第28話 ゴールデンウィーク 雪 後編
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「ここがアタシの部屋だよ」
雪さんの家に入った俺は、そのまま雪さんの部屋に案内されていた。
「お邪魔しまーす……」
「ハルっちなんか緊張してる?」
「いやさ、よく考えたら零音以外の女子の部屋に入るのって初めてだと思ってさ」
「え、そうなの?」
「それに最近は零音の部屋にも行ってないし……そう思ったら途端に緊張してさ」
「そうなんだー。でもゴメンね、女子らしい部屋じゃなくて」
確かに、雪さんの部屋は思ったよりも物が少ない。
なんていうか、言い方は悪いけどもっと物が多いイメージだった。
でも実際は、勉強机とタンスと本棚とベット……すごく質素って感じだ。
「アタシあんまり趣味とかないからさ、もの買ったりしないんだよね」
「へぇ、なんか意外だな」
「やっぱりそう思う?」
「雪さんって多趣味なイメージだったから」
「逆だよ。趣味がないから色んなことしてるの」
「そうなんだ」
いつも色んなことをしてるし、楽しいこととか好きみたいだから趣味も多いかと思ってたけどそういうわけじゃないのか。
「そうだ。飲み物とってくるね」
「あ、うん」
雪さんが部屋から出ていき、一人残される。
「…………」
気まずい。というか、さっきも緊張してたけど、この部屋で雪さんがいつも過ごしてると思うと……ダメだ。余計なことは考えないようにしよう。
そう思った瞬間、久しぶりに目に電流が走るような感じがして、思わず目を閉じる。
「うっ」
目を開けると、そこには案の定というか、選択肢が浮かんでいた。
『大人しくなんて待てない、下着のありそうなタンスを漁ろう』
『あのベットにいつも雪さんが寝てるのか、匂いを嗅いでみよう』
『大人しくする……と見せかけて、クローゼットの中を覗いてみよう』
な、なんだこの選択肢。頭のおかしい変態的なものしかない。
どれも選べるわけないだろ!
しかし、どれだけ待っても選択肢が消える気配はない。
「……どれか選べってのかよ」
まだ雪さんが戻ってくる様子はない。
……どれだ。どの選択肢なら一番ダメージが少ない。いや、どれもアウトだけどさ。
下着は論外だ。もし見られたら社会的にも終わってしまう。ベットかクローゼットか……ベットの匂い嗅ぐって変態っぽいよな。それならまだクローゼットを覗く方が……うん、クローゼットにしよう。
意を決して立ち上がり、クローゼットの前に立つ。
「……どうか、戻ってきませんように」
思い切ってクローゼットを開く。
「ん、これって……トロフィー?」
クローゼットの中にあったのは、トロフィーや賞状だった。でも、どれも大事に置かれているといった風ではなく、箱の中に乱雑に放置されているといった様子だった。
こういうのって普通なら部屋に飾ってたりしそうなもんだけど……なんでだろうか。
雪さんの部屋の中ならいくらでも置く場所はありそうなのに。
「そういえば、一つの競技だけじゃないんだな」
水泳に、柔道、空手、テニス、ピアノなんかまである。しかもどれも一位だ。
「すごいな、これ」
つい興味をひかれて色々と見てしまったせいで、気づかなかった。
「みぃたぁなぁ……」
俺の後ろに、すでに雪さんが戻って来ていたことに。
「うわぁ!!」
思わず大声を上げ、クローゼットを閉める。
今さら遅いんだけどな。
「雪さん!」
「はーい、雪さんですよー。それで、ハルっちはなぁにしてるのかなー?」
いつもの笑顔のはずなのに迫力を感じる。
この状況で言い訳なんかできるはずもない。全面的に悪いのは俺だ。
選択肢のことなんて雪さんは知らないしな。
「えーと……その……クローゼットを見てました」
「どうして?」
「どうしてって言われると……興味があったから?」
「なんで疑問形なの」
「あの、ほんと、ごめんなさい」
とにかく俺にできるのは謝ることだけだ。それで許されるかどうかはわからないけど。謝り倒すしかない。
心を込めて頭を下げる。
「…………」
「…………」
「……はぁ、しょうがないなぁ。許してあげる」
「えっ」
「その代わり、また今度何かお願い聞いてもらうからね、覚悟しといてよ! 返事!」
「はい、わかりました!」
「うん、よろしい」
そうしてようやく雪さんがいつもの笑顔に戻る。
よかった、ホントによかった。
さすがに好感度が下がっただろうと思って目を向けると、そこには『23』のままの好感度が示されていた。
おかしい……のかな。それとも思ったより気にしてなかったのか……いや、まぁいいか。下がってないなら良しとしよう。
「まぁ、とにかく座って。飲み物持ってきたからさ」
「あぁ、ありがと」
「オレンジジュースでいいよね」
「うん」
クローゼットの中のこととか……聞いてみるか? 怒られた後で懲りてないと思われるかもしれないけど。うーん……よし、聞いてみよう。
「あの、聞きたいことがあるんだけどさ」
「ん、何?」
「クローゼットの中にトロフィーとか賞状とかいっぱいあったけど、なんで部屋に置かないの?」
「……あぁ、あれね」
聞いた瞬間、雪さんの表情が変わる。
「アタシには意味ないものだから」
「意味ない?」
「努力して取ったトロフィーなら嬉しいんだろうけどね」
「違うのか?」
「……アタシさ、スポーツとか得意なんだよ」
「それは知ってるけど」
「アタシは他人よりもずっと少ない練習時間で強くなれる。色んな事を覚えられる」
語る雪さんはクローゼットを開けて、トロフィーを一つ取り出す。
「一生懸命練習してた人を簡単に抜き去ってしまうアタシは、昔から色んな人に言われたよ。なんでお前なんかが、どうしてってさ」
「でもそれは雪さんが悪いわけじゃ」
「理屈じゃないんだよ、人の心はね」
「……でも、じゃあどうして大会に出るんだ?」
聞く限り、あまりいい思い出があるわけでもなさそうだし、それなら出る必要もないと思うんだけど。
「……見せたい人がいるからかな」
「え?」
「こんなアタシでも、頑張ったって、すごいって言ってくれる人がいたから」
ここではないどこかを見て言ってるような雪さん。
「雪さん?」
「……ごめんね! 変な話しちゃって。それよりも——」
「俺は……俺は、雪さんはすごいと思うよ」
雪さんの抱えてる思いは俺にはわからない。だから、こんな安易な言葉はかけるべきじゃないのかもしれないけど、それでも伝えるべきだと思ったから。
「確かに、雪さんはスポーツが得意なのかもしれない。でも、きっとそれだけじゃ一位はとれないと思うんだ」
いくら才能があっても、強かったとしても、意志を貫く強さがないと一位をとり続けることはできないはずだから。
「雪さんの見せたい人ってのが誰かは俺にはわからないけど、その人のために一位をとりつづけられる意志の強さは本物だよ」
「……ありがと」
雪さんが顔を赤くして俯く。
まぁ、俺も柄にもないこといって恥ずかしくなってんだけどさ。
「と、とにかく! アタシの話はもういいの。それよりもハルっちのことでしょ」
「俺のことって?」
「結局ハルっちの悩みは解決してないわけじゃん」
「それはまぁそうだけどさ」
「だからさ、今日はその話をしようと思って家に呼んだの」
「えーと、何か考えがあるの?」
「まぁ、レイちゃんと同じ考えにはなるんだけど……」
「え、それってもしかして」
「うん、アタシがハルっちの彼女になってあげる」
「いや、だからそれじゃ意味かもしれないんだって。雪さん、俺のこと好きなわけじゃないでしょ」
「うん。そうだね」
うぐ、はっきり言われるとちょっと辛いものがあるけど……まぁ、事実だからしょうがないだろう。
「でもそれは今はまだ、だよ」
「え?」
「アタシは、これからハルっちのことを好きになってみせる。だからハルっちもアタシのことを好きになってよ」
「いや、いやいやいやいや! なんでそうなるんだよ!」
「嫌なの?」
「いやというか、え、だって、雪さんはいいの?」
確かに、雪さんが本気で俺のことを好きになって、俺も雪さんのことを好きになったら問題ないのかもしれない。
でも、俺の問題を解決するためだけにそこまでしてもらうのはダメだろ。
「アタシにもメリットはあるしね」
「メリット?」
「彼氏がいるっていったら他の男に言い寄られないでしょ。アタシ、誰とも付き合う気なかったし」
「だからって」
「……じゃあこうしよう。アタシはこれからハルっちがアタシのことを好きになるように努力する」
「……なんでそこまで」
俺の悩みを解決するためってだけじゃない気がする。それならそこまでする理由もないだろうし。
「まぁ、理由はいろいろあるけどさ。ハルっちにとっても悪い話じゃないでしょ」
俺が雪さんを好きになる。雪さんに俺を好きになってもらう。
もしそれができるなら、確かに悪い話じゃないかもしれない。
でもなんでだろうか、零音の顔が浮かぶのは。
「まぁ、すぐに答えてとは言わないけどさ」
「……ごめん」
「いいよ、気にしなくて。でも覚悟しといてよねハルっち」
ニヤリと笑って雪さんが言う。
「絶対に、アタシのこと意識させてみせるから」
その日、俺が雪さんのアタックに悩まされたのはまた別の話だ。
全力アタック系雪ちゃん。
押して押して押しまくれの精神ですね。
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次回投稿は9月6日21時を予定しています。