第174話 たとえ誰に聞かれても
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バルコニーで物思いに耽っていた零音。気付けばその後ろに雷華がやって来ていた。
「雷華ちゃん? どうしたの急に」
「なんとなく来た。気になったから」
「私のことが?」
「ん」
こくりと頷く雷華。零音の何が気になってきたのかはわからなかったものの、零音としては別段雷華の来訪を断る理由はない。
「とにかく座って。紅茶飲めたっけ?」
「大丈夫」
バルコニーから部屋の中に戻った零音は手早く紅茶の用意をする。ホテルの部屋の中には紅茶だけでなく茶菓子まで様々な種類が完備してあった。
あまりの種類の豊富さに、思わず少しくらいなら持って帰ってもバレないのではないかと思ったほどだ。
「どうぞ」
「ありがと」
「熱いかもしれないから気を付けてね。あとこれお茶菓子。クッキーとマドレーヌ。好きなの食べて」
零音がお菓子を勧めると、まずはクッキーに手を伸ばして食べ始める零音。ハムスターのようにモソモソと食べるそのなんとも言えない愛らしい姿に零音は思わず相貌を緩ませる。
「あ、ほら頬っぺたにクズついちゃってる。とってあげるからジッとして」
「むぅ……」
「よし取れた。まだたくさんあるみたいだから、食べたかったら言ってね」
「もう大丈夫」
小さな子供のような雷華を見て零音は庇護欲のようなものに駆られる。
(私に子供が生まれたらこんな感じになるのかな。子供……子供か)
空想に過ぎないとわかっていながら、それでも思わず想像してしまう。そしてもちろん零音が相手として想像するのは晴彦だ。
(私と晴彦が結婚して子供が生まれたらどんな子になるかな。活発な子になるか、大人しい子になるか……優しい子になってくれたらいいなって思うけど)
「零音? どうしたの?」
「っ、あぁごめんごめん。ちょっと考え事しちゃってた」
晴彦との未来を夢想して思わず黙ってしまっていた零音を雷華の声が現実に引き戻す。
「……ねぇ零音。なにかあったの?」
「なにかって?」
「だってさっきからずっと何か考えてる」
「あー……別に大したことじゃないんだけどね。ごめんね。そういえば雷茅ちゃんは?」
「雷茅は部屋にいる。お腹いっぱい食べたからって」
「あぁ、そういえば……」
夕食の時、雷茅がこれでもかというほどたくさん皿の上に料理を乗せていた思い出す。双子である雷華の分も乗せてあるのかと思っていた零音だったが、あれが雷茅一人の分であったということを知って苦笑する。
「お腹いっぱい過ぎて動けないって」
「あれだけ食べればさすがにねぇ。というか、あの体のどこにあれだけ入ってたんだろう」
「雷茅たまにいっぱい食べるから」
「いっぱいなんて量じゃ無い気もするけど。それで暇だったから私のところに来たの?」
「ん」
「そっかそっか。って言ってもなぁ。この部屋に遊べるようなものは……チェス、オセロ……ちょっと難しいのが多いかな。気軽にできるものはあんまいないかな」
「別に遊んで欲しくて来たわけじゃない」
「そうなの?」
「……ずっと気になってた。零音がたまに暗い顔してるから」
「え?」
「姫愛と一緒に居る時。零音、たまに暗い顔してた。それが気になったの。どうして?」
「それは……」
零音と姫愛の間にあったことを雷華にそのまま伝えるわけにはいかない。それも一言で簡単に言えるようなことでもない。
それよりも零音にとっては雷華に気づかれていたというのが驚きだった。
「うーん、説明するのはちょっと難しいというか……でも大丈夫だよ」
「……じゃあ最後にもう一つだけ聞きたい」
「なに?」
「晴彦のこと、好き?」
「うん、そうだね。好き、大好きだよ」
迷いなく零音は答える。その質問だけは答えが揺るがない。たとえ誰に聞かれても零音は同じように返すだろう。
「そっか。そうなんだ……なら私は……うん……」
「雷華ちゃん?」
「なんでもない。紅茶美味しかった。ありがと」
「あ、うん。もう戻るの?」
「雷茅をずっと一人にしておけないから。また明日」
何かに納得してから立ち上がった雷華は呆気にとられる零音を置いて、そのまま部屋を出て行くのだった。
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