第160話 終わりの始まり
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しい
「……ふぅ」
姫愛は勉強する手を止めて壁にかけられた時計へと目を向ける。
「あ……もうこんな時間でしたか」
気付けば時計の時刻は深夜を指し示していた。
夕食後から勉強を始めて、気付けばこんな時間になっていた。
「思った以上に勉強に身が入りましたわね」
机の上に並べられた教科書を見て姫愛は小さく息を吐き、背伸びする。
「うーん……さすがにずっと同じ姿勢のままでは疲れますわね」
勉強している間は感じていなかった疲れが今になってどっと押し寄せてくる。
「さすがに今日はここまでですわね。これ以上勉強しても覚えきれないでしょうし。それにしても不思議ですわね。普通に勉強して終わらせるつもりでしたのに」
授業の予習と復習だけして終わるはずだった勉強は気付けばテスト範囲にまで伸びていた。
しかし、姫愛は普段から真面目に授業を受けて復習もしっかりしているので今さら焦って勉強する必要などさらさらない。
だというのに勉強したのは、たった一つの要因があったからに他ならない。
「やっぱり……日向さんの影響でしょうか」
勉強している途中にふと姫愛は思ったのだ。
このテスト範囲を晴彦はしっかり理解できているのだろうかと。
そして、自分はこの範囲を教える時、わかりやすく教えられるだろうかと。
そして気付けば教科書を手に勉強しながら、この部分を晴彦に教える時にどう教えようかと考えながら勉強を進めていた。
晴彦に教えることを想像しながらする勉強は想像以上に楽しくて、姫愛が思っていた以上にハマってしまったのだ。
「……誰かと一緒にテスト勉強したのなんて初めてでしたわね」
いつも一人で勉強していた姫愛にとって、誰かと一緒にする勉強というのは非常に楽しいものだった。
そして誰かに教えるというのは、一人で勉強する以上に理解力を必要とされた。
だからこそ姫愛はきちんと教えれるように勉強を重ねたのだ。
しかし、それだけが理由ではない。
「零音さんは……上手に教えてましたわね」
零音がやってきた後、姫愛は零音が晴彦に勉強を教えるのを見ていた。
そして気付いたのだ。零音の教え方の上手さに。
多少スパルタではあったものの、晴彦がどこで躓き、何を理解していないのか。
それを零音はしっかり理解していた。
もちろんそれは付き合いの長さからくる理解もあるのだろうが、それ以上に零音はおさえるべきところをしっかりおさえていた。
それがそのまま教える上手さに繋がっていたのだ。
そのことが姫愛は単純に悔しく、そして羨ましかった。
「羨ましいと思ってしまうのは……やはりそういうことなのでしょうか」
晴彦と一緒に勉強している時に感じた喜び、そして甘い疼き。晴彦が零音と一緒に勉強している時に感じた微かな羨望。
もはや姫愛の中にある感情は目の逸らしようがないほどに大きくなっていた。
今もそうだ。姫愛は勉強をしながら考えていた。晴彦のことを。
そして晴彦が零音と一緒に勉強しているかと思うと、胸の奥が締め付けられるように苦しくなった。
もうその感情から目を逸らすことはできなくなっていた。
「いえ、いっそ認めてしまうしかないでしょう。私は……あの人が、日向さんのことが……好きなんですね。これが……恋」
この日、姫愛はずっと目を逸らし続けていた感情へと目を向けた。
それが……全てを終わらせる始まりであるということに気づかないまま。
次回投稿が今年最後の投稿になるかもしれないです。
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次回投稿は12月26日21時を予定しています。




