第158話 心の棘
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零音は有言実行と言わんばかりに晴彦に勉強を叩き込んだ。
それはもう全力で叩き込んだ。傍で見ていた姫愛が思わず引いてしまうくらいの勢いで。
もはや勉強と言う名の苦行、拷問、地獄。色んな言葉が姫愛の脳裏を過り、周囲で勉強していた他の生徒達もあまりの零音の気迫に勉強する気力を奪われたほどだ。
そして、そんな零音のスパルタ詰め込み教育を受けている晴彦はといえば、当然無事で済むはずも無く。
抜け出そうになる魂をなんとか押し留めるので精一杯だった。
そんな勉強会は下校時間を過ぎ、家に戻ってからも続いた。
地獄のような勉強会。これまで真面目に勉強してこなかったことを心の底から後悔しつつ、それでも必死に喰らいついた。
なぜなら、そうしなければ勉強量がさらに増えてしまうから。一問間違えれば二問問題を増やされる。
だからこそ晴彦は意地になって問題を解き続けたのだ。
そして——。
「うん。とりあえず今日の勉強はここまでかな」
「い、いまなんて……」
「だから、今日の勉強はここまでだってば。もうすぐ日付変わっちゃうし。夜更かししてたら明日ハル君が起きれないでしょ?」
時刻は午後の十一時過ぎ、晴彦にとっては待ち望んでいた言葉が零音の口から放たれる。幼なじみという名の悪魔が天使に変わった瞬間である。
「やっと……やっと終わったぁ……」
「ふふ。そんなに疲れたの?」
「当たり前だろぉ。これで疲れないほうがどうかしてる……はぁ、やばい……なんか今までの勉強一気におさらいした気分」
「気分じゃなくて、おさらいしたんだよ。少なくとも数学はテスト範囲全部やったわけだし。でもよく覚えれたでしょ?」
「いやまぁ……それは確かに」
勉強は確かに辛かった。しかし、それ以上に零音の教え方は上手かった。晴彦の性格を理解し、どこが理解できていて、どこが理解できていないのか。
それは恐ろしいほど性格に把握していた。
だからこそ、すんなりと解けた部分には時間をかけずあっさりと、逆に普通なら簡単な所でも晴彦が苦手な部分なら必要以上に時間をかけて叩き込んだ。
そのおかげで晴彦は今の状態ならテストで満点が取れるのではないかと思うほどだった。
「はいこれ」
「? なんだこれ」
「復習用の冊子。ハル君の勉強見ながら苦手な部分はだいたい把握できたから。ここを中心に復習したら数学七十点は確実なはずだよ」
「お前、いつの間にこんなの」
「いつの間にって、勉強教えながらだけど」
「なんつー器用な」
ペラペラとページをめくれば、問題とその部分についての注釈が書かれていた。
恐ろしくわかりやすい、晴彦専用の問題集だ。
「ハル君の苦手は大体わかったからね。私だってハル君に七十点取らせるって宣言したんだからできることはするよ」
「その優しさは別のところに向けて欲しかった……」
やり方自体はスパルタだが、その裏にある優しさは本物だ。零音が作ってくれた問題集を見てもわかる。晴彦のことを想って作ってくれたのだと。
「っていうか、こんなことしててお前は大丈夫なのかよ」
「大丈夫って何が?」
「お前の勉強だよ。手伝ってくれるのは嬉しいけど、それでお前の方が疎かになったり」
「あははっ、それこそ大丈夫だよ。この程度で躓くような勉強はしてないし」
「……その言い方だと俺の立つ瀬がないんだが」
「あ、ごめんごめん。でも本当に大丈夫だから」
零音にとっては二回目の中学生活。つまり、この勉強をするのは二度目なのだ。
それも中学の範囲。できないはずが無かった。
(本気だしたらまぁ一位とかもとれるんだろうけど……そこまでする必要は感じないし)
『朝道零音』の体は男だった時以上に覚えが良かった。一度勉強すれば大概のことは頭に入る。
(便利な体といえば便利な体。ま、なんでも使いようってことかな)
「零音?」
「あ、ううん。なんでも。それにしても今日は少し飛ばし過ぎたから、明日からはもう少しペース落とそうか。最大の山場だった数学は終わったわけだし」
「明日……明日もか。いやまぁ、やるのはいいんだけどな。ペース落としてくれるって言うなら助かる」
「だからって手を抜いたりしたらスパルタに戻すけど」
「全力でやります!」
「ふふ、よろしい」
零音自身も理解はしているのだ。少し厳しめにやり過ぎたことは。
そしてその原因が、己の中にある醜い嫉妬心から来ていることも。
(……はぁ、なんで私は子供相手に嫉妬してるんだか。相手はゲームに登場すらしないモブ以下の存在。いくら綺麗で目立つ存在だからって、ゲームに出てこなかった以上晴彦と結ばれる未来なんてないのに)
頭ではそう理解していても、心で納得できていない。
(結局私もまだまだ子供……か。でも……本当にそれだけ?)
晴彦と姫愛が一緒にいて心がざわつくのはなぜなのか。
これまでの誰とも違う。別種の、どうしようもない苛立ちが零音を襲うのだ。
その原因が、零音にはわからない。
子供じみた嫉妬心。独占欲。様々な要因は思い浮かぶ。でもその先に何かもう一つある気がしてならないのだ。
零音自身が姫愛を忌避する要因が。
「零音?」
「え?」
「どうしたんだ? 急にボーっとして」
「私、ボーっとしてた?」
「してただろ思いっきり。やっぱりお前も疲れてるんじゃないのか?」
「……そうかも。今日はもう帰るね」
「あぁ。俺も疲れたし、そうした方が良い。そんじゃ、また明日な」
「うん、また明日。お休み」
「おう、お休み」
心の中に引っかかる棘のようなものを感じながら、零音は晴彦の部屋を後にした。
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次回投稿は12月12日21時を予定しています。




