第53話 校外学習編19 お菓子作り
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
午前最後の授業が終わり、俺達は雫先輩達と合流していた。
「今日はペアにわかれて、お菓子作りをするわ!」
ババンというSEを田所先輩が後ろで流し、一ノ瀬先輩達が看板を掲げている。
「お菓子作り……ですか?」
「えぇ。このホテルの調理室を借りてるわ。ペアになったもの同士で作るものを話し合って作る。制限時間は三時間よ。何か質問はあるかしら?」
「あの、俺お菓子とか作ったことないんで、作り方とかわかんないんですけど」
「一応、お菓子レシピ本は人数分揃えてあるわ。それを渡すから、参考にするといいわ」
「でもそれだとさ、レイちゃんとかとペア組む人が有利にならない?」
「今回のお菓子作りは勝負じゃないわ。失敗しても構わない。ペアと協力して作るというのが目的だから、上手下手は関係ないわ」
「ふーん、そっか。じゃあいいかなー」
「それじゃあペア決めをしましょうか」
そういって先輩が取りだしたのはクジだった。
「今回は公平に、これでペアを決めるわ。さぁ、全員引いてちょうだい。同じ数字同士がペアよ」
クジを引くと、俺の引いた棒には『3』と書いてあった。
そしてもう一人『3』を引いていたのは、
「お、アタシはハルっちとペアだ!」
「雪さんとペアか」
「なに? いやなの?」
「いや、そういうわけじゃないって」
「あー、もしかして……アタシが料理できないと思ってる?」
思ってる。正直言うと全然できると思ってない。いや、何を知ってるってわけじゃないけど、なんでかできるイメージがない。
「……正直言うなら」
「ふふん。なら、ハルっちは大船に乗ったつもりでいるといいよ! そのイメージが間違いだってこと教えてあげる!」
自信満々に言う雪さんを俺は不安な気持ちで見ていた。
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他のペアは、零音と雫先輩、井上さんと双葉先輩、友澤と一ノ瀬先輩、山城と田所先輩、そして二宮先輩と三林先輩という感じになった。
調理室に移動した俺達は、ペアごとにわかれて作業を始めた。
「うーん……何作ろっか?」
「さっき雪さんは大船に乗ったつもりでって言ってたけど、お菓子とか作ったことあるの?」
「え? あるわけないじゃん」
あっけらかんと言う雪さん。あるわけないじゃんって。それなのにあんなに自信満々だったのか。その自信はいったいどこから湧いて来るんだ。
「そんな心配そうな顔しなくても大丈夫だって。自身持っていこう!」
「いや、うん、まぁそうだけどさ」
雪さんの言うこともわからなくはないんだけど、もっと慎重になるというか、謙虚さも大事じゃないだろうか。
それからしばらく雪さんと一緒にレシピ本を眺めていても、どれもこれも難しそうでちゃんと作れる気がしない。
「これは……難しいね。これとか何書いてあるか全然わかんないし」
さすがの雪さんも難しい顔をしている。
ふと他の所を見てみれば、もうほとんどの所が作り始めていた。
残り時間のこともあるし、あんまり決めるのに時間かけるわけにもいかないよな。
焼くようなものを作るならその時間も考慮しないといけないし、早く決めるにこしたことはないだろう。
「ねぇねぇハルっち。マカロンとかどうかな」
「マカロン?」
「うん。アタシ結構好きなんだよねー。この本にレシピも乗ってるみたいだしさ」
「でもマカロンって作るの難しいって聞いたんだけど」
「そうなの?」
「前に零音が作ってたことがあるんだけど、初心者が作るには難しいって言ってた気がする」
「ふーん、そっか。じゃあやめよう。簡単に作れそうなのあるかなーって、あ、これとかいいんじゃない?」
「これって……生チョコ?」
「そうそう、初心者向けって書いてるし、時間もかかんないみたいだしさ」
ざっとレシピに目を通す。
うん、これなら確かに俺達でも作れそう。
「いいと思う。これにしよう」
「よし、決まり! それじゃ始めよっか!」
そしてようやく準備を始める俺達。
生チョコを作るのに必要なのは、当たり前だけどチョコと、それから生クリーム、ココアパウダー……これだけだ。うん、ホントにシンプルだ。
「まずチョコ刻んだらいいのかな」
「みたいだな」
「よし、じゃあ一気に行くよ!」
まな板を取り出した雪さんがチョコをすごい勢いで刻んでいく。とんでもない勢いだ。用意したチョコがあっという間に全部切り刻まれる。
そこまでいったら次は刻んだチョコをボウルに入れて湯煎で溶かすと。お湯は用意してあるからそのまま入れたらいいかな。
「それで、次はどうするの?」
「えーと、雪さんが切ってる間に生クリーム温めといたから、この生クリームに刻んだチョコを入れたらいいかな」
「オッケー」
そのまま丁寧に、二つをクリーム状になるまで混ぜる。
そこまでできたら後はオーブンシートを引いた容器にいれて、表面を平らにして冷蔵庫に入れる。
「これでどれくら待つの?」
「えーと、一時間くらいかな」
「っていうか……終わったね」
「終わったな」
ここまでできたらもうほとんど完成だ。後は固まるまで待って、切り分けてココアパウダーをかけるだけ。確かに初心者向けって感じだ。お菓子作りを始めるにはうってつけかもしれない。
「どうしよっか」
「他の所はまだなんか作業してたりするし、大人しく待っとくしかないだろ。先に使い終わったの片付けよう」
「そうだねー」
使い終わったボウルや鍋、包丁なんかを片付けていると、雪さんがボウルに残っていたチョコを指ですくって舐めていた。
「……何してるの?」
「いやね、ちょっと余ってたからもったいないなーって思って。甘くて美味しいよ。ほら」
そう言って雪さんは指ですくったチョコを俺に差し出す。
……え? いやいやいや! まさかこれを舐めろと!?
できるわけない。女の子の指を舐める男とか、だいぶまずいだろ。
「舐めないの?」
「いや、さすがにそれはちょっと」
「んー、あ、そっか」
何を思い立ったのか、雪さんは指についていたチョコを自らの唇に塗る。
そして唇を俺に向けてくる。
「はい」
「はいじゃねーよ!」
さっきの指よりも状況悪化させるなよ!
恋人でもない人の……ってか万が一恋人でもそんなことはできない。
「ちぇ、意気地なし―」
「意気地なしで結構。それよりも雪さんも軽々しくそんなことしちゃダメだって。俺だからよかったけど、もし本気にする奴いたらどうするんだよ」
「アハハ! こんなことハルっち以外にするわけないじゃん」
「……なんで俺にはするんだよ」
「……わからない?」
「え?」
雪さんの雰囲気が唐突に変わる。
ゾッとするほどの妖艶な雰囲気を醸し出しながら、俺の方にグッと身を寄せてくる。その距離はほぼゼロだ。雪さんの胸が当たってるけど、それにすら気付かないほどに、俺をまっすぐ見つめる雪さんの碧眼に俺は捉われていた。
そして雪さんは俺の耳元で呟く。
「ハルっちになら、ほんとにされてもいいと思ってるからだよ」
「っ!?」
「ねぇ、ハルっち……したい?」
その真っすぐな瞳に捉われて、俺は……俺は……
「……二人はそんなにくっついて何してるのかな」
突如として割り込んできた第三者の声に、俺は慌てて雪さんから離れようとする。が、しかしなぜか雪さんが俺の腕を掴んで離さない。
「あれぇ、レイちゃんじゃん。どうしたの?」
「二人がくっついてるから、なんでかなーって思って」
「別に深い理由なんてないけど……理由がないとくっついちゃいけないの?」
「雪ちゃんも高校生の女の子なんだし、あんまり勘違いさせるような行動はしない方がいいよ」
「勘違いって?」
「それはほら、他の人がみたら恋人同士だと思われるかもしれないでしょ。だから、早く離れたほうがいいよ」
零音は笑顔で言ってるけど、なんでだろう。零音の笑顔から圧力を感じる。
「アタシはハルっちなら別にいいけど……もしかして嫉妬してるの?」
「別にそういうわけじゃないよ」
「…………」
「…………」
ジッと二人はお互いの目を見て離さない。
実際には数秒のことなんだろうが、間に挟まれる俺にとっては数分ほどに感じられる時間が経って、唐突に雪さんが俺の腕を話す。
「まぁいいかなー。ハルっちの困ってる姿見れて面白かったし……わかったこともあるしね」
雪さんが俺の腕から離れて、零音の放っていた圧力もようやくなくなる。
謎のプレッシャーから解放された俺は、人知れず安堵のため息を吐くのだった。
お菓子作り。生チョコって簡単に作れるからいいですよね。
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次回投稿は10月13日18時を予定しています。