第37話 校外学習編3 零音と双葉
作品のストックをためてる人ってすごいですよね。私もストックできるようになりたい。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
作品に関する疑問や質問なども受け付けておりますので、気になったことがあったらお聞きください。
これはしょうがないことなのだと私は自分に必死に言い聞かせていた。
「ねぇねぇ、零音ちゃんこのお菓子食べる~?」
「あ、いえ。大丈夫です」
「そっか~」
晴彦の隣を昼ヶ谷先輩に取られたのはしょうがない。それは私がゲームで負けたのが原因なんだから。でも……でもだからってどうして私の隣がよりにもよって風城先輩なのか。井上さんの隣に座ろうと思ってたのに、夕森が先に座ってるし。気づいたら空いてるのは風城先輩の隣だけだった。
この先輩と話したことがそんなにあるわけじゃないけど、あの風城先生の妹ってだけでちょっと苦手意識を持ってる自分がいる。
「…………」
「…………」
沈黙が辛い。ここだけ他から切り離されたように静かだ。でも何を話したらいいかもわからないし。
井上さんや夕森は楽しそうにお喋り中。
晴彦は……あ、目が合った。
助けろーという思いを込めて視線を送る。
しかし、その視線も空しく、晴彦は苦笑いして私から視線を外す。
私を見捨てたな。晴彦めぇ……今度何か困ってても助けてやらないからな。
「零音ちゃんさ~、なんか緊張してる?」
「いえ、そんなことはない……と思うんですけど、そういう風に見えますか?」
「見えるよぉ。ボク零音ちゃんになんかしたっけぇ?」
「先輩になにかされたわけじゃないんですけど……」
「あ、じゃあお姉ちゃんかぁ。なるほどねぇ」
「……すいません」
「別に謝る事ないよぉ」
ポリポリとお菓子を食べていた先輩が手を止めて、こちらをジッと見る。
うぅ、この感情の読み取れない目、先生と同じだ。どうしても苦手意識が拭えない。
「なるほどねぇ、お姉ちゃんの好きそうな顔してる。気に入られるわけだ」
「そう……ですか?」
「うん。ボクも好きな顔だしねぇ」
「えぇ!?」
「あぁ、勘違いしないでねぇ。ボクは女好きとかじゃないからぁ。恋愛対象はちゃんと男の子だよぉ」
「で、ですよね……安心しました」
これでもし双葉先輩まで風城先生と同じだったらどうしようかと思った。
「まぁでもだからさぁ。ハルハルとか結構いい人だよねぇ」
「え?」
「ボク結構ハルハルのこと好きだよぉ」
「でも、だって風城先輩はハル君とそんなに話したことあるわけじゃ……」
「確かにお昼休みに会長といた時に話したくらいだけどさぁ。でも、人が人を好きになるのに時間も理由もいらないよ。ボクはハルハルのことを気に入ったってだけだよぉ」
いきなりの言葉に、何て返したらいいかわからなくなる。
まさか風城先輩が晴彦のことを好きになるだなんて考えてもなかった。
「なぁんてね。冗談だよ」
「冗談?」
「確かに、ハルハルのことは気になってるけど、だからっていきなり好きにはならないよ」
「そう、ですか」
冗談、冗談か。良かった。
思わず安心して息を吐く。
しかし、先輩の次に行った一言に再び緊張が走る。
「でも、この先はわからないよぉ」
「……どういうことですか?」
「ボクが本当にハルハルのことを好きになるかもしれないってことだよぉ」
新しいお菓子の袋を開けながら先輩が言う。
その表情からは、それが本気で言ってるのかどうかの判断ができない。
先輩の眼は風城先生と同じように、私の心の奥深くを覗こうとしているようだった。
「それはきっとボクに限った話じゃないよぉ。ハルハルのことを好きになる人がきっと出てくるだろうねぇ」
先輩にそういわれて思い浮かんだのは井上さんの姿だった。
「零音ちゃんもハルハルのこと好きなんでしょ?」
「私は別に……ハル君は幼馴染で、それだけで……」
「ふーん、まぁ、なんでもいいけどねぇ。誰かに隣をとられてから後悔しても知らないよぉ」
「…………」
「あ、ごめんねぇ。ボク話すのがそんなに得意じゃないからぁ。怒っちゃった?」
「いえ、怒ってはないですけど……なんで今そんな話を?」
「んー? 理由なんかないよぉ。思ったから言っただけ」
「そう……ですか」
「零音ちゃんが何を考えてるかは知らないけどさぁ。会長もいつかは本気になるかもしれないよぉ」
そう言って先輩が指さしたのは晴彦の座っている方向。
ここからでは何を話しているかも聞こえないけど、楽しそうに話しているのはわかる。
「……あんなに楽しそうな会長見たことないからさぁ。案外、もう本気になってたりしてね」
そんなはずはない。昼ヶ谷先輩は、元の世界に帰るために晴彦に近づいてるだけだ。ホントに好きになるとか、ありえない。だって、私達は元々男で……だから、あれはきっと演技のはずだ。
「なぁんて、ごめんね。不安にさせちゃったかなぁ」
「私には……先輩がよくわかりません」
何を目的にこんな話をしてきているのか。それとも本当に思ったことを言ってるだけでなにも考えてないのか。先輩の表情からは何一つ読み取れない。
「先輩は、何を考えてるんですか」
「何も考えてないよぉ。頭使うの嫌いだし。理由なんてない。ただ、そうだなぁ……」
先輩がはっきりそれとわかる笑みを浮かべて言う。
「ボクはねぇ、面白いことが好きなんだぁ」
しかし、次の瞬間には普通の顔に戻って。またお菓子を食べ始める。
なんていうか、全然掴めない人だ。
「あぁ、いっぱい喋ったら疲れちゃった。零音ちゃんもどう? いっぱいあるから遠慮しなくていいよぉ」
「いえ、遠慮しま——って、先輩どれだけお菓子持ってきてるんですか!」
先輩の開いた鞄にはお菓子しか入ってなかった。教科書もノートも、筆箱すら見当たらない。
「えぇ? この鞄の中とぉ、あとはさっき預けたもう一つの鞄にもまだ入ってるよぉ」
「え、だって勉強道具とかいるんじゃないんですか?」
「あぁ、それは下僕が持ってくれてるからぁ。何食べよっかな~」
ガサガサと鞄を漁る先輩。この鞄だけでもそうとうな量があるのに、まだ他にもあるなんて……少なくとも二泊三日で食べる量じゃない。
「風城先輩はお菓子好きなんですね」
「好きだよぉ。お菓子はボクの生きがいだよぉ」
確かに、お菓子を食べてる先輩からは幸せオーラが漂っている。
でもだからって鞄の中いっぱいにするまでお菓子持ってくるなんて……自由過ぎる気がする。
「零音ちゃんもさぁ、お菓子食べてリラックスしなよぉ」
手に持ったスナック菓子を差し出してる。
リラックスできてないのは先輩のせいでもあるんですけど……まぁいいか。
先輩の言うことにも一理あるかもしれない。
これはきっと先輩なりの気遣いなのだろう。そう思うことにしよう。
「そう……ですね。じゃあ、ちょっとだけもらいます」
「どうぞどうぞ~」
そういえば、お菓子を食べるのも久しぶりな気がする。
自分で買うことはあんまりないし。
「あ、美味しい」
「でしょ~。お菓子は美味しいんだよぉ、偉大なんだよぉ」
えっへんと胸を張る先輩。
そんな先輩の姿を見ていると、さっきまで色々と考えていたのが馬鹿らしくなってくる。
「……フフ、なんで先輩が偉そうにするんですか」
「えぇ、ダメかなぁ。まぁいいや」
全然掴めない先輩だけど、悪い人ではない……のかな?
何考えてるかは全然わからないけど。
「あ、そだ。ポッキーゲームとかする?」
「しません」
「じゃあ、ハルハルにしてもら——」
「ダメです」
その後も、何かと話しかけてくる先輩の相手をしているうちに、気づけばホテルにたどり着いたのだった。
零音と双葉サイドの話でしたー。
双葉さんは特に深い考えがあるわじゃありませんが、面白そうで話を進める人なので、周りの人、特に田所さんなんかは苦労することが多いのです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は9月19日21時を予定しています。




