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第30話 ゴールデンウィーク 雫 後編

書いてる途中にパソコンがフリーズすることの恐怖。ある意味お化けよりも怖いのです。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

作品に関する疑問や質問なども受け付けておりますので、気になったことがあったらお聞きください。

 凍ったように動けない俺と昼ヶ谷先輩。

 さきに動き出したのは俺だった。


「昼ヶ谷先輩……ですよね。っていうかそれ、ゲーム……ですか?」


 ぶつかった際に先輩が落とした袋からはゲームのパッケージが見えていた。

 俺が問いかけても、先輩は静止したまま動かない。

 しかし、それから数秒してハッとした様子で動き出した先輩は慌てたようにフードを被り直す。


「昼ヶ谷? ダレですかソレは。ワタシ知りまセーン」


 奇妙な片言で誤魔化そうとする先輩。

 

「いやいや、さっき俺の名前呼んだじゃないですか」

「っ! あ、あれは……そう、ヒーター、ヒーターくれと言ったんデス。最近は寒いデスからネ~」

「もうすぐ夏なんですけど」

「…………」

「あの、昼ヶ谷先輩ですよね」

「く、くぅうううっ」


 これ以上は誤魔化せないと思ったのか、先輩がフードを脱いでこちらに顔を向ける。

 その顔は怒りか羞恥か、真っ赤になっていた。


「殺しなさい」

「へ?」

「こんな恥辱は無いわ。殺された方がマシよ」

「なんでそうなるんですか!!」


 そんなことできるわけがない。

 いつもの先輩らしくないというか、なんというか。実はそうとう慌てているんだろうか。


「う、う、うわぁぁぁぁああん!!」


 すると先輩が今度は地面に座り込み、周りの目もはばからずに泣き始める。


「せっかく頑張って来たのに、バレないように気を付けてたのに。なんでお前ここにいるんだよーー!!」

「ちょっ、ちょっと先輩!」


 大声で泣きだした先輩に、それまで見て見ぬふりをしていた人たちも何事かといった様子で足を止める。中には隣にいる俺がなにかしたんじゃないかと呟いている声まであった。

 まずい、この状況は非常にまずい。


「せ、先輩とにかく立ってください」

「やーだー、もうやだー!」


 ダメだ、いつもの先輩が面影すらない。

 これじゃただの駄々っ子だ。

 でもこのままにしておくわけにもいかないし。


「しょうがない。先輩、失礼します!」


 座り込んだままの先輩の手を引いて無理やり立たせる。

 ぶつかった際に先輩が落としたゲームも回収する。

 これ以上注目されるわけにはいかない。

 俺は先輩の手を握ったまま走り出した。







□■□■□■□■□■□■□■□■


「……みっともない所を見せたわね」


俺と昼ヶ谷先輩は店を出て、近くの喫茶店へとやって来ていた。

その頃には先輩も落ち着いたようでいつもの雰囲気に戻っていたんだけど、さっきみた先輩の姿が衝撃的過ぎて頭から離れない。


「えっと……その……」

「さっき見たものは忘れないさい」

「え?」

「わ・す・れ・な・さ・い! いいわね!!」

「はい!」


 まだ若干顔が赤い先輩。よっぽど恥ずかしかったようだ。

 いやまぁ、確かにあの姿は……恥ずかしいかもしれない。


「……何を思い出しているのかしら」

「な、なにも思い出してなんていません!」


 キッと先輩に睨まれて思わず身が竦む。


「あのー、聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「何かしら」

「あの、これって先輩のですよね」


 俺が差し出したのはさっき拾ったゲームだ。確かに先輩が落としたはずだけど……記憶が正しければ先輩はゲームとかの娯楽はしたことがなかったはずなんだけど。


「そうだけど」

「確か先輩ってゲームとかは……」

「…………」

「……あの、先輩?」

「日向君。あなた酷い男ね」

「はい?」


 ゆっくりと紅茶を飲んだ先輩は、俺のことを指さしながらそう言う。

 なぜいきなりそんなことになるのか。


「私が隠したいと思っている事実を、その私の口から語れと言うのね。しかも話さなければそのゲームを返さないと」

「いや、別にそんなことはないですけど」

「女性の秘密を暴こうとするなんて……あなたはサド侯爵の生まれ変わりだわ」

「どこをどう聞いてそうなったんですか!」

「……まぁ、冗談だけれど」

「先輩が言うと冗談に聞こえないんですよ」

「あら、それは友達としてしっかり感じ取りなさい」


 あぁ、なんかいつもの先輩って感じだ。ちょっと安心した。


「まぁ、あらためて話すならそれは確かに私のゲームよ」

「やっぱりそうですよね。でも先輩ゲームしたことないんじゃ……」

「あれは建前よ。というより、父に対する見せかけかしら」

「父に対する見せかけ?」

「私の父は厳しいの。昼ヶ谷家の人間が娯楽にうつつを抜かすようなことがあってはならないと、子供の時から遊びは禁止されてきたわ。使用人達も私が娯楽は与えないように、私が興味を持たないようにと教育してきた」


 それはつらい。少なくとも、俺には耐えられそうにない生活だ。


「でも、私は昔からずっとゲームや漫画が好きだったの」

「禁止されたんじゃないんですか?」

「おじい様がね、父に黙って読ませてくれたり、ゲームをやらせてくれたの。その頃から私はゲームの虜になったわ。それからずっと続けてるのよ。部屋には隠す場所があったしね」

「じゃあ先輩はゲームとか好きなんですね」

「えぇそうね。時間があればしているわ。むしろ無理やり時間を作ってゲームをしているわ。休みの日には十時間以上ゲームに費やすこともあるくらいね」

「それ……そうとうですよね。っていうか、他に知ってる方はいるんですか?」

「このことを知ってるのはおじい様と使用人の奏だけね」

「あー、そうだったんですね」

「だからいつもなら奏にゲームを買いに行ってもらってたんだけど、今日は休みでいなかったのよ。それでもずっと楽しみにしてたゲームの発売日だから、こうして目立たない格好をして、私が直接買いに来たの」

「あのー、先輩」

「なにかしら」

「その恰好、めちゃくちゃ目立ってました」

「え?」

「周りの人もジロジロ見てたりしたんですけど……気付きませんでしたか?」

「そんな……私の完璧な変装が……これなら絶対に見つからないと思ったのに」


 思った以上にショックを受けている先輩。どうやら本気で目立ってないと思っていたようだ。

 でもさすがに全身黒ずくめはない。いくらなんでも目立つ。

 なんていうか、今日は先輩の意外な一面をよく知る日だ。思ったより子供っぽかったり、意外と抜けてたり、実はゲーム好きだったり。


「ま、まぁそれはもういいわ。それよりも問題はあなたよ」

「え、俺ですか?」

「私の秘密を知ってしまった以上、ただでは帰せないわ」

「えぇ!!」

「当たり前でしょう。あなたが誰に言いふらすかわからないじゃない」

「そんなことしませんよ!」

「友人であるあなたの言葉は信じたいけれど……そうね。じゃあこうしましょう。私の秘密を知ったのだから、あなたの秘密を教えて頂戴」

「俺の秘密を……ですか」


 正直そんなことはしたくない。でも先輩の目は本気だ。本気で俺の秘密を聞き出そうとしている。


「あなたにだって、朝道さんにも言ってない秘密の一つや二つ、あるでしょう?」


 それは確かに、ないわけじゃない。でも秘密は隠したいから秘密なんだ。言いたくない……けど、先輩は嘘もごまかしも許さないといった様子だ。


「もし話したくないのなら……残念だけれど、あなたを社会的に葬り去ることになるわ」

「あぁもうわかりました! 話します!」


 そして俺は根ほり葉ほりと、色々なことを聞き出された。できれば墓場まで持っていきたかったような秘密までも……うぅ、なんでこんなことになったのか。


「まぁ、これくらいで勘弁してあげるわ。嘘はないようだし」

「嘘なんかつきませんよ」

「これで私とあなたは運命共同体ということね。あぁ、今さらながらにして思えばこういうのも友人同士という感じがしないかしら。秘密の共有をしたわけだし。また一つ私とあなたは友人としての段階を登ったというわけね」

「……そうですね」


 もはや反論する気にすらならない。

 この短時間で体力をごっそり持っていかれた気がする。

 というか待てよ、先輩の秘密をバラそうものなら俺の秘密がバラされるわけだけど……そもそもの話。先輩が実はゲーム好きだ、漫画好きだと言ったところで信じる人がどれほどいるんだろうか。俺と先輩では人望の差が歴然だというのに。

 これってほとんど、俺の秘密が一方的に握られたようなものじゃないか。


「あぁ、どうなることかと思ったけれど、今日はいい日になったわ。これからもよろしくね、日向君」

「……はい」


 笑顔で言ってきた先輩に対して、俺は頷くしかなかった。


想定外のことに焦った雫さん。普段冷静であろうとする人ほど、想定外には弱かったりするのです。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

もし気に入っていただけたならブックマークよろしくお願いします! 私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は9月9日9時を予定しています。

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