第164話 運命の時
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
「はい、そこまでだ。全員ペンおけー」
最後のテストが終了したことを告げる鐘が鳴る。
「あー、やっと終わったー! 自由だー!」
「どうしよ、今回のテスト最悪だー。お小遣い下げられるー」
「明日からやっと部活だー!」
テストの終わった解放感に浸る者。テストの出来に一喜一憂する者。
どんな形であれ、生徒達はテストが終わったことを喜んでいた。この後どうするか、どこに遊びに行こうか、テストが終わった途端さっきまで食らいつくようにテスト勉強していたとは思えないほどに、まるで教科書の存在など忘れてしまったかのように浮かれきっている。
そんな中にあって、他の生徒達とは違う面持ちの生徒がいた。
それは姫愛だ。
平静を装いながらも、どこか緊張を隠しきれていなかった。
「さっきまで平気だったのに。まさか今さらになってまた緊張し始めるなんて」
そんな自分の情けなさを姫愛は自嘲する。
どう足掻いても、この後のやり取りで大きく変化してしまうであろう関係。それを心のどこかで姫愛は恐れているのだ。
「いいえ、前に進むと決めたんです。今さら怖気づくなんて許されるはずがありませんわ」
気付けば担任が教壇に立ち、帰りのホームルームを始めている。
明日以降の連絡事項について話していたり、テストが終わったからといって油断しないようにという注意であったり、様々なことを離していたが、そのどれも姫愛の耳にはほとんど入っていなかった。
頭にあるのはこの後のことばかりだ。
「……ふぅ」
息を吐いて気持ちを落ち着ける姫愛。それは気休め程度のものでしかなかったが、それでもその気休めが今の姫愛には必要だった。
そして、どんなに恐れていたとしても、その時が来るのを拒んだとしても。時の流れは止まることなく、その時がやって来る。
「はい、それじゃあみんなお疲れ様。委員長、号令して」
「起立、気を付け、礼」
委員長の号令とともにホームルームは終わりをつげ、解放される。帰りの挨拶とほとんど同時に鞄を持って教室を出て行く生徒達。
そんな中で、姫愛の視線は零音の方にだけ向いていた。
そして時をほとんど同じくして、零音もまた姫愛の方に視線を送る。
二人の視線が絡んだのはほとんど一瞬。しかし、意思を交わすにはそれだけで十分だった。
「それじゃあハル君、今朝言った通り今日は先に帰っててね」
「あぁ、わかった。用事って奴だろ。何するかってのは教えてくれないんだろ?」
「うん。だって女の子同士の秘密ってやつだからね。男の子であるハル君には踏み入る資格はありません」
「はいはい。わかってるよ」
教室に残っているのは零音と晴彦、そして姫愛の三人だけになっていた。
「東雲さんもテストお疲れ様」
「えぇ、お疲れ様ですわ。テストの首尾はどうでして?」
「まぁまぁって感じかな。でも、二人のおかげでいつもよりはいい点数が取れたと思うよ」
「そうでしたか。でしたら私も手伝った甲斐があったというものです」
「ま、実際はテストが返ってきて次第だけどな。二人はこの後なんか用事あるんだろ? それじゃあまた週明けに」
「さようなら、お疲れ様でした」
この後零音と姫愛が何の話をするか知らない晴彦はそれだけ言うとさっさと教室から出ていく。その足取りが少し軽いのは、やはりテストが終わったという解放感からだろう。
そんな晴彦のことを呼び止めたくなる衝動をグッと堪えて、姫愛は晴彦が完全にいなくなるのを待ってから鞄を持って立ち上がる。
それを合図とするかのように、零音も鞄を持って立ち上がりゆっくり姫愛に近づいて来る。その顔に浮かぶのは姫愛とは対照的な、いつもの笑み。
「お待たせヒメ。それじゃあ行こっか」
「……えぇ」
若干声が固くなっているのを感じながら、姫愛は零音の後に続いて歩き出す。向かう先は下駄箱ではなく屋上だ。
「行きましょう」
そして、零音と姫愛は屋上へと向かった。
そんな二人の姿を廊下の隅から見つめている人物がいることに気づかないままに。
「……ま、あたしも一応見届けるくらいはするべきなのかな。どんな結末になるにせよ」
いよいよ過去編も佳境へ。
零音と姫愛が決別した、その時の話となります。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は3月6日21時となります。




