第45話 校外学習編11 バトミントン大会決勝戦
ようやくバトミントン大会終わりましたー。思ってた以上に長くなったのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
決勝戦。雫・零音vs晴彦・双葉の試合。気づけば体育館にいた人たちがギャラリーとして観戦していた。
「ふふ、人も集まってきたわね」
「ほんとだねぇ~」
「あの、雫先輩。流石にこれは緊張するんですけど」
「私もこんなに見られながらやるのは初めてかも」
生徒会として前にでることの多い雫と双葉は周囲から寄せられる多くの視線を受けても全く気にしていなかった。しかし、晴彦と零音は違った。晴彦は人前に出ることはそう多くはないため、集まる視線の多さに若干の緊張を声に滲ませていた。零音もまたその容姿から視線を集めることは多かったが、そういった視線の多くはまじまじと見つめることはなく、盗み見るようなものであったので気にすることはなかった。気持ち悪いとは思っていたが。つまり、いつもと違う見られる感覚に零音も緊張していたのだ。
「このぐらいの視線にはすぐ慣れるわ。というか慣れなさい」
「そうそう。大丈夫だよぉ~。周りにいるのはぜぇ~んぶ犬だと思えばいいんだよぉ」
「いや、それはちょっと無理があります」
双葉の「犬」発言に周囲にいた男子の何人かと女子の一部が反応する。
「なら試合に集中しなさい。そしたら周りも見えなくなるわ。さぁ始めましょう」
じゃんけんの結果、サーブ権を晴彦達が取ることになった。
そしていよいよ、試合が始まる。
□■□■□■□■□■□■□■□■
「それじゃあいくよ~。え~い」
なんとも気の抜けそうな声と共に双葉がサーブを打つ。
「それっ」
「やっぱり俺の方に打ってきたか。でも甘いっ」
双葉のサーブを零音が晴彦に向かって打ち返す。利き手と反対の手でラケットを握る晴彦では満足に打ち返すのは難しい、そういう判断からだ。
しかし晴彦もただ漫然と試合を見ていたわけじゃない。一試合目が終わってからこれまでの間、僅かとはいえ練習し、普通に返せるぐらいにはなっていた。
「甘いのはそっちも同じでしょう」
返せるようになったとは言ってもそれは本当に返せるだけ。狙いをつけて返せるようなレベルではなかった。そしてそれを見逃す雫ではない。
「はっ!」
「くっ」
コースのギリギリを狙って打たれた羽根に晴彦は反応できない。
「あま~い、あま~い」
決まったと雫が確信したその時、そこに双葉が現れる。
「ボクのこと忘れちゃあだめだよ~」
双葉が返した羽根はネットをギリギリを超えて落ちる。後ろに下がっていた零音も、振り切ったままの雫も間に合わない。
「いぇ~い。ボクたちの先制だねぇ」
やったね、と晴彦とハイタッチする双葉。
周りで見ていた雪達も思った以上に速い双葉の動きに驚いていた。
「へぇ、あの先輩思ったよりも動けるんだね。びっくりした」
「双葉はあんな調子だから運動できないと思われがちだけど、スポーツとかかなり得意ね。普段はなかなかやる気を出さないけどね」
雪達が話している最中にも、スイッチの入った双葉が雫たちに猛攻をしかけていた。
「どんどんいくよ~」
さらにギアを上げていく双葉に、零音も雫も防戦一方になる。晴彦のミスなどもあって、点が取れていないわけではないが、徐々に点数に差が出始めていた。
「っ。 さすがにこのままじゃまずいわね」
「でも、私達じゃ先輩を止めれませんよ」
「そうね。今の双葉を止めるのは難しいわ」
それだけではない。双葉が点数を稼ぐうちに、晴彦も徐々に返し方に慣れてきていた。つまり、単純に言うなら雫と零音は追い詰められていた。
「そ~れっ」
双葉がここまで動けているのにも理由がある。雫の考えを読んでいるのだ。雫は意識的にも、無意識にも空いてるスペースや、相手の嫌がる場所に打とうとする。それを知っている双葉はあえてスペースを作ったり、隙を見せたりすることで打つ場所を誘導していたのだ。
「朝道さん、いったわよ」
「はいっ」
双葉の打った羽根を零音が返す。そしてsの羽根は偶然にも、ちょうど双葉と晴彦の間に落ちようとする。二人は揃ってそれを返そうとして——
「あ」
「あぶな——」
ドンッ。
勢いは止まらず二人はぶつかってしまう。
「ハルハル大丈夫~?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ならいいんだけどぉ。ちょっとどいてほしいなぁって」
「え?」
双葉に言われて晴彦は目を開ける。そして絶句する。
勢いよくぶつかった晴彦と双葉。晴彦は双葉に覆いかぶさるように押し倒していて、そのては思いっきり双葉の胸の上にあった。
さすがに双葉も、胸を触られれるのは恥ずかしかったのか顔を若干赤くしている。
さらに今は多くのギャラリーがいる。
「貴様ぁ! 双葉様に何をしている!」
「それはさすがに見過ごせないかなぁ」
「ダメっすよ!」
「日向ぁ、そこ変わりやがれ!」
「「「は?」」」
「すいません。冗談です」
特に一ノ瀬、二宮、三林からは殺気も混じった視線が向けられ、友澤は見当違いなことを言って三人に責められていた。
「すいませんすいません! すぐ退きます!」
慌てて飛び退く晴彦。晴彦と双葉の間にはなんとも言えない空気が漂っていた。
「まさかこんなことが起こるなんてね。流石に予想外だったわ」
「……そうですね」
「……朝道さん。あなた今すごく怖い顔してるわよ」
「そんなことありません。えぇ、私はいつも通りです」
まるで自分に言い聞かせるように零音は言う。しかしそれに反して、今の零音からは見た人が思わずビビッてしまうほどの黒いオーラを放っていた。
そして、仕切り直して試合が再開される。
そのラリーの途中、零音はいっそ怖いほど静かに晴彦に問いかける。
「ねぇ、ハル君」
「なんだ」
「なんで双葉の胸を触ったのかなぁ」
「さわっ……いや、あれは事故だって。見てたらわかるだろ!」
「ふーん。事故だったら女の子の胸を触ってもいいんだぁ」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「ハル君ってさ、昔からそういうこと多いよね。中学生の時も、雪ちゃんの時もそしてついに風城先輩まで」
零音の言葉を聞いて、ギャラリーの好感度がガンガン下がっていくのが晴彦の眼に映る。零音の精神攻撃によって集中を欠いた晴彦はどんどん追い詰められていく。
「私の胸には触ったことないくせに!」
え、問題そこなの? とギャラリーの心が一つになった瞬間である。
しかし、自分でも整理のつかない感情でいっぱいいっぱいになっている零音は自分の言っていることのおかしさに全く気付いていない。
「ハル君の変態!」
「うぐっ」
「スケベ!」
「はがっ」
「おっぱい魔神!!」
「んぐぅ!」
普段あまり言われない零音からの罵倒に、晴彦は多大なダメージを受け、その場に崩れ落ちる。見かねた双葉と雫が止めに入る。
「ちょ、ちょっと零音ちゃん。それ以上は止めてあげてほしいなぁ」
「そ、そうね。流石にちょっと可哀想だわ」
「え? あっ」
二人に止められてようやく零音は正気に戻る。しかし、時すでに遅し。晴彦は完全に意気消沈していた。顔を青くした零音が晴彦に駆け寄る。
「さすがにこれで試合は続けられないよねぇ」
「そうね」
「ごめんねハル君。ごめんね」
「…………」
必死に謝る零音と、落ち込む晴彦。
そんな二人を見て雫と双葉は試合を中止することを決める。
「まぁ、ボクは結構楽しめたし優勝はそっちでいいよぉ」
「あら、よかったの?」
「いいのいいのぉ。それにその方が面白い物見れそうだしねぇ」
こうしてバトミントン大会は雫・零音の優勝という形で幕を閉じた。
なんともあっけなく、そして一人の少年の心に傷を残して。
ちなみにその後、零音は謝り続け、晴彦の精神が回復したのはそれから一時間後のことだった。
優勝のご褒美がなんなのか。それは次の話でだそうと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントをしていただけると私の励みになります。
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は9月30日18時を予定しています。