君が雪ちゃんのことを好きになるよう、全力で応援するね!」


 ふんす! と気合を入れる鈴。

 手助けって、こいつ何するつもりなんだよ。


「だからね、雪ちゃん。焦らなくていいんだよ」


 立ち上がった鈴が、オレの事をギュッと抱きしめてくる。


「雪ちゃんの傍には、わたしがいるから。雪ちゃんの願いは、わたしが叶えるから」


 鈴の体は暖かくて、さっきまでオレの中にあった焦りが溶けていくような気がした。


「雪ちゃんは雪ちゃんのままでいるのが、一番魅力的だよ」

 

 鈴のその言葉が、オレの中にストンとはまる。

 しばらくそのまま抱きしめられてたオレは、鈴のことを引き離すこともできず、されるがままになっていた。

 さっきまでの焦りはもうない。そうだ。簡単なことだったんだ。オレはオレとして晴彦に勝負をしかける。落として見せる。晴彦が朝道を意識しているだとか、そんなのは関係ねぇ。オレが、それ以上の魅力で晴彦を振り返らせてみせる。それだけのことだ。




「……あの、鈴ちゃん? アタシそろそろ戻らないとなんだけど」

「もうちょっとこのままで。あー、雪ちゃんいい匂いだよぉ、うぇへ、うぇへへへへへ」

「ちょっ、鈴ちゃん!? よだれ、よだれ垂れてる!」


 

 


久しぶりの登場鈴ちゃんでした。いつか鈴ちゃんの話も書いてみたいですね。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は10月15日21時を予定しています。

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