第27話 ゴールデンウィーク 雪 前編
色んな作品を読めば読むほど、自分の至らなさに気付く今日この頃。
でもだからこその楽しさもあるんですけどね。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
昨日の大雨が嘘のような晴天の中、俺は雪さんを待って駅前に立っていた。
「……はぁ」
でも、頭の中は別のことでいっぱいだった。
昨日の零音の言葉。
『私が、彼女になってあげてもいいよ』
いきなりのことに頭が真っ白になった俺は何も答えられなかった。
そして返事をする前に、沈黙に耐えかねた零音が部屋から出ていってしまった。
零音の好感度は『68』だ。まぁ、高いんだろうけど、きっとそれは恋愛感情じゃない。
だから零音が俺のことを心配して言ってくれたことは理解してる。それでも、あの言葉は正直びっくりした。
答えないといけないんだろうけど……。
「今朝も来なかったしな」
いつもなら来るはずの零音が今朝は来なかった。
まぁ、しょうがないんだろうけどさ。
俺が答えられなかった理由は、驚いていたということ以外にももう一つある。
それが、好感度ゲージのことだ。これは雪さんにも話さなかったから知らないんだろうけど、夜野の彼女を作らないと殺されるという言葉は、好感度ゲージありきだと思う。
つまり、好感度が足りないと彼女にしても意味がないかもしれないのだ。
「零音を彼女にしてから、好感度を上げればいい。でも、それは違うだろ」
俺は自分のことがわからない。誰かを好きになると言うのがどういうことなのかがよくわかってない。
俺に好きな人がいたなら、その人を彼女にしたいと思って頑張れたのかもしれないけど。自分が生きるために誰かの好感度を稼ぐと言うのは違う気がする。
それは相手にとって不誠実だ。
好きな人を見つける……俺はまずそこから始めないといけないんだろうな。
「まぁ、俺と関係がある女子なんてそれこそ少ないけどさ」
それこそ、零音とか雪さんとか昼ヶ谷先輩、あとは井上さんぐらいか。
夜野は零音と雪さんと昼ヶ谷先輩が俺の運命の人だなんて言ってたけど、正直俺にはもったいないくらいの人たちだ。井上さんもすごくいい人だし……ダメだ。考えてもらちがあかない。
やっぱりもう一度夜野を探さないとな。どこにいるかなんてわからないけどさ。
「おーい、ハルっち!」
遠くから雪さんが走り寄ってくるのが見えて、俺は考え事を中断する。
「おはよ、雪さん」
「おはよーって、もうお昼過ぎてるけどね。ごめんね、遅れちゃって」
「いや、全然気にしてないよ」
「ナンパされちゃってさ。断るのに時間かかっちゃって」
「大丈夫なのか?」
「慣れてるからねー。慣れたくないけどさ」
確かに、雪さんは美少女だ。声を掛ける人は多いのかもしれない。
「まぁ、とりあえずそれはいいの。今日はありがとね」
「いや、それはいいんだけどさ。今日は何するの?」
前に学校帰りに一緒に出掛けた時はショッピングモールでぶらぶらして、その後にご飯食べたりしたけど……今日もそんな感じなのかな。
「今日はねー……なんと!」
「なんと?」
「アタシの家に来てもらいます!」
「え? えええ!」
「そんなに驚くこと?」
「だって、前に男は家に呼べないみたいなこと言ってたし」
「あぁ、あれね。確かにパパがうるさいのはホントなんだけど……今日はママにパパを連れ出してもらったから大丈夫なの」
「それってつまり家に誰もいないってことじゃ……」
「そうだけど。あ、もしかしてハルっち、何か変な想像したでしょ」
ニヤニヤと笑いながら言う雪さん。
「そ、そんなわけないだろ」
何も考えなかったといったら嘘になるけど、さすがにそこまでの度胸はないし、そんなつもりもない。
すると、雪さんが唐突に妖艶な雰囲気を醸し出して言う。
「アタシは……いいよ。晴彦だったら」
「雪……さん?」
「ねぇ、晴彦はアタシにどんなことがしたいの?」
「…………」
「恥ずかしがらずに、教えて?」
「……雪さん。変な嘘はやめてくれ」
「あ、バレた? やっぱりアタシには無理があったかー」
先ほどの妖艶さが嘘のように消え去り、いつもの明るい雰囲気に戻る。
さすがにわかる。でも、ちょっとドキッとしたのは秘密だ。
嘘だとわかっていてもあの顔は破壊力がある。
「ハルっちにはレイちゃんがいるもんね」
「いや、俺と零音はそんな関係じゃ……」
雪さんが零音の名前を出したことで、つい昨日のことを思い出してしまう。
「どうかした?」
「いや、まぁ……昨日いろいろあってさ」
「ふーん……まぁ、とりあえず移動しよっか。途中で話聞くからさ」
歩き出した雪さんの後をついて行く。
雪さんの家は学校から三駅ほど離れた場所にあるらしい。
三駅先って、確か高級住宅街だったような気がするんだけど。
「それで、何があったの?」
電車に乗るとさっそく雪さんが聞いてくる。
「うーん、その、なんというか」
「もう、男らしくはっきりいいなよ!」
「単純に言うと、彼女になってもいいよって言われた」
「……は!? え、ちょっとそれどういうこと!」
「雪さん、声大きいって」
「ご、ごめん。でもさ、え、どういうこと?」
「ほら、この間雪さんに話しただろ」
「話したって……あぁ、あれか。あー、なるほど、そういうことね」
雪さんが呆れたように息を吐く。
「もう、驚いたじゃん」
「ごめんごめん」
「でも……そっか。何て答えたの?」
「……答えてない」
「えぇ!」
「だから雪さん、声が大きいって」
「いや、だってさ……」
「彼女ができなかったら殺されるって話だったけどさ、じゃあ彼女ができたら解決するのかっていうと違う気がするんだよ」
この辺は完全にそう思うってだけだけどさ。彼女が出来たら殺されないのか、いつまで彼女でいてもらわないといけないのか。それすらわかってないんだ。もしかしたら卒業するまで彼女でいてもらわないといけないかもしれない。
安易に答えるわけにはいかないだろう。
「そっか。まぁ、ハルっちがそれでいいならアタシは何にも言わないけどさ」
「まぁ、零音にはちゃんと言うさ。俺のこと心配して言ってくれただけだと思うしさ」
「……それだけじゃない気がするけど」
「え? 何か言ったか?」
「なんでもないよ。それよりも着いたから行こ」
何か言った気がしたんだけど……気のせいだったのかな。
「こっから少し歩くよ」
雪さんの家に近づくにつれて、どんどんと家の雰囲気が変わってくる。
大きい家ばっかりっていうか、やっぱり高級住宅街なんだ。
「びっくりした? アタシって実は結構いいとこに住んでるんだよ」
「びっくりしたけど、なんとなくそうだろうなって感じはするよ」
「そう?」
「雪さんって見た目だけならお嬢様っぽいし」
「え、ホントにー? ってちょっと! 見た目だけってどういうこと!」
「ごめんごめん、冗談だって」
「もう、冗談でも言っていいことと悪いことはあるんだからね」
そうこうしているうちに雪さんの家に着いた。
「ここがアタシの家だよ」
三階建ての真っ白な大きな家。
俺の家よりもずっと大きいし、広い家だ。
「先輩の家見た後だと小さく見えるかもしんないけどね」
「いや、そんなこと……はあるかもだけど、十分大きいって」
「そう言ってくれると嬉しいな。あ、そうだこっち来て」
雪さんに連れられて庭の方に行くと、そこには大きな犬がいた。ゴールデンレトリバーだろうか。
「ただいまーネージュ。アタシの友達連れて来たよー」
「わふ!」
「あはは! くすぐったいって」
寝ていた犬が起き上がり、雪さんのことを舐める。
正直羨ましい。
「この子がうちの家の犬で、ネージュって言うの」
「ネージュか。かっこいいな。俺は犬とか飼ったことないし、羨ましいよ」
「大変なことも多いけどね。よし、紹介終了。それじゃあらためて入ろっか」
「お邪魔します」
こうして俺は雪さんの家にたどり着いたのだった。
ゴールデンウィーク雪編ということで、雪ちゃんのことについて掘り下げていけたらいいなと思ってます。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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また次回もよろしくお願いします。
次回投稿は9月5日21時を予定しています。