第152話 本気のババ抜き
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
零音達がババ抜きを始めてからしばらく、何戦か終えルールを完全に把握した姫愛はいよいよ本気の勝負へ挑もうとしていた。
「それじゃあ東雲さんもルールはもう大丈夫そうだし、こっちもそろそろ本気だしていくよ! ババ抜きの本質。心理戦の幕開けだー!」
「ずいぶんやる気だなぁおい。ま、俺も手は抜かねぇけどな」
「心理戦。負けませんわ」
「ふっふっふ。みんなやる気は十分みたいだね。それじゃあこの戦いに負けたら……罰ゲームなんてどうかな?」
「罰ゲームですの?」
「うん、そういうのあった方がより本気になれるでしょ。内容はそうだなぁ……今自分が気になってる人を勝った人に教える。なんていうのはどうかな」
「えぇ!?」
「はぁ!? おい零音、お前ふざけんなよ!」
「二人とも勝つ自信がないっていうなら別にいいけど?」
「「っ!」」
零音の安い挑発に晴彦と姫愛は乗ってしまった。
「上等だ。その余裕ぶっ壊してやる」
「絶対に負けませんわ」
「ふふ。じゃあ決まりね」
二人が賛成の意を示したことで、零音は嬉しそうにニヤリと笑ってカードを配り始める。
零音が八枚。晴彦が八枚。姫愛が七枚という始まりとなった。そして、ジョーカーは零音の手に握られていた。
(運がない……わけでもないか。まだ最初だし。むしろ他の二人より情報のアドバンテージがある。ずっとこのまま持ってたら話は別だけど。早い所晴彦にジョーカーを引かせないと)
晴彦にジョーカーを引かせれば後は二人の顔色を伺うだけだ。
人の表情を読むことにかけては、零音は他の二人よりも自信があった。
「それじゃあ最初はさっき勝ったハル君からね」
「あぁ。む、くそ外れか」
「最初か
ら運がないねーハル君」
と、言いつつ。零音は内心で舌打ちしていた。晴彦が引いたのはジョーカーの隣だったからだ。
(もう少し横にずらしてたらジョーカーを引かせることができたのに)
「次は私ですわね……あら。私も外れですわ」
「二人とも外れ? とか言って、本当は今ハル君からジョーカーを引いてたりして」
「さぁ、それはどうでしょう」
(本当はこっちの手にあるんだけど)
「じゃあ次は私が……お、やった♪」
零音は手札が減ったことに嬉しそうな笑みを浮かべる。
手札が減るということは勝利に近づくと共に、晴彦がジョーカーを引く確率が上がるということだからだ。
それから二巡、三巡と回数を重ねた結果。零音の手札が四枚。晴彦が六枚。姫愛が五枚という結果になっていた。
しかし依然としてジョーカーは零音の手に握られたままだ。
(確率的には二十五%。そろそろ晴彦が引いてもおかしくないんだけど)
そして始まった四巡目。
「そろそろ手札を減らした——いっ!?」
「どうしましたの?」
「い、いや。なんでもただまた減らなかったからな。またかって思っただけだよ」
「そっかー。運がないねー、ハ・ル・君♪」
「このやろう……」
四巡目にしてとうとうジョーカーが移動した。こうなれば後は晴彦の様子を伺うだけだ。
零音が今まで何年晴彦のことを見て来たか。その表情を読むことは容易だった。
(まだ晴彦からジョーカーは移動してない。だから安心して引ける。後はこのまま勝つだけ)
そして四巡目が終わり、五巡目。ここでとうとう姫愛がリーチをかけた。
「あら、やりましたわ」
「あちゃー、東雲さん残り一枚かー」
「くそ」
そして、六巡目でいよいよ動きがあった。
「っ!」
姫愛がカードを引いた瞬間、晴彦の表情が僅かに動く。それを零音は見逃さなかった。
(ジョーカーが動いた)
ジョーカーが晴彦から姫愛の手に動いた。しかし、ここで初めて零音は危機感を抱いた。
姫愛の表情が驚くほど動かなかったからだ。
もし晴彦の表情が読み取れなければ、ジョーカーが移動したことに零音は気付けなかっただろう。
「ふふっ、どうしましたの朝道さん。さぁどうぞ」
「う、うん」
(まさか……今までのババ抜きは全部ブラフ!)
数回ババ抜きをした中で、姫愛の表情はかなり読みやすかった。だからこそ零音は安心していたのだが、それが間違いであるということにここで気付いた。
姫愛はこの本気の一戦のために、わざと表情を読みやすくしていたのだ。
(くっ……でも確率は二分の一。まだこっちの方が有利)
恐る恐る手を伸ばす零音。しかし、姫愛の表情は微塵も揺るがない。ともすればジョーカーを引いていないのではないかと思うほどだ。
(でもそれはあり得ない。確実にジョーカーは移動してる)
「それじゃあこっちを貰おうかな」
(っ! しまった!)
零音は二分の一の確立を外し、ジョーカーを引いてしまった。有利な状況から一転、不利な状況になってしまったのだ。
ここで晴彦にジョーカーを引かせられなければ零音の負けとなる。
「どうしたんだ?」
「ううん。なんでも。それじゃあどうぞハル君」
「おう」
(ここは一か八か……賭けに出る!)
「どっちが良い?」
零音は右手と左手に一枚ずつカードを持ち、晴彦に差し出す。
「ん? まぁそれじゃあ……こっちで」
晴彦がとったのは零音が左手に持ったカード。そして、零音が左手に握っていたのはジョーカーだった。
晴彦は近い距離のカードを取る癖がある。そして、右手でカードをとる晴彦にとって近いのは零音が左手に持つカード。そのカードを取る可能性に賭けたのだ。
そしてその賭けに零音は勝利した。
「よしっ」
「うげっ」
なんとか窮地を脱した零音だったが、ここが最後の勝負になると零音は踏んでいた。
ここまで来ればどこにジョーカーがあるかというのはもはやオープンな情報と同義だ。後はいかに早く上がるか。それだけだ。
「ここで私が日向さんからカードを引ければ、はれてクイーンになれるというわけですわね」
「クイーン? キングじゃなくて?」
「女ですもの。女王ですわ。さぁ引かせてもらいますわね」
姫愛は迷いなく晴彦の手札に手を伸ばす。ジョーカーなどまるで恐れていないかのように。
そして結果は——。
「あら、やりましたわ」
「くっそ、やられたか」
「私の勝ちですわね」
姫愛の最後の手札は十二のクイーン。
そこで零音は先ほどの言動の意味を理解した。
姫愛がクイーンの話をしたのはわざとだったのだ。そうすることで、晴彦の視線が一瞬手札のクイーンへ移動した。それを姫愛は見逃さなかったのだ。
つまり、全て仕組まれていたのだ。
「うぅ、やるね東雲さん」
「これでも、人を見るのは得意ですので」
「はぁ、完敗だね。でも、ハル君には負けないよ!」
「おう。俺だって負けねぇぞ」
残るは晴彦のみ。ここで晴彦からジョーカー以外を零音が引ければ勝ちだ。しかし、ここで晴彦が思いもよらぬことをした。
「よっしゃ、これでどうだ!」
「なっ!?」
見ずに伏せる。
すなわち、心理戦を捨てた完全運勝負。
どっちがジョーカーか晴彦すら知らないとなれば、表情を読むこともできない。
「うぅ、ずるいよハル君」
「うるせぇ! どうせお前のことだから俺の表情でも見てたんだろ。だったら俺だってこうしてやる。これで条件はイーブンだ。さぁ引け!」
「くぅ……」
確率は二分の一。今回は純粋な運。
晴彦は心理戦という大前提を捨て、恥も外聞もなく勝利を掴みに来たのだ。
「だったら、運で勝つまで!」
そして勝負の結果は——。
「よっしゃー!」
「うぅ、負けたー……」
ジョーカーを引いてしまった零音は、その後晴彦にジョーカーを引かせることができず、ビリとなってしまったのだった。
この話を書くためだけに友達と本気でババ抜きしました。
嘘です。逆ですね。友達と本気でババ抜きした結果この話を書きたくなっただけです。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。
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それではまた次回もよろしくお願いします!
次回投稿は10月17日21時を予定しています。




