閑話 お弁当の悩み
お弁当の事を考えているときにふと思いついた話です。勢いで書いた話ですね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
作品に関する疑問や質問なども受け付けておりますので、気になったことがあったらお聞きください。
お弁当。
それは携帯する食糧である。
すぐに食べるのではなく、時間を置いてから食べることが前提とされているため冷めても美味しい物。またはいかに長い時間保温できるかということが重要になってくる。
日本国外においても『Bento』として普及し始めている。
学生であるならば、特に弁当と関わる機会は多いだろう。親が作るのか。はたまた自分で作るのか。人によってそれは変わるが、誰もが一度はお弁当のことで頭を悩ませたことがあるはずだ。
そしてここにも一人、お弁当で頭を悩ませる少女がいた。
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これは、高校に入学してから半月ほど経った時のこと。
「うーん……」
机の上に並べられた二十種類を超える容器を前に私は悩んでいた。
今まで私は中学生の時と同じ弁当箱で作っていた。しかし、最近になって晴彦にはそれでは足りないということに気付いてしまったのだ。
他でもない友澤の「日向お前弁当それで足りるの? 少なくね?」という言葉で。
今まで晴彦から何か言われたことは無いけど、もしかしたら内心そう思っているのかもしれない。いや、思っているはずだ。
私自身が食べる量が減っていたから完全に失念していた。
足りないのなら購買で買えばいいじゃないかと思うかもしれない。しかしそれは認められない。絶対に。
「私のお弁当で満足できないなんてことがあっちゃいけないんだから」
晴彦が口にするものはできるだけ私が作る。そう決めているのだ。
だからこそ今回、お弁当箱を新調することにした。
男子学生に必要な一食のカロリーは920kcal。
晴彦は他の人よりも多く食べると言うことは無いから、これを基準に考えていいはず。
そして、今までの弁当箱はステンレス製のものだった。長持ちすることや洗いやすさなどを前提に選んでいた。
でもせっかく変えるんだったらもっとこだわった方がいいと思う。少なくとも、昔の自分は超えていきたい。
私は常に過去の自分を超えていくのだ。
「味を求めるならヒノキの弁当箱がいいかもしれない。でも、保温に重きを置くなら魔法瓶系のお弁当箱……スープ系のものを持っていけるお弁当箱もあるけど、教室で広げることを考えたらそれは望ましくないし」
スープを持ち運べるようなタイプの弁当箱なら、それこそカレーでも持っていくことができる。でも、スープ系は匂いが強いものも多い。教室という密閉空間でそれはダメだろう。
「別に弁当箱を一つに絞ることは無いし、結局は内容次第なんだけどさ」
いつも作るお弁当は、全部手作りにしている。
冷凍食品は使わない。それが私自身が自分に課していることだ。元の世界では散々お世話になったけどさ。
「あ、そうだ。キャラ弁とか作ってみる? ……いや、ダメか」
キャラ弁は一度は作ってみたいけど、さすがに毎日になると大変だし。何より晴彦がそのお弁当を教室で広げることを考えたら可哀想だ。
「とりあえず、前よりも大きめの多段式のお弁当箱にしよう」
多段式のお弁当箱ならご飯とおかずを分けて、食材同士の色移りとか防げるし。
「よし、弁当箱は決めたし。次はおかずを決めよう」
パッと見て美味しそうなお弁当。それでいてしっかりと満足感を与えられるおかず。
前よりも大きくなった分、おかずもそれに比例して増やすべきだろうし。
とりあえず玉子焼きはそのまま継続でいいかな。あれは晴彦もお気に入りだし。
タコさんウインナー……はもう子供っぽいか。やめとこう。晴彦はお肉が好きだけど、だからといってそればっかりにしたら茶色い、見た目の悪いお弁当になっちゃうから種類は絞ろう。
唐揚げは定番といえば定番だし、入れようかな。余ったらお父さんにあげよう。
「野菜は……ポテトサラダとか作ろっかな。きんぴらごぼうとか、ブロッコリー。ミニトマトも定番でいいかも。今までザ・定番みたいなお弁当ってあんまり作ったことなかったし、たまにはいいよね」
今日は様子見だ。今日のお弁当の反応をこれからのお弁当の内容に反映していこう。
「よし、時間もないし早く作ろっかな」
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「よし、できたぁ!」
今までとサイズか変わったから作る量も少し変わって、ちょっと余りが出ちゃったのは悔しいけど……まぁこれから慣れていけばいいだろう。
「あらぁ、零音ちゃん。お弁当できたの?」
「あ、お母さん。おはよう」
「おはよう。それ、晴彦君のお弁当よね。弁当箱新しくしたの?」
「うん。もう中学生の時のじゃ少ないかなって」
「そうねぇ。男の子だし、いっぱい食べるものね」
「お腹空かせてたら午後の授業にも集中できないかもしれないし」
これだけの量があるなら晴彦も満足するはずだ。
甘めに味付けした玉子焼きに、唐揚げ、明太子の入ったポテトサラダ。きんぴらごぼう、ブロッコリー、プチトマト。今回、ご飯はいじらずにそのままだ。
「フフ、それだけあれば晴彦君も満足できそうねぇ」
「だといいんだけどね」
お母さんと話していると、お父さんも起きてきた。
「あぁ、なんだそれ。お弁当か?」
「見たらわかるでしょ」
「もしかして……晴彦君のか」
「そうだけど」
「そう、そうか……いや、もう納得したはずだろ俺……でも……うーん……晴彦君、まだ君にお義父さんと呼ばれる筋合いは……」
あ、またいつものが始まった。
お父さんはたまにこうしてトリップする。もう見慣れたけど。
「フフ、秋介さんも晴彦君のことは認めてるんだからいい加減諦めたらいいのに。まぁ、そこも可愛いんだけど」
また朝から惚気られた。
「お母さんもお弁当作りにきたの?」
「えぇ、そうよ。秋介さんのお弁当作らないといけないから」
「ちょっと余ってるのとかあるけど……使う?」
「いいわ。あれは零音ちゃんが晴彦君を想って作ったものだもの。私が使うわけにはいかないわ」
「やっぱりそうだよね。じゃああれは私の朝ごはんかなぁ」
もちろん本気で言ったわけじゃない。お母さんがそんなこと認めるわけないし。
お父さんの食べるものは全部自分が作るっていつも言ってるしね。だからお父さんは結婚して以来、外食を許されたことがないとかなんとか……まぁ、さすがに嘘だろうけど。でも確かに外食してるの見たことはないなぁ。私とお母さんで外食行くときはお父さんいないし。
「お、あれ零音が作ったもののあまりなのか。じゃあちょっと食べさせてくれよ」
「あ、ちょ、お父さ——」
「それ、どういうことかしら」
「ヒッ」
お父さんがひきつったような声を出す。
「もう私が作るご飯は食べれないってことかしらぁ」
「い、いいいいいいや、そういうわけじゃ」
顔面蒼白になりながら必死に弁明するお父さん。
ここにいたらまずい。
そう思った私はそそくさとお弁当を包む。
「あの、私ハル君の家に行ってくるね」
「ちょ、零音、助け——」
「秋介さん。まだ話は終わってないわよぉ」
「ひぃいいいいっ!」
助けを求めるお父さんを無視して家を出る。
ごめんねお父さん。成仏してください。
「ふぅ。ほんと、お父さんは不用心っていうか……お母さんが怒るのわかってるはずなのに」
晴彦の家に着いた私は手に持ったお弁当をジッと見る。
ただちょっと弁当箱を変えただけ。中身も大きく変わったわけじゃない。
でも、確実に変わったお弁当箱の大きさに、私達は成長しているんだと改めて実感する。
「晴彦……喜んでくれるかな」
ってそうじゃない。これは必要だからそうしただけだ。晴彦に喜んで欲しいとか、そんな思いはない。ないったらない。
お弁当箱を変えた理由をなんて説明するか考えながら、私は晴彦の家に入った。
お弁当は奥が深い。弁当箱だけでも考えることがいっぱいあるのです。
最近は冷凍食品で美味しいものとか多いですけどね。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は9月15日21時を予定しています。