第52話 校外学習編18 零音は悩む
書く時間をちゃんと決めてやるか、思いついた時に書くか……悩みます。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
午前の授業の間、晴彦の様子がどこか変だった。私が近づくとなんでか知らないけど視線を逸らすし、会話してても聞いてないわけじゃないけど、話を早めに切り上げようとする。
今晴彦は夕森と一緒に話してる。それを見る分にはいつも通りな感じだし……あ、また夕森が胸押し付けてる。そして晴彦が顔を赤くしてる。いい加減慣れろと言いたい。無茶だけど。そりゃ晴彦も男だ、だから夕森みたいな見た目は美少女な娘に胸を、それも大きな胸を押し付けられたら嬉しいだろうさ。ドキドキもするだろう。でも、頭では理解していても見てて気持ちのいいものじゃない。
まぁ今はそれは置いておくとして……私何かしたかな?
いや、昨日のこととか考えると完全に何かしてるんだけど。もしかしたらそれを気にしてたり……ありうる。でもどうしよう。
昨日、私が晴彦に怒って、周囲に人がいたのにあまりよろしくない暴言を吐いてしまった。そのことで晴彦を傷つけたから謝ったんだけど……そこで晴彦が調子に乗った。あろうことか私に嘘を吐いた。それは許されることじゃない。だからまぁ、久しぶりに本気で怒ったんだけど。
また晴彦に謝るのか? 怒りすぎてごめんって? それは論外だ。もう二度と同じことをされないためにも謝るわけにはいかない……まぁ、ちょっと可哀想だったかもしれないけどさ。
「どうかしたのか?」
「え、あ、山城君」
私がうーんと頭を悩ませていると、不意に山城君から声を掛けられた。
ちょっとびっくりした。山城君とはあんまり話したことなかったし。というか、こうして二人で話すのって初めてかもしれない。前に女子苦手みたいなこと言ってたし。
「何か悩んでるみたいだったから声を掛けたんだが……迷惑だったか?」
「そ、そんなことないよ! ちょっとびっくりしただけで」
「びっくり? なんでだ?」
「女の子苦手って言ってたし……その、声かけてくるタイプじゃないと思ってたから」
「ふ、まぁそうだな。だがなぜかは知らないが、朝道と夕森は女子という感じがしなくてな。いや、朝道が女子だというのは重々承知している。不快にさせたならすまない」
「ううん。そんなことないよ。むしろ普通に話せるならその方がいいしね」
前にも私達が女子とは感じないみたいなこと言ってたけど……別に気付いてるわけじゃなさそうだし、問題はないと思う。さすがに最初言われた時はびっくりしたけど。
「そう言ってもらえると助かる。それで話は戻すが、何か悩みでもあるのか?」
どうしよう、山城君に話してもいいかな……あ、でも山城君は昨日の夜、部屋に帰ってからの晴彦のことを知ってるわけだよね。それならその時に何か言ってなかったか聞いてみた方がいいかも。
「あ、あのね……ハル君のことなんだけど」
「日向の?」
「うん。なんか朝からよそよそしくて……私何かしちゃったかなーって考えてたの」
「ふむ……よそよそしい……か。珍しいな。日向が朝道のことを避けるとは考えづらいが」
「それでね、昨日一緒に部屋にいた時何か言ってなかった?」
「言ってたとは? 朝道のことをか?」
「うん」
「いや、特には……待てよ、もしかしてあれか?」
「っ!? 何か知ってるの?」
思わず立ち上がって山城君に詰め寄ってしまう。
「落ち着け、それと決まったわけでもないし。だが、もし俺の思っていることが原因だとするなら、朝道には教えるわけにはいかないな」
「え、そんな。どうして……」
「男同士の秘密というやつだな」
「むっ」
出た、男同士の秘密。俺も元の世界にいた時には友達と『男同士の秘密な!』的なこと言ってたりしたけどさ……実際にこうしてそれを理由にのけ者にされると結構腹が立つと言うか……文句言ってもしょうがないけどさ。
「そう嫉妬するな。男にも色々あるんだ」
「別に嫉妬なんか……」
「全然隠せてないぞ。朝道は日向のことになると途端にわかりやすくなるからな」
「えぇ! ホントに!?」
「あぁ」
なんてことだ。昨日風城先輩に『押してダメなら引いてみろ作戦』はわかりやすかったって言われたけど……でも、まさか普段からわかりやすいと思われてたなんて。
「気づいてないのは日向だけ……まぁあいつの場合しょうがないのかもしれないがな。それに関しては俺が言えたことでもない」
「? どういうこと?」
「いや、なんでもない。とにかく俺が想像している通りなら朝道が気にすることはないさ。今まで通りにしてたらいい」
「でも……」
「大丈夫だ。それとも、日向のことは信じられないか?」
「それは……ううん。信じる。私はハル君のことをずっと信じるって決めてるから」
山城君の言う通りだ。信じよう。
「そう決めたらなんか安心したかも。ありがとね、山城君」
「役に立てたならよかったよ」
そういって私の近くから離れていく山城君。
あんまり話したことなかったけど、思ったよりもずっといい人って感じだったな。
もっと堅苦しい人かと思ってたけどそういうわけでもなかったし。
「でもそっか、山城君の話を信じるなら私のせいじゃないのかな」
それがわかっただけでも一安心だ。
でもそうなると理由が気になるところだけど……あの様子じゃ山城君は教えてくれないだろうし。友澤にでも聞いてみようかな。友澤も同じ部屋だし。
晴彦のことは信じてる。でも、それとこれとは話が別だ。晴彦のことで知らないことがあるのはなんか嫌だし。
そう思って友澤の方に視線を向ける。
「あー、いや、あれはダメかな」
友澤は他の男子生徒達と話してる。あの集団に私が入るわけにもいかない。
今までの経験上、男子達がろくでもない視線を向けてくるのは間違いないし。普段離れててもそういう視線を向けてくるのに、自分から近づいたらなおの事だろう。
私は賢い女なのだ。自ら危険はおかさない。
晴彦に直接聞いても教えてくれないだろうしなー。今は諦めるしかないか。後でタイミングをみて晴彦や友澤に探りを入れてみよう。
この後はまた先輩達と合流しての行動だからそのタイミングはあるだろうし。
「それにしても、ホントに何が理由なんだろ」
朝の挙動不審な感じ……まるで男子中学生が近所のお姉さんと話すときにちょっと動揺するみたいな、気になる子に触られて驚いたみたいな、そんな感じ。でも、あれぐらいのことは今までもずっとしてきたわけだから、今さらそんなこと気にするわけ……いや、でもそういえば似たようなシーンがゲームでもあった気がする。
あれはそう、晴彦が『朝道零音』を幼なじみとしてではなく女性として意識するようになった時のシーンだったはず。あの時の晴彦も今みたいな感じだった気がする。
もしかして、私の事意識してる? 幼なじみじゃなく、異性として。
「なーんてね。そんなわけないか。あれはもっと終盤の出来事だし。今の段階でそこまでいってるとは思えないしね」
自分で言ってて悲しくなってきた。はぁ、私ももっと本格的に晴彦に攻略してもらえるようにしないと。完全に後手に回ってるし。
もし今の晴彦が私のことを異性として意識していたら……なんて、考えるだけ無駄だけど、もし本当にだったらどれだけ良かったか。そうじゃないのがちょっとだけ、ちょっとだけだけど、
「残念……かな」
夕森に絡まれてしどろもどろになっている晴彦を見ながら、私はポツリと呟いた。
補足するなら、山城は初めて話す女子が苦手というだけで、それなりに回数を重ねれば普通に話せるようになります。しかし、その大きな体躯のことなどもあって、女子達からは若干怖がられてたりします。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります!
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は10月11日21時を予定しています。