第175話 彼の隣にいるべきは
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零音の部屋から帰る途中、雷華はずっと零音の言葉を頭の中で反芻し続けていた。
雷華が零音に晴彦のことを好きかと聞いた時。零音は迷うことなく答えた。
『うん、そうだね。好き、大好きだよ』
雷華に与えられた使命は、姉である霞美ができなかった晴彦に恋人を作るということ。
そのために晴彦の恋人候補となる人物に接触してきた。零音、雫、雪、めぐみ、そして姫愛。他にも可能性を感じさせる人はいたものの、雷華と雷茅の二人が目をつけたのはこの五人だった。
後は選んだ候補達と晴彦の間に様々なイベントを発生させ、心理的な距離を近づける。あるいは強制的に関係を持たせる。それで雷華と雷茅に与えられた使命は完遂できると二人は考えていた。
それが正しいはずだった。しかし、ここに来て雷華の心に迷いが生じ始めていた。
恋とはなんなのかという、人であれば誰でも抱く様な至極当然の疑問。
だがその恋の意味を雷華と雷茅は知らなかった。
人を愛するということの意味を。人を愛おしく思うということを。
愛とは実に様々だ。友愛、親愛、恵愛、仁愛、寵愛、博愛……言葉にすれば数多存在する。
しかし誰かを愛するということを知らない雷華は、その意味を実感として知ることは無かった。
だからこそ気になった。興味を持った。零音があまりにもまっすぐに晴彦のことを好きだと言ったから。
その気持ちはいったいなぜ生まれたのだろうかと。
「愛って……なに?」
愛とは何かという問い。しかし、誰に聞いた所で雷華の求める答えを得ることはできないだろう。それは他者から教えられるものではなく自身の経験として知るべきことなのだから。
雷華は雷茅と共に明日以降、様々な手出しをする予定だった。それは零音だけではない。晴彦と恋人になる可能性を持つ者全員に対して。
そうすることでより多くの可能性を生み出せると考えたから。
「晴彦に恋人を作る。それが私達の使命。果たすべきこと。それが私達の存在意義。でも……」
雷華は思わず想像してしまった。
晴彦の隣に零音以外の誰かがいるところを。そしてその時に零音がどんな反応をするかということを。
「…………」
少し考えればわかることだ。零音は確実に悲しむだろう。
晴彦の隣に自分以外の誰かがいるという事実に。そのことを想像した瞬間、雷華は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
雷華自身に理由はわからない。しかし、なぜかこの時雷華は零音は晴彦の隣にいるべきだと思ったのだ。それが一番いいのだと。
なぜ他の誰かではなく零音なのか。その理由は雷華自身も理解はできていない。それが他ならぬ感情の萌芽であることも。
「零音が晴彦と一緒にいるには……どうしたらいいのかな」
雷華は考えを巡らせる。どうすれば零音と晴彦を恋人にすることができるのかと。
「あぁ、そっか」
そして雷華は一つの結論にたどり着く。
普通の人であればたどり着くことのない、たどり着いてはいけない結論に。
「他の人を……邪魔者を晴彦から遠ざければいい。排除しちゃえばいいんだ」
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