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第2話 自己紹介

皆さんは自己紹介って得意ですか?私は嫌いです。でも自己紹介が大事なのはわかります。自分のことを覚えてもらわないと関係も何も始まらないですからね。


「初めまして、日向晴彦です」


 まずは笑顔。そしてハキハキとわかりやすく話す。


「子供の頃からこの雨咲市に住んでいるので、このあたりのことは詳しいつもりです。おすすめの喫茶店なんかもあるので、もしよかったら聞いてください。趣味は特にこれといってありませんが、休みの日には自転車で遠出して写真を撮ったりすることもあれば、家でゲームしたりもします。何か面白いゲームを教えてくれると嬉しいです」


 自己紹介で語るべきは出身。この学校は遠方から来る生徒も多いので土地勘のある人というアピールは大事だ。そして趣味も一つに絞らない。アウトドアも好きだけどインドアなことも嫌いじゃないよということを伝えることで両方の人種から声を掛けられやすい、掛けやすい状況を作るのだ。


「この学園生活を充実させるために皆さんと仲良くなりたいです。どうぞよろしくお願いします」


 そして最後に意気込み。仲良くなりたいですと言い切るのが大事だ。弱気ではいけない。もっと時間があれば晴彦にもっとマシな意気込みを語らせることができたけど、今回は及第点だろう。

 自己紹介は長すぎてもいけない。1クラス40人。長く話しても覚えてもらえるわけじゃない。この自己紹介で大事なことは話しかけれる人だということを印象づけることなのだから。

 よし、なかなかいいんじゃないだろうか。

 晴彦が自己紹介を終えると、教室にいた人が拍手する。

 そう、今はクラスで自己紹介をしている。一人ずつ前にでて黒板の前で話す。慣れていなければしんどいだろう。

 ……ゲームの晴彦とは自己紹介がだいぶ変わってしまったのは、思わず教えることに熱が入ってしまった結果だ。まぁ、誤差だろう。誤差ということにしよう。


「はぁ、疲れた。これでよかったのか?」

「うんうん、よくできてたよ」

「それならいいけどさ。というか、俺おすすめの喫茶店なんかないぞ」

「あとで教えてあげるから、聞かれたらそこを教えてあげたらいいよ」


 嘘も方便。嘘も使いようだ。たとえ今嘘だったとしても、あとで本当に変えてしまえば嘘は嘘でなくなるわけだしね。

 今日の帰りに実際に喫茶店に連れていくとしよう。


「お前はすごい人気だったな」

「えーと……」


 私の苗字は『朝道』なので。自己紹介は必然的に一番最初になりやすい。今回もそうだったわけだけど。前に出た段階ですでにざわつきはじめていた。質問の時間は設けられてなかったはずなのに一人の男子が質問を飛ばしたのを皮切りに大量の質問をされて収集がつかなくなったほどだ。ゲームでも似たような展開はあったけど、ここまでだとは思ってなかった。

 担任の先生がおさめてくれなければもっと騒ぎは大きくなっていたかもしれない。そういえば担任の先生は昨日晴彦を保健室に運んでくれた先生だった。太田先生というらしい。


「おかげで次の子がすごくやりづらそうだったな。まぁお前のせいじゃないけどさ」

「うん、でも後で謝っておかないと」


 本当に。こればっかりは申し訳なかったと思う。ちゃんと謝ろう。

 そうこうしているうちに気付けば自己紹介は最後の方になっていた。そして前に立っているのは夕森だ。


「はーい、夕森雪でーす。雪でも、ユッキーでも好きに呼んでね。ちなみに、アタシのこの金髪は染めてるわけじゃなくて地毛だよ。この碧眼もカラコンとかじゃないから。アメリカと日本のハーフなの。でもでも、英語と全然話せないし、むしろ苦手だからさ。テスト前とみんな勉強教えてね! アタシ、クラスの皆と仲良くなりたいから、皆もアタシにガンガン話かけてきてね! アタシからも話しかけるからさ。それじゃみんなよろしくね!」


 夕森もまた私に負けず劣らずの美少女だ。男子はざわついていたが、先ほどの私の件があったからかそれほど騒がない。そんな男子の目線は彼女の大きな胸に固定されていたけれど。夕森は朝この教室に入ってきた時から緊張で固まっているクラスメイトに話しかけていた。さすがのコミュ力だ。

 ジッと夕森を見ていると、その視線に気づいたのか目が合う。そして挑発的な笑みを浮かべる。

 昨日からわかってたけど、彼女はそうとう好戦的らしい。できればもう少し隠して欲しいものだ。




 自己紹介が終わった後は部活動紹介なのだが、少しトラブルがあったらしく。空き時間ができてしまった。

 クラスの皆は自分の気の合う人に話しかけたり、携帯をいじったりと思い思いに過ごしている。

 私も誰かに話しかけようかな。


「おーい、ハルちゃん、レイちゃん。昨日ぶりー!」


 と、思っていたら先に夕森が近づいてきた。


「夕森さん。おはよう」

「おはよう」

「もー、固いなー二人とも。さっきも言ったでしょ。アタシのことは雪でいいよ」

「いや、さすがにいきなり名前呼びはきつい」

「えー、そうかな。レイちゃんは?」

「私はいいけど……じゃあ、雪ちゃんって呼ばせてもらっていい?」

「オッケー。全然いいよ! ほらハルちゃんもこんな感じでいいんだよ?」

「俺は遠慮しとくよ。あと、ハルちゃんはやめてくれ」

「えー、じゃあハルっちで!」

「あー、もうそれでいいよ」

「えー、なになに。何の話してんの? オレも混ぜてくれよ」


 私たちが話していると、一人の男子生徒が近寄ってくる。


「えーと、確か……友澤君?」

「お、もう覚えてくれたの! あらためて、友澤成男です。よろしく!」

「よろしくね」


 この男がさっきいの一番に質問を飛ばしてきたやつだ。ちなみに、こいつのことは知っている。ゲームにも出てきていたからな。いわゆる友人ポジションの男だ。噂好きだったり、いろんな女の子のデータを集めてたり、まぁそういう奴だ。


「んで、さっそく聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「う、うん。別にいいけど」

「朝道さんと日向って朝一緒に教室に入ってきたけど、どういう関係なの?」

「お前俺の名前も覚えてるのか」

「あったりまえよ! もうクラス全員の顔と名前は覚えたね」

「すげぇな」

「おれの数少ない特技だからな。それでそれで、聞かせてくれよ」

「ただの幼なじみだよ。家が隣だから昔から仲良くしてるんだ」

「幼なじみ! こんな美少女と? カーっ、人生の格差。格差だよこれは」

「そんな大仰なもんか?」

「当たり前だろ。お前知らないのか? 昨日の入学式の時から朝道さんと夕森さんとかは話題になってるんだぞ!」

「なんだそれ」


 昨日の今日で話題になるってどういうことだと言いたいけど、まぁ私も夕森も目立つのは目立つのでしょうがないかもしれない。


「ついでに聞くけど、夕森さんとは? 知ってる風だったけど」

「あー。まぁいろいろあってな」

「なんだよー。教えてくれよ。夕森さん、教えてくれ!」

「ダーメ、昨日のことはアタシ達にヒ・ミ・ツってやつだね」

「くっそー。まぁいいけどさ」


「おーいお前ら、準備できたから体育館に行くぞー」


 友澤を交えて四人で話していると、太田先生が教室に戻ってきた。

 そして私たちは話を切り上げて、体育館へと向かうのだった。




 この学園には多くの部活動がある。運動部も文化部も数えきれないほどあるのだ。今回の部活動紹介で出てくるのはある程度実績を残している部活だけだ。

 それ以外の部活は今日の放課後から勧誘が許可されているらしい。

 今回出てきたのは運動部が中心だ。

 野球部やサッカー部みたいなポピュラーな部活から、カバディのようなマイナーなものまでが舞台上で各々のパフォーマンスをしていた。

 ちなみに一番盛り上がったのはチア部のパフォーマンスだった。主に男子が食い入るように見つめていた。

 気持ちはわからなくもないけど、もう少し抑えたほうがいいと思うぞ男子よ。

 もしかして女子から見たら元の世界の私もこんな感じだったのだろうか。ふと横を見ると、夕森もなんとも言えない顔で熱狂する男子を見つめていた。

 全部の部活動紹介が終わった後、最後に生徒会の勧誘があった。


「私達生徒会は、一年生の方でも受けいれています。もし、生徒会に興味があるという方がいらっしゃるなら、ぜひ一度生徒会へ足を運んでください。お茶を用意して待っていますよ」


 壇上に立つのは生徒会長の昼ヶ谷雫。『アメノシルベ』のヒロインだ。やっぱり彼女もあの時いた人の一人なのだろうか。確認してみるべきかもしれない。

 生徒会長の挨拶で部活動紹介は終わった。その後、教室に戻り、明日からの連絡事項を聞いて解散となった。この後は部活をめぐるもよし、帰るもよしだ。


「それで、みんなはどうするんだ? ちなみにオレは軽音部に行ってみるつもりだ」

「うーん、俺はまだ何にもきめてないなぁ」

「私は部活に入るつもりはないかな」

「アタシも入らなーい」

「なんだよみんなもったいないなぁ。せっかくの高校生活なんだから入ったほうがいいぞ。朝道さんと夕森さんはチア部とかどうよ!」

「チア部はちょっと……」

「下心わかりやすすぎだね」

「残念。まぁ、見学くらいはしても損ないと思うし、やってみたら?」

「そうだな。ちょっとくらい見て帰るか」

「ハル君が行くなら私もいくよ」

「アタシもついてくー」

「オレも一緒に行きたいけど、もう別の奴と行く約束してるし。今回は諦めるわ。んじゃ、また明日なー!」

 

 言うやいなや走り去る友澤。なんともまぁ元気なことだ。


「それじゃあ私達も行こうか」

「どこから行くの? 案内の紙はあるけどさ」

「どうするハル君?」

「うーん、まぁとりあえず適当に見てみようか」


 ここまではほとんどゲーム通りだ。この後は晴彦の選ぶ選択肢にそって部活を見て回るわけだけど……ゲームだったら数個しか見れなかった。しかし今は現実でもある。ゲームでは見れなかった部活も見に行くことができるかもしれない。そう考えるとちょっと楽しみだ。入るつもりはないけどね。原作順守の考えでいくならば余計なものを見ない方がいいかもしれないけど。


「まぁ、とりあえず適当に歩きながら決めるか」

「そうだね」

「さんせー」


 そうして私達の部活動見学が始まった。

 


相手に興味を持つ。名前を覚える。関係を気付く上での基本ですよね。でもその基本が意外と難しいのだと思います。

次回は部活動の紹介の話です。もう一人のヒロインである。昼ヶ谷雫も出せたらいいなと思っております。

また次回もよろしくお願いします!


次回投稿は8月7日9時を予定しています。


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