第36話 校外学習編2 名前で呼ぶことの難しさ
新しい短編を書きたい。できれば今月中に出したいですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
作品に関する疑問や質問なども受け付けておりますので、気になったことがあったらお聞きください。
バスの中はざわざわと喧騒に包まれていた。
朝が早かったからと寝ている人もいたけど、大体の人は一緒になった先輩と話していたり、友達と話している人がほとんどだった。
そして、俺の横には昼ヶ谷先輩が座っていた。
零音と双葉先輩。井上さんと雪さん。田所先輩と山城。そして、一番後ろの席に友澤達が座っている。
それぞれ隣になった人と喋ってたりするけど……なんか零音がさっきから助けてくれって感じの雰囲気を出してる気がする。
まぁ、双葉先輩マイペースだし。なによりあの風城先生の妹だからな。ちょっと苦手意識があるのかもしれない。
「……そんなに朝道さんが心配?」
大丈夫だろうかと零音の方を見ていると、隣に座っていた先輩が声を掛けてくる。
「それとも、私の隣は嫌だったかしら?」
「あ、いや、すいません。別に先輩の隣が嫌とか、そういうのはないです」
「そう? ならいいんだけど。さっきからずっと朝道さんばかり見てるから。朝道さんが隣だった方が良かったのかと思って」
「そういうわけじゃないですけど……なんていうか、さっきから零音が助けてって雰囲気出してる気がして」
「……あぁ、なるほど。朝道さんは双葉と一緒なのね。確かに、あの子の隣は苦労するでしょうね」
クスクスと笑いながら言う先輩。
俺も双葉先輩とは何回か話した程度だけど、あの人は本当に自由だ。先輩も苦労してるのかな。
「でも大丈夫よ。あんな風でも、ちゃんと先輩だから。あれでしっかりしている所もあるしね」
「そうなんですか? なら大丈夫……なのかな?」
「まぁ、あちらのことを気にしていてもしょうがないわ」
「……そうですね」
零音には悪いけど、双葉先輩も悪い人ってわけじゃないし、大丈夫だろう。
せっかくだし、俺も先輩といろいろと話しておこう。
「あの、先輩」
「なにかしら」
「この校外学習って、クラスごと……というか、班ごとにやることが違うんですか?」
「そうね。大きなスケジュールは一緒だけど、細かい行動は私達二年生が決めるのよ。午前中はそれぞれの授業があるけど、午後は班ごとね。勉強するもよし、川に行くも良し、そこは二年生の判断に任せられてるわ」
「へぇ、そうなんですね。でも、俺達の所空欄になってるんですけど何するんですか?」
「それは着いてからのお楽しみよ」
「そういわれるとすごく気になるんですけど……」
「フフ、期待しておきなさい。それよりも、せっかくだからあなたの話を聞かせてほしいわ」
「俺の話……ですか?」
「そう。中学生時代の話とかね」
「別にいいですけど。そんなに面白い話ないですよ?」
「それでもいいわ。あなた、ずっと朝道さんと一緒なのよね」
「そうですよ。俺は覚えてないですけど、赤ちゃんの頃から一緒だったみたいです」
「本当にずっと一緒なのね。でも中学生になったら朝道さんと一緒にいるのからかわれたりしなかったの?」
「まぁ、なかったわけじゃないですけど……」
言われて、中学生の時を思い出す。
確かに俺もすこし反抗期で、零音のおせっかいがすこし鬱陶しく感じたり、からかわれたりすることもあった。
特に零音はあの容姿と性格だったから人気も高くて、嫌がらせを受けることもあったし。
「でも……でも、なんていうか、零音ってあれで結構気が強いというか、強情なんですよ」
「?」
「中学生の時に、一度言ったんですよ。零音に迷惑かけたくないから距離を置こうって。別に家が隣同士ですぐに会えるんだから、学校まで一緒にいなくていいだろって」
今でも覚えてる。学校からの帰り道、思い切って言った俺に対して、零音が言った言葉を。
『私は迷惑だなんて思ってない。誰に何を言われても、ハル君と一緒にいたい。もしハル君が私といるのが恥ずかしいっていうなら、そんなことも考えなくなるくらいもっとずっと一緒にいる』
「その時言われたことが強烈で……そんなことは考えなくなりましたね。それに、それから少ししたら嫌がらせとかもなくなりましたし」
まぁ、そしたら今度は距離を置かれるようになったんだけどさ。話しかけてもどこかビクビクしてるっていうか……なんでだったんだろ。
「そう、意外ね。朝道さんってもっと穏やかな人だと思っていたのだけど」
「そう見えるだけですよ。あいつ怒るとすっごく怖いですし」
「人は見かけによらないものね」
「そういう先輩はどうなんですか? 中学生の時とか」
「私はつまらないものよ。毎日毎日同じことの繰り返し。特筆するようなことはなにもないわ」
「だから、よりゲームにハマっていったわけですか」
「そうだけど……そのことあんまり大きな声で言わないでちょうだい。優菜達だって知らないことなんだから」
「すいません。あ、でもそういえば先輩友達いるじゃないですか。双葉先輩も、田所先輩も友達でしょう?」
「まぁ確かにそうかもしれないけど……」
「けど?」
「か、勝手に友達にするわけにはいかないでしょう? 彼女達はあくまで生徒会役員だから一緒にいるだけで、それがなかったら一緒にいるかどうかもわからないし……それに」
あぁ、これはあれだ。めんどくさいやつだ。先輩、仕事はできるけど、対人はほんとにダメなんだな。だいぶこじらせてるやつだ。
まぁ、友達が少ない俺が言えたことじゃないかもしれないけどさ。
「そんなに難しく考えなくてもいいと思いますよ」
「……そうかしら?」
「きっと二人も先輩の事友達だと思ってますよ。なんだったら確認してみたらいいじゃないですか」
「そうだけど……でも……そうね。今度、聞いてみるわ」
「そうしましょう」
「でも、条件があるわ」
「条件?」
「その時はあなたも一緒にいて。ダメ……かしら?」
あ、ヤバい。ちょっとドキッとした。
不安そうにしてる先輩の上目遣いは普段とのギャップもあって破壊力がすごい。
「そう……ですね。わかりました」
「フフ、ありがとう」
少し安心した様子を見せる先輩。するとふと思い出したように言う。
「そういえば、さっきから思っていたことなのだけど」
「なんですか?」
「あなた、双葉のことは双葉先輩と呼ぶのね」
「え、あぁ、それは双葉先輩が風城先生と同じ苗字でややこしいから、名前で呼んで欲しいって言われて」
「ふーん……私は昼ヶ谷先輩のままなのに」
「え?」
「別に不満があるというわけじゃないけれど、双葉よりも私のほうが先に知り合ったわけだし、私達は友人同士でしょう?」
「そうですね」
「だったら、私のことも名前で呼んでもいいんじゃないかしら?」
「え、いや、それはちょっと」
さすがに昼ヶ谷先輩を下の名前で呼ぶのは抵抗があるというか、畏れ多いというか……そんなことが他の生徒に知れたら殺されそうだし。
「そう、嫌なのね」
「嫌ってわけじゃないですけど……遠慮したいです」
「それならしょうがないわ。悲しいけれどね。だからたとえこれから私があなたの秘密を暴露してしまったとしてもしょうがないことだわ。私は今悲しみに暮れているのだもの」
「それは勘弁してください!!」
まさかこんなところでそのことを持ち出してくるなんて……やっぱり秘密を教えたのは間違いだった。
「さて、どうしようかしら」
ちらりと先輩はこちらを見る。
先輩が何を言いたいかはわかってるけど……でも、うーん……いや、背に腹は代えられない。
秘密を守るためだ。
「えーと、じゃあ、その……やめてください雫先輩」
「そこまでいうならしょうがないわね!」
変わり身早っ!!
そんなに呼ばれたかったのか。
「これからずっとそう呼ぶことね。また戻したりしたらバラすわよ」
「わかりましたからそれはやめてください」
「フフ、冗談よ。でもそうね。なら私もなら私もあなたのことを晴彦と呼ばせてもらうわ」
「わかりました」
まだ若干恥ずかしさはあるけど……雫先輩も嬉しそうだし、良しとしよう。
「さぁそれじゃあ改めて、晴彦のことを色々と聞かせてもらいましょうか」
「えぇ! まだ話すんですか!?」
「当たり前じゃない。まだまだ時間はあるんだから」
それからホテルに着くまでの間、俺と雫先輩は昔の思い出話をしたり、好きなゲームの話をしたりして過ごしたのだった。
雫との距離が少し縮まったバス車内でした。
年上の人を名前で呼ぶのって少し躊躇しますよね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は9月17日18時を予定しています。