第26話 ゴールデンウィーク 零音 後編
これから投稿時間が安定しないかもしれませんが、9時か21時に投稿できるようにしたいと思っています。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
お昼ご飯を食べ終わった後、俺達は再びゲームをしていた。
「あ、ハル君。エイリアンそっちに行ったよ」
「おう、わかった。じゃあこっちに罠仕掛けとくよ」
「捕獲しよ、捕獲」
「捕獲かー。まぁいいか。それで行こう」
「やった。それじゃ頑張ろう」
今やっているゲームは『エイリアンハンター』だ。
宇宙から侵攻してきた様々なエイリアンを狩ったり、捕獲したり、仲間にしたりして戦うゲームだ。
捕獲したエイリアンは調教することでオトモにすることができる。オトモとなったエイリアンはデフォルメされて、その姿が可愛いということで有名なのだ。案の定、零音も気に入ったみたいだし。
「このゲームだと対戦しなくていいし、楽だと思ったんだけど……思った以上にハマったみただな」
「ん? どうかした?」
「なんでもないよ。それよりも早くしないと——って、あれ雨降ってたのか」
「え、ホントに?」
ゲームを一時中断して、外の様子を確認する。
「あ、どうしよ。二階の窓開けっぱなしだ。閉めてこないと」
零音が立ち上がり、窓を閉めに行こうとしたその時、外が光り、少し遅れて轟音が鳴り響く。
「きゃっ!」
その音を聞いた瞬間、零音がその場にうずくまる。
「うわ、すごい音だな。っておい、零音どうしたんだよ。大丈夫か?」
「か、かみなり……」
顔を真っ青にして震えている零音。こんな姿を見るのは初めて……あ、いや違うか。そういえば昔も雷の時にこんなことがあったっけ。
しょうがない、俺が行くか。
「あぁ、そういえば苦手だっけ雷。じゃあ俺が閉めてくるよ」
「だ、だめ!」
「え、でも雨が」
「お願い、ひ、一人にしないで……」
俺の腕を掴んで話そうとしない零音。
うーん、閉めたほうがいいんだろうけど……この状態の零音をほっとけないか。
「わかった。わかったよ」
零音と一緒にソファに移動すると、零音がその体を寄せてくる。
本人は怖がってて気づいてないんだろうけど、胸とかが当たってる。
あんまり意識してなかったけど、零音って意外に胸が大き……じゃない、ダメだ。意識するな。意識しちゃだめだ。目をつむって。精神を統一するんだ。
ってダメだ―! 目を閉じてると余計に体の柔らかさに意識が奪われる!
「あ、あの零音? ちょっと離れて……」
やんわり引き離そうとすると、零音がブンブンと首を振って、余計にくっついてくる。
「ですよねー」
外では雷の音が鳴り響く中、部屋の中は静寂に包まれていた。
うーん、どうしたもんかな。
昔から苦手だったのは知ってたけど、ここまでだったとはな。
「ご、ごめんね」
「いいよ別に。零音が俺の事頼るのも珍しいしな」
「そんなことないよ」
「そうか?」
「うん、昔からずっと、私は頼りにしてるから」
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これはまだ私が小さかった時の話。
その日、私は家の留守番をしていた。
この世界ではまだ六歳という年齢だったけど、元の世界で生きてきた時間も含めれば十分に精神的には大人だ。留守番くらいわけはない。
そう思ってたんだけど……
「あめだ……」
天気予報ではそんなに降水確率は高くなかったはずなのに。
「まぁいいや。テレビでもみてよっと」
ソファに座ってテレビを見ていると、遠くからゴロゴロという音が聞こえてくる。
「え……もしかして、か、かみなり……」
いや、大丈夫だ。いくら雷が苦手だっていっても、もう克服できたはず。
だって、いくら体が小さくても、精神は……。
瞬間、外がピカッと光り、ドォーンという轟音と共に、部屋の電気が消える。
「ひゃっ」
頭が真っ白になる。
やっぱりダメだ。この音が、光が、私の心をがんじがらめにして動けなくする。
トラウマが蘇る。
家に一人で、お父さんもお母さんもいなくて……心が削られていく。
「お、おかあさん、おとうさん」
涙が滲んでくる。ソファの上で動けなくなる。
何も考えられない。嫌だ、嫌だ。一人は嫌だ。一人になりたくない。
お願い、誰か……私の、オレのそばに……。
精神の糸が、切れそうになる。
「おぉーい、れいねー。いるかー?」
「…………え」
家の玄関が開く音がして、誰かが入ってくる。
「あ、やっぱいるじゃんか。へんじしろよー」
「は、ハル……くん」
「かあさんが見てこいってうるさくてさー、っておい、どうしたんだよ!」
泣いてる私をみた晴彦が走り寄ってくる。
「どうしたんだ、どっか痛いのか?」
「ち、ちが……かみなり」
「かみなり? もしかしてこわいのか?」
小さくうなずくと、晴彦が近づいて来て、私の手を握る。
「え?」
「じゃあ、おれが手をにぎってやるよ。そしたらこわくないだろ」
「あ……」
気付けば、体の震えが止まっている。
晴彦は私の手を握ったまま、隣に座る。
「かあさんが言ってたんだ。こわがってる子がいたら、手をにぎってあげなさいって」
晴彦の手から伝わる温もりが、私は一人じゃないということを伝えてくれる。
「……ありがと」
なんだか恥ずかしくなって、晴彦から顔をそむける。
「でも知らなかったなー。れいねにもこわいものがあるなんて」
「どういうこと、それ」
「だっていつもしっかりしてるから」
まぁ、そういうのはあるかもしれない。精神年齢が違うし。周りの子供がふざけてたら止めるのは私の役目だった。
「だかられいねも、いつでもおれにたよってくれていいからな!」
その晴彦の笑顔に、固まっていた心が溶かされていくような気がした。
「……うん」
あの日感じた手の温もりを、私は今でもまだ覚えている。
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ふと、目を覚ますと目の前に晴彦の姿があった。
あれ、もしかして私寝ちゃってたのかな。
「あ、やっと起きたか。もう雷は鳴ってないぞ」
「そういえば」
あれだけ聞こえていた雷鳴が全く聞こえなくなっている。
雨も止んでるみたいだ。
「ほんとだ」
「あのー、だからさ、手、離してくれるか?」
「え?」
ふと手を見ると、私は晴彦の手を握っていた。
それはもう、しっかりと握っていた。
「あ、あ……ごめんね!」
急に恥ずかしくなって、晴彦の手を放す。
「あ、暑かったでしょ」
「いや、そんなに気にならなかったけど……」
晴彦が、何かを思い出したかのように笑いだす。
「ど、どうしたの?」
「いや、昔にもこんなことあったなーって思ってさ」
それはちょうど、私がさっき見ていた夢と同じ内容だった。
「お、覚えてたの?」
「そりゃなー。珍しく零音が泣いてたことだったし」
「それは忘れてっ!」
「悪い悪い。でもさ、あの時も言ったけどもっと俺のこと頼ってくれていいんだぞ? いつも俺が頼ってばっかだしな」
あの時と同じような笑顔で、晴彦が私にそう言う。
ほんとに……晴彦は昔から変わらないな。
確かに晴彦は昔から私を頼ってくれてるかもしれない。でも違う。ほんとに頼って欲しい所で晴彦は絶対に頼ってくれないんだ。
「じゃあ、私にも頼ってよ」
「だからいつも頼ってるって」
「そうじゃない」
「え?」
「いつも、ほんとに頼ってほしい所では頼ってくれないじゃない」
「それは……」
「ハル君が何を悩んでるか、雪ちゃんから聞いたよ」
「…………」
「どうして、話してくれなかったの? 私は……頼りない?」
「そうじゃない!」
「私は、ハル君の言うことなら信じるよ。たとえ、明日世界が滅ぶって言ったって、それが本気なら私は信じる」
「……ごめん」
「今度からは、ちゃんと教えてね」
「……わかったよ」
ジッと見つめていると、とうとう晴彦が折れる。
「零音も変なとこで頑固だよな」
「そんなことないよ……それで、どうするの?」
「どうするって、何が?」
「その……彼女、作らないといけないんでしょ」
「あー、そうだけど。こればっかりはなー。なるようにしか——」
「私が」
心臓がバクバクしてる。
今から自分が何を言おうとしてるのか、そのことを理解しているから。
シナリオも何も無い。
これが先にどう影響するかなんてわからない。
それでも、今言わないといけないんだ。
意を決して、私は口を開く。
「私が、ハル君の彼女になってあげてもいいよ」
雷って怖いですよね。苦手な人はホントに苦手だと思います。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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次回投稿は9月4日21時を予定しています。