第173話 複雑な想い
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「…………」
零音は部屋で一人、外の様子を眺める。驚くほど綺麗で大きな月と波の穏やかな海が見える。いつもの零音の部屋の窓から見える景色とはまるで違う。
「綺麗……」
ポツリに呟く。先ほどまでみんなと一緒に居たせいか、一人の静けさがなおのこと寂しく感じる。
零音は月と海をより近くで見ようとバルコニーへ出る。
「風が気持ちいい。それに、海の匂い。ふふ、先輩にはあらためて感謝しないと」
普段は海に近づくようなことはほとんどない。そもそも零音は水着を着るのがあまり好きではなかった。もちろん晴彦のためならば喜んで着るのだが、晴彦以外の男にジロジロと見られるのが嫌だったのだ。
だからこんな機会でもなければいつ海に来たかわからない。
「……ふぅ」
海を眺めながらため息をつく零音。その胸中に渦巻く想いは様々だ。
しかし、なによりも一番零音の心を占めているのは姫愛のことだ。姫愛のことを見るたびに、過去の己の行いを突きつけられる気分になる。
どうしてあんなことをしてしまったのか、なぜあそこまで躊躇なく突き放せたのか。理由はわかっている。零音の心の中にあった醜い嫉妬心。それが理由だと。
もちろん今となっては間違ったことをしたとわかっている。しかし、後悔しているのかと問われればそれは怪しかった。
あの時の零音は姫愛への友情と晴彦への想いを天秤にかけ、晴彦選んだ。ただそれだけなのだ。根本にあるその想いだけは変わらない。
もし今の零音があの時に戻ることができたとして、姫愛に何もしないかと問われればそんなことはないだろう。今の雫や雪にしているように、必ず邪魔をしたはずだ。
晴彦のことを好きだと言われて、素直に『はいそうですか』と受け入れるのは難しい。今もそれは変わらない。
しかし過去の己の行動は間違いなく零音の中で姫愛への負い目となっている。
それもあって、零音は姫愛に対して思うように接することができないのだ。今もまだ変わり切れていない自分が姫愛に過去のわだかまりを捨てて仲良くしようなどと言えるわけもなく。もし仮に姫愛が過去のわだかまりを捨てれたとしても、零音自身はそんな過去の己を許すことができない。
それが現実だ。
「もう一度仲良く……そんなのは夢でしかない。でも、一言謝りたい」
そんな自分の言葉を零音は自嘲する。
(私は今さら何を言って……謝ったからどうなるってわけでもないのに。謝りたいのは単純に私が楽になりたいから。謝ったって事実が欲しいだけ。私が謝っても、過去が無くなるわけじゃないし、東雲さんに与えた傷はそんな程度じゃ癒せない)
どこまでいっても自分のことしか考えれていないと、零音は己の未熟さと感じる。
(晴彦のことを諦めるなんて選択肢はない。私は晴彦と一緒にいたい。今も、これからも、ずっと一緒に。そのためならなんだってする。なんだってできる。でも、本当にそれでいいの? それでもし晴彦に選ばれたとして、私は本当に胸張っていられる?)
それはもはや答えのでない泥沼の様相を呈していた。
「結局、私はどうしたいの?」
様々な想いが再び頭の中を巡り始めたその時だった。
「零音」
「っ、雷華ちゃん?」
気付けばそこに雷華が立っていた。
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