第50話 校外学習編16 零音とめぐみ
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そしてなんとこの話で50話です! まぁ、プロローグと閑話入れるともう少し前なんですけどね。
これからも一生懸命頑張っていきます!
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「つーかーれーたー!」
「あ、夕森さん、ダメだよ。ちゃんと着替えないと」
部屋に入るなり、夕森がベットにダイブする。
確かに夕森は今日一番動いてたような気がするし、疲れてるのも無理はないだろうけど、だからって風呂にも入らずにベットダイブは止めて欲しい。まぁ、私のベットじゃないからいいけど……ってあれ、何気に一番いい場所のベットを確保された気がする。まさかそれが狙いか。
「えー、めんどくさーい。メグちゃん、着替えさせてー、お風呂入れて―」
「え、えぇ、無理だよ」
「じゃあもうアタシ動かない―。動けない―」
そう言ってジタバタと暴れる夕森。いや、そこでジタバタできる元気があるなら動けるし風呂に入って着替えられるだろうに。
はぁ、しょうがない。流石にホントにそのまま寝させるわけにもいかないし動かそう。
「雪ちゃん、そのまま寝ちゃダメ。ほら、お風呂場まで連れてってあげるからお風呂入ろ? そしたらすぐに寝れるから……ね?」
なんでこんな子供をあやすようなことを言わないとダメなのか。いや、今はあいつのことは大きな子供だと思って接しよう。
「うーん、そうだけどぉ。このベットがふかふかでアタシを離してくれないんだ」
「そんなこと言わないの。ほら起きて」
「あぁやめてー。アタシとベットを別れさせないでー」
ベットから無理やり離そうとすると夕森が抵抗しだした。あぁもうめんどくさいなー。そういうのは晴彦だけで十分なの。
「雪ちゃん、いい加減にしないと……怒るよ」
「うっ」
少し語気を強めて言うと、若干だが夕森の動きが硬直する。
お、これは効き目があったかな。意外だ。
っていうか井上さんまで青い顔をしてるのはなんでだろ。
「うーん、わかったよー」
やがてしぶしぶといった様子で動き出す夕森。
できるなら最初からそうしてくれと言いたいけどグッと我慢だ。
「うん。じゃあ先にお風呂入っちゃって」
「そうする」
そのままお風呂場まで向かっていく夕森。
そして残されるのは私と井上さんだ。
「…………」
「…………」
うぅ、ダメだ。若干気まずい。
別に何があったというわけじゃない。これは私の問題だ。
渓流釣りの時の、あの時の晴彦と井上さんの様子が頭から離れない。そして、風城先輩の言葉も。
『あの感じ……もしかしたらめぐみちゃんは脈ありかもねぇ』
『このまま付き合っちゃったりして』
思い出すたびに、心に黒い感情が蠢くのを感じる。これは良くないものだというのがわかる。だからそれを必死に押さえつける。
井上さんも私のそんな様子をなんとなく感じてるのか、夜ご飯の時から話しかけてこようとはするけど、どこか躊躇っているのを感じる。
井上さんは友達だ。大事な友達。だけど、頭の片隅で叫ぶのだ。私でない私が。あの女を、邪魔者を排除しろと。
そして私は、その言葉を完全に無視できていない。
でもダメだ。このままじゃダメだ。
私は意を決して井上さんに話しかける。
「……ねぇ井上さん」
「は、はひぃ!」
いきなり声をかけられたことに驚いたのか、井上さんがその場で飛び上がる。
あ、声を掛けたのはいいけど……話題が思いつかない。どうしよう。
「……井上さんって、本が好きなんだよね」
「え、あ、うん。そ、そうだよ」
「好きなジャンルの本とかあるの?」
「私は、なんでも読むけど……一番好きなのは恋愛……かな?」
「どうして?」
「私は恋愛なんてしたことないから。でもね、物語の中には素敵な恋物語で溢れてるの。その中の世界に私は憧れる。物語の中の素敵な恋に憧れる。ヒーローがいて、ヒロインがいて。キラキラと輝いてるあの世界に、私は魅了されたの。もちろん、恋愛だから色んな問題が起きたりするけど、彼らはそれを乗り越えるの、互いを思いやる気持ちを持って。そして幸せな結末を迎える」
好きなことだからか、途端に饒舌に語りだす井上さん。
ここまでいっぱい話してるのをみるのは初めてかも。
「ふふ、ホントに好きなんだね」
「うん! あ、ご、ごめんね。いっぱい話しちゃって」
「ううん。今の井上さん、すごく可愛かったよ。いつもそんな風に話したらいいのに」
「あぅ、それは無理だよー。夕森さんと朝道さんと話すのだってやっと慣れてきたところなのに」
「私そんなに話し辛い?」
「そ、そんなことないよ! 朝道さんは優しくて頭もよくて綺麗で私なんかとは雲泥の差があるのに、こんな私に話しかけてきてくれて、しかもしかもこんな私の友達にまでなってくれて、それで——」
「ストップストップ! わかったから」
さっきまでよりもすごい勢いでまくし立てるように喋る井上さん。目が、目が本気過ぎる。
いまだに何か話そうとしている井上さんの口を手で塞ぐ。
「十分伝わったよ。ごめんね、変なこと聞いて」
「いや、そんなそんな。朝道さんが謝らなくていいよ! 全部私が悪いんだから」
「それ、ダメだよ」
「え?」
「こんな私が、とか、私が悪い、とか……自分を貶めるようなこと言っちゃダメ」
「あ、ご、ごめ——」
「それもダメ。すぐに謝っちゃうの井上さんの悪い所だよ」
「う、うん。ごめ、じゃなかった。気を付けるね」
「うん、よろしい」
大丈夫、大丈夫だ。なんとか普通に話せてる。これがきっといつもの『私』だ。井上さんの友人である『私』だ。
それだけ意識していればいい。そしたらいつも通りの自分でいれるんだから。
そうして話していくうちに無くなってきた気まずさに、私は安堵する。
「わ、私ね学園に入った頃は、こうして誰かと仲良くなるなんて考えてもなかったの」
「どうして?」
「あんまり人と話すのも得意じゃなくて、中学生の頃もずっと一人だったから。何かを変えたくてこの学園に来たけど、結局何も変われなくて。だからね、ホントに朝道さんには感謝してるの。ありがとう」
そう言ってまっすぐな笑顔を向けてくる井上さん。でも私はその目をまっすぐ見れない。
「……ううん。感謝するのはこっちの方だよ。私も、井上さんが友達になってくれて嬉しいよ」
この感謝は本当。嘘偽りのない正直な気持ちだ。
だからこそ、
「井上さん、これからも『友達』でいてね」
「うん!」
私は、井上さんと友達でいれるように心から願った。
零音とめぐみ。この先二人が友達で居続けれるかどうか、それはまだ先の話なのです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は10月7日18時を予定しています。