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第165話 告げる想い

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

「うーん、風が気持ちいねー」

「……えぇ、そうですわね」


 屋上へと出た零音が、吹く風の心地よさに目を細める。確かに零音の言う通り屋上に吹く風は強すぎず、非常に心地よいレベルのものだった。


「あ、でもなんかちょっと天気悪くなってきてるね。うーん、雨降るかなぁ。さすがにまだ大丈夫かな? まぁでも、雨降ってきても一応置き傘はあるから大丈夫かなって感じだけど。ヒメは持ってきてる?」

「えぇ、一応。ですが午後の降水確率はそれほど高くなかったはずですが」

「そうなんだけどね。でもさ、天気予報って急に外れるっていうか。低い確率の時ほど怖いっていうか。私って結構心配性なんだよね」

「気持ちはわかりますけど」

「だよねー。逆にハル君ってさ、降水確率70%とかでも降ってなかったら傘もっていかないんだよ。だからそういう時はいつも私が余分に傘持って行く羽目になって大変なんだから。何回も言ってるのに直してくれないんだよ」

「まぁ、そうですのね。少し意外な気もしますけど」

「ハル君はねぇ、結構ズボラだよ。部屋の掃除とか、言わないとなかなかやらないし。そんなにめちゃくちゃ散らかすわけでもないけど。散らかしてる部屋の中でぐだーって」

「ふふっ」


 部屋の中でだらけている晴彦の姿を想像し、姫愛は思わず頬を緩ませる。


「そんな風にズボラなところもあるからテスト勉強とかも手を抜いちゃうんだろうけど。まぁ今回はヒメのおかげもあってそれなりに頑張ったみたいだけど」

「いえ、私はほとんど何もしてませんわ。零音さんと日向さんの頑張りがあってこそでしょう」

「謙遜しなくてもいいのに。私だけじゃ絶対ハル君勉強しなかったと思うし。ヒメはテストどうだった? 手応えある?」

「そうですわね。この学校に来て初めてのテストでしたけど……とくに問題はなかったかと。完璧かと問われると疑問ですけれど。普通にできた、というものですわ」

「ヒメの普通ってかなり高得点っぽいけど」

「そういう零音さんはどうですの?」

「私はまぁまぁかな。今回はハル君のテスト勉強見てたのもあって、いつもより勉強したからそれなりに取れた気はするけど。でもまぁそれなり止まりかなぁ」

「それも謙遜なのではないかと疑ってしまうのですが」

「ふふ、こういうのってどうしてもねぇ。テスト返却されるまではどうしても保険を張りたくなるっていうか」

「その気持ちはわかりますわ」

「ヒメもわかるんだ。それは意外かなぁ」

「そんなことありませんわ。私もあなたと何も変わらない、ただの一介の女性徒ですもの」

「そっかぁ」


 他愛のない会話が続く。

 今ならまだ引き返せるかもしれない、そんなありもしない可能性が姫愛の脳裏を過るなか……先に踏み込んで来たのは零音だった。


「で、そんな姫愛が私に話って何なのかなぁ」


 その瞬間、周囲の気温が氷点下まで落ちたのではないかと錯覚するほどの寒気を姫愛は覚えた。

 別に零音の話し方が変わったわけじゃない。しかし、纏う雰囲気は一変していた。同一人物かと疑ってしまうほどに。


「っ……」

「どうしたの? そんな驚いたような顔してさ。私何か言ったかな? 変なことは言ってないと思うんだけど」


 話し方はいつもの穏やかな零音そのもの。しかし、纏う雰囲気から伝わるのは隠しようもない闇だ。

 だが、ここまで来て逃げるわけにもいかない。屋上の出口はすぐそこ。扉は閉まらずに開いている。その場から逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せる。

 今なら逃げることができる。そんな気持ちをグッと堪えて姫愛は零音のことを真っすぐに見据えた。

 その真剣な眼差しを零音は正面から受け止める。しかし、笑顔を浮かべている零音の目は決して笑ってはいなかった。


「そっか……やっぱりそうだよね」


 あるいはそれは、零音が姫愛に与えた最後のチャンスだったのかもしれない。

 この場で姫愛が零音に恐れをなして引き返せば、まだ無かったことにできたかもしれないと。しかしそれがあり得ない望みであることは零音が誰よりもよくわかっていた。

 そんな零音や姫愛の複雑な胸中を現すように、晴れていた空に少しずつ雲が広がっていく。


「はぁ、しょうがないなぁ。いいよ、聞いてあげる」

「えぇ、ありがとうございます」

「できれば聞きたくないんだけどね。そういうわけにもいかなさそうだし」

「そうですわね。ここまで来たのならもう私も引くつもりはありませんわ」


 バクバクと脈打つ心臓の鼓動。何かが変わってしまうことを確信しながら、それでも姫愛は何度も深呼吸をして、零音に向けて切り出した。

 己の中にずっと秘め続けていた、晴彦への想いを。


「私……日向さんのことが好きですわ。友人としてだけではなく、異性として」


 ついに言ってしまった想い。

 姫愛は真剣に、零音に向けてその言葉を口にした。


「……して……」

「え?」


 その瞬間だった。零音の顔から表情が消えたのは。


「どうして……あなたまで晴彦を好きになっちゃうの?」

「っぅ……!」


 零音の瞳を見た姫愛は思わずビクリと身を竦ませた。

 その瞳に浮かぶのは、どこまでも深い闇。零音の中に眠り続けていた狂気の片鱗が、姫愛の前に姿を現した。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月20日21時を予定しています。

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