表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
339/353

第162話 姫愛と咲乃

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 それから数日間、何事もなかったかのようにテストを受けていた姫愛だったが、正直その最中は気が気ではなかった。

 一日終わるごとに、確実に近づいて来るその日にいやおうなしに緊張は高まっていく。

 しかし、一方で零音はといえば、いつもと同じように、いや、いつも以上に普通だった。

 晴彦に勉強を教え、変わらぬ様子で姫愛にも話しかけてくる。

 まるで約束のことなど忘れてしまったかのように。

 だからといって約束のことを蒸し返す気にもならなかった。


「……はぁ。さすがに今からもう一度話す気にはなれませんわね」


 深くため息を吐くと、そんな姫愛に近づいて来る人影があった。


「ずいぶん疲れてんじゃん」

「あなたは……波月……さん?」


 そこに立っていたのは波月咲乃。

 クラスでも若干孤立してる、素行の良いとは言えない生徒だ。

 最初に話しかけられた日から今日に至るまで、話しかけられたこともなかった。そして姫愛自身も咲乃に直接話しかけるようなことはしなかった。

 だから咲乃がどんな人物であるのかということについて、姫愛はほとんど知らないと言っても過言ではない。

 ただ一つ、最初に言われた言葉だけが楔のように姫愛の心に残り続けていた。


『朝道零音に近づくな』


 言われた時はわからなかった言葉の意味。

 しかし今となっては、その言葉の真意に姫愛は近づきつつある。


「あ、覚えててくれた? そ、波月咲乃。別に覚えてもらおうと思ってたわけじゃなかったんだけど。ま、クラスメイトだし覚えてても不思議じゃないか」

「クラスメイトの片の名前は全員きちんと把握していますわ。苗字も名前も」

「さっすが優等生。ちゃんとしてるねぇ」

「そういうあなたは……あまり素行が良いとは言えないみたいですけれど」

「それを言われるとさすがに耳が痛いけど。ま、テストでそれなりの成績残してたら文句言われないからいいんだけどね」


 思っていた以上に友好的な態度に逆に姫愛は構えてしまう。

 なぜこのタイミングで再び声を掛けてきたのか、そして何を考えているのか。

 それが全くわからないからだ。


「そんな警戒しなくても良くない? 前に言った気がするけど。アタシ結構や優しいって」

「そういえば……そんなことも言ってましたわね」

「今日は一緒に帰らなかったんだ。あの二人と」

「……今日は少し予定がありましたの」

「嘘だね」

「っ!」

「一緒に帰りたくない理由がある。ま、だいたい想像はつくけど。つまるところ、アタシの忠告は見事に、しかも最悪の方向に無視してくれちゃったわけだ」

「そんなこと……」

「アタシ言ったよね。朝道零音には近づくなって。どうして聞かなかったの?」

「そんなこと……それだけ言われて、はいわかりましたわ、なんて言えるわけありませんもの」

「それもそうか。ましてやアタシは初対面だったわけだし。でもねぇ、ちょっと接すればあの女の危ない所はわかったと思うんだけど。それすら気付かなかったって?」

「零音さんは危険な人などではありませんわ。訂正してください」

「おぉこわ。でもさ、嘘は良くないよ嘘は。危険な人ではない……じゃなくて、危険な人じゃないと思い込もうとしてる。そんな感じじゃない?」

「…………」


 その言葉を姫愛は否定できなかった。

 ずっと目を逸らしていたこと。どこか兆候を感じつつも、姫愛はそれを見ないようにし続けていたのだから。


「わかるけどね。その気持ちも。で、今やっとそれと向き合う気になったわけだ。だからこそこうしてアタシとも話してる。正直遅すぎるけどさ」

「……私が彼女の都合の良い所ばかり見ようとしていたことは否定しませんわ。事実ですもの」


 都合の良いところだけを見る。そうすれば非常に簡単だった。

 心の平穏を保ちつつ、友人関係を築けるのだから。そしてそうしたいと思うだけの魅力が零音にはあった。


「でも、だからこそ私は今度こそ彼女ときちんと向き合わなければいけないのです。この心に宿る想いに準じるだめにも」

「ふーん……」

「そうしなければ私は彼女の友人を名乗ることも……この想いを告げることすら許されない」


 それが偽らざる姫愛の気持ちだった。

 そんな姫愛の想いを聞いた咲乃は眩しいものを見るように目を細める。


「そっか……ま、別にどうでもいいけどね。アタシには関係ない話だし。ちょっと気になったから声かけただけ」

「は、はぁ……そうでしたの?」

「でも想像以上に眩しいね東雲って。どうりで朝道と合わないわけだ」

「合わない?」

「ううん、なんでも。気にしないで。頑張ればいいんじゃない? 微力ながら応援させてもらうからさぁ」

「ありがとう……ございます」

「別に礼を言われるようなことじゃないけどね。でもできれば……上手くいって欲しいなって思ってるよ。んじゃね。さっさと帰って一夜漬けしないと。明日でテストも終わりだし」

「あ、波月さん……」


 姫愛が声をかけても咲乃は振り返ることなく、さっさと教室から出て行ってしまう。


「えぇ、今度はちゃんと……向き合ってみせますわ」




 そして翌日、テスト最終日。

零音と姫愛にとって運命の日がやって来た。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります。

Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は2月6日21時を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ