第156話 基礎ができないは恥ずべきこと
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
放課後。姫愛は零音達と勉強するために図書室へとやって来ていた。
雨咲南中学校は公立の中学校にしては珍しく図書室が広い。内容も充実している。
姫愛も学校内でお気に入りの場所に一つで、暇があれば立ち入るようにしていた。
零音達は所用で少し遅くなると言うことで、姫愛は先に一人で図書室で時間を潰すことにしたのだ。
「勉強……まだ日にちはありますけど、いえ時間があるからこそ難しいものから片付けなければ。一番苦手なのは数学ですし、まずは数学から勉強するべきですわね」
「おいっす。お待たせ東雲さん」
「あ、日向さん。零音さんはどうしましたの?」
「あぁ。途中までは一緒だったんだけどな。先生に捕まって連れてかれたよ。またたぶん追加でなんか用事頼まれたんだろ。あいつそういうのよく頼まれてるし」
「まぁ大変ですわね。お手伝いしなくてよかったんですの?」
「手伝おうかって言ったんだけどな。東雲さんのこと待たせすぎるのもよくないから先に行って一緒に勉強しててくれってさ。だからこっち来たんだ」
「私に気を使わなくても大丈夫でしたのに」
「すぐ来るって言ってたし大丈夫だろ。それで……はぁ、勉強か……先生の手伝いも嫌だけどこっちも嫌なんだよなぁ」
「すごいため息ですわね……」
零音がいないのをいいことに明らかに大きくため息を吐く晴彦。
勉強があまり得意でない、むしろ嫌いな晴彦にとってテスト勉強というこの時間は非常に苦痛な時間だった。
「やらなきゃいけないのはわかってるんだけどな」
「でも楽しいですわよ勉強って。自分の知らないことを知れるのは大きな楽しみですし。歴史や古典は過去の人の考えを知って自分の考えを深めることもできますわ」
「そういう考え方できたら楽しくなるんだろうけどなー、どうしてもめんどくさいが先に出てきちゃうんだよな」
漫画にアニメにゲームなどなど、娯楽が非常に肥えている現代においてその誘惑を振り切って勉強に時間を費やすというのは難しいだろう。多くの生徒が晴彦と同じように勉強よりも娯楽に逃げてしまうのだ。
「それに勉強しなきゃなって時に限って掃除とか他のことしたくなったりするんだよ」
「うーん、私にはわからない感覚ですわね」
姫愛にとって勉強とはして当然のこと。娯楽というのはそれほど求めたことはない。
「東雲さんはそれでいいと思うよ。わからないならわからない方がいい感覚な気もするしな。それで、東雲さんは何の勉強しようとしてたんだ?」
「数学ですわ。今回の中で一番自信のない強化ですもの」
「東雲さんでも自信のない強化とかあるんだ」
「もちろんですわ。相対的に見て、という話ではありますけど。東雲家の者として情けない点数は取れませんもの」
「その考えがもうすげーよ。俺には真似できねー。でもそうだな。それじゃあ俺も数学勉強するか。わからないとこあったら教えてくださいってことで」
「えぇ、もちろんですわ。なんでも聞いてくださいな」
姫愛と晴彦は向かい合って座り、姫愛は数学の教科書を晴彦は数学のドリルを開いた。
そして数学の勉強を始めてすぐに、姫愛は晴彦の手が全く動いていないことに気づいた。
「どうしましたの?」
「……やべぇよ東雲さん」
「?」
「何がわからないのかすらわからない」
「えぇ……」
「最早問題文を見ることを頭が拒否してるレベル」
「それはさすがにいかがなものかと。えっと、何から始めようとしてますの?」
「とりあえず式の計算をしようかと思ってドリルを開いたんだけど」
「……あぁ、多項式の加法と減法ですわね。ここで詰まってるんですの?」
「恥ずかしながら」
「それは本当に恥じた方が良いと思いますわ」
「うぐっ」
さらっと容赦のないことを言う姫愛に晴彦は胸を抉られる。
「あ、ご、ごめんなさい! つい本音を」
「そこを謝らないでくれ。っていうかそれ謝ってるっていうか追い打ちだから」
「だ、大丈夫ですわ。解き方を忘れているだけですものね。すぐに思い出せますわ」
「その優しさが今はツラい……でもいいや、えっと、とりあえず解き方教えてくれるか?」
「わかりましたわ」
姫愛は優しく頷き、適当な問題を作る。
例 (x+2y)+(3x+y)
「この問題でしたら、そのままかっこを外して解くんですの。そして同類項……つまり、xはx同士、yはy同士で計算するんですわ」
「つまりこの場合だと……xと3x、2yとyで計算するってことか?」
「はい、それで正解ですわ。つまり答えは4x+3y、ということになりますわね。加法は簡単でしょう?」
「まぁ確かに言われてみれば。じゃあ減法も同じなのか?」
「いえ、こちらは少し違いますわ」
例 (x+2y)-(3x+y)
「さっきの+を-に変えただけ。ですけど答えは大きく違ってきますわ。重要な部分は引く式の各項の符号を変えてからかっこを外すということ」
「?」
「書いた方が早いですわね。つまりこの場合は引く式とは(3x+y)のことですわ。そしてかっこ内の符号を変える。この場合3xは-3xに。yは-yになるのですわ。これを式に変換するとx+2y-3x-y、ということになるのですわ。後は先ほどと同じ。この式を計算するだけです」
「じゃあ答えは……-2x+y?」
「正解ですわ。yの部分を-に変えるということを忘れて計算ミスしてしまうことが多いと思うので、そこを忘れないようにすることが大切ですわ」
「なるほど……」
「この部分は基礎でもありますし、しっかりと押さえておくべきですわね。基礎がしっかりできていないと応用もできませんわ。今日はこのあたりをしっかり勉強することにしましょう」
「そうだな。あ、でも俺の方は気にしなくてもいいぞ。東雲さんは自分の勉強してくれたら」
「それでは一人で勉強してるのと変わらないですわ。せっかくの機会ですし。教えさせてくださいな。それに、人に教えるというのもまた勉強ですわ」
「まぁ……東雲さんがそう言うなら。お言葉に甘えさせてもらうけど」
「はい。それでは次の問題を解いていきましょう」
そして、姫愛は晴彦のために次の問題を作り、基礎の部分についてみっちり叩き込むのだった。
晴彦は勉強ができないというより、勉強した矢先から全て忘れていくタイプです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!
Twitterのフォローなんかもしてくれると嬉しいです。
それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は11月14日21時を予定しています。




